人気芸人「ぼる塾」のメンバー4人によるリレーエッセイ連載。
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今回は、子煩悩な酒寄さんのターン!
受け止めなければならない事実に対して、小さい体で懸命に理解しようする酒寄さんの息子さん。その健気さが愛おしく、ほっこりするお話です。
「息子の成長」
皆さんこんにちは。ぼる塾の酒寄です。最近本当に1日1日があっという間に過ぎていきます。つい最近まで赤ちゃんだと思っていた息子も、もう3歳です。
今回はその息子の話をしたいと思います。
昨年の大晦日のことです。息子は『逃走中』というテレビ番組に大ハマりしました。『逃走中』を簡単に説明すると、逃走者がハンターから逃げる鬼ごっこです。限られたエリアの中でハンターから逃げた時間に応じて賞金が獲得でき、ゲーム時間内に最後まで逃げ切ることができれば高額賞金が手に入るというルールになっています。
3歳の息子に賞金獲得などの細かいルールはわからないようでしたが、サングラスにスーツ姿のちょっと怖い見た目のハンターから逃げる逃走者のみんなを「がんばれ〜逃げて〜」と、一所懸命応援していました。
番組が終った後も息子は「ハンター怖かったね!すごかったね!」と逃走中について熱く語っていました。
私「(こんなに気に入っているなら、途中からでも録画すればよかった)」
そう思っていると、見逃し配信でお馴染みのTVerで『逃走中』を視聴できることがわかり、息子は大喜びで『逃走中』を繰り返し観て喜んでいました。
息子が『逃走中』にハマったことで生活にも変化がありました。息子は公園などに遊びに行くと、帰るとき必ず「やだ!もうちょっといる~!」と、大騒ぎするのですが、『逃走中』にハマった後に、
私「もう遅いから帰ろう。最後の1回って約束したよ」
息子「やだ!もっと遊ぶ!」
私「…ねぇ、今ハンターいなかった?」
息子「…いた!」
私「いたよね!早く逃げなきゃ!ママは足が遅いから自転車で逃げよう!(『逃走中』ではみんな走って逃げます)ハンターが追いかけてこないか、自転車に乗って後ろから教えてくれる?」
息子「わかった!」
『逃走中』ごっこを始めると帰宅がスムーズになったのです。息子は自転車に乗りながらどんどん話を展開してくれます。(以下敬称略すみません。登場する方たちは年末の『逃走中』に逃走者として出演していた皆さんです)
息子「家に100体のハンターがいる!パパが捕まってる!」
私「大変!早く助けに行かなきゃ!」
息子「はじめしゃちょーとやまと(コムドット)も家に向かってる」
息子の脳内では100体のハンターが我が家で夫を捕らえており、イケメンたちが夫を助けに来てくれるという設定になっていました。
私「HIKAKINも来てくれるかな?」
息子「HIKAKINは来ない!HIKAKINは、まいばすけっとでお買い物してる!」
HIKAKINは来てくれないようでした。
息子「あ!今の車、はじめしゃちょー乗ってた!はじめしゃちょーは車で逃げてる!」
私「いや、車に乗るのはズルでしょ。はじめしゃちょーはそんなズルしないよ」
私は自分自身が今思いっきり自転車に乗ってズルをしているくせに真面目にコメントしてしまい、
息子「ママ駄目!ママやだ!」
と、怒られ、息子の言う通りだと思いました。
そんなふうに『逃走中』万々歳で過ごしていたのですが、私には少し気がかりなことがありました。
『逃走中』のTVer配信が終了したときに息子はどうなってしまうんだろう。
大人の私はTVerの配信が終わってしまっても「ああ、終わってしまったのか」といずれ終わるものだからと納得していたのですが、3歳の息子はそれで納得できるのか。
私は一応息子に「『逃走中』はずっと観られるわけではない」とやんわり言うようにしたのですが、現段階では『逃走中』は観られるので、それはラブラブ中のカップルに「いつか別れのときがくるかもよ」と言う嫌な女くらいにしか息子は捉えていないようでした。
『逃走中』のTVer配信が終わる前日。私はそのことを考えると眠れませんでした。
私「(どうしたらいいんだ…)」
3歳児に「TVerの配信が終わるからもう観ることはできない」と伝えることのなんと難しいことよ。田辺さんにも相談したところ、
田辺さん「マジ難しい!TVerフォーエバーならいいのにね」
と、ちょっとラッパーみたいな返事をくれました。私は考えても答えは出ないし眠ることもできないので、最近私の中で気になる存在の新選組を調べたり、疲れたら眠れるかもとシャドーボクシングをして夜更かしをしました。
そして運命のときがきました。
息子「『逃走中』観ようか」
TVerの配信が終了してから初めてのひと言。結局、私はこの瞬間までに新選組の内部事情に少し詳しくなっただけでした。
私「(息子は絶対にこれから悲しい思いをする)」
せめて、誠意をもって伝えよう。
私「あのね…『逃走中』はもう観られないの。『逃走中』はね、本当は最初の1回でおしまいだったの。でもね、たくさんの人たちをいっぱい楽しませるために、頑張って今まで楽しませてくれたの。そのお仕事をやり終わったの。だからね、お休みさせてあげよう(みたいなことを繰り返し言いました。何が正解かわかりません)。これからはママと一緒に『逃走中』いっぱいしよう!だから、今は『逃走中』にありがとうってバイバイしよう」
息子「…『逃走中』はもうない!『逃走中』はもう観れないの!」
息子は納得してくれたのか、トミカのおもちゃで遊び始めました。私がほっとして息子を見守っていると、彼はトミカで遊びながら言いました。
息子「『逃走中』…もう観れないの…」
大好きなトミカで遊んでいるのにいつもより元気がありません。やはりショックは大きいようでした。
息子「…もう観れない…観れない…眠い…眠くなっちゃった…」
私(今、息子は『逃走中』がもう観られない現実と一生懸命戦っている)
息子「じゃあ、違うの観る!」
息子は何か閃いたようでした。
私「そうだね!違うの観ようか!」
息子「じゃあ、『ゴールデンラヴィット!』観ようか!」
私「ごめん、『ゴールデンラヴィット!』も、もう観られないの」
『ゴールデンラヴィット!』も年末特番だった為にTVerの配信が終わっていました。
息子「…疲れた」
現実に耐えきれず、息子は静かに泣いていました。しかしひとしきり泣いた後は元気におままごとのマンゴーを切っていました。
今回の出来事は息子が自らの力で乗り切ってくれました。これからも私が誰かを助けたいと思うとき、それが本人の力でなくては乗り切ることができない場合、せめて誠意を込めて寄り添ってあげたいです。
あと、TVerには心から「いつもありがとう」とお礼を言いたいと思います。(酒寄)
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