人気芸人「ぼる塾」のメンバー4人によるリレーエッセイ連載。
10月13日(木)に当連載を1冊にまとめた書籍『思い、思われ、食べ、ぼる塾』(小学館刊)が発売決定!発売日初日には特別イベント開催もすることに。詳しくは下記の記事からチェックしてくださいね♪
今回は酒寄さんのターン。酒寄さんが溺愛する「蒙古タンメン中本」で起こった、常連さんならではの思いも寄らないアクシデントについて。「ある」と思っていたことが「ない」現実に対する絶望的な気持ち、きっとみなさんも深く共感できるはずです!
「中本の思い出」
皆さんこんにちは。ぼる塾の酒寄です。9月になると私の中ではもう秋に入るのですが、秋といえば激辛料理の似合う季節ですね。
突然ですが、皆さんは蒙古タンメン中本というお店を知っていますか?
蒙古タンメン中本は辛くておいしいラーメンのお店です。ハイレベルな激辛メニューがあるので激辛好きの間で人気があります。私も辛い物が大好きなので、田辺さんとまだコンビだった頃(ぼる塾はあんりちゃんとはるちゃんのコンビ『しんぼる』と田辺さんと私のコンビ『猫塾』が合体してできたカルテットです)からよく食べに行っていました。
今回は、その中本に関するちょっぴり切ない思い出を書こうと思います。
蒙古タンメン中本にはポイントカードがあるのですが、私はそのポイントをずっとコツコツと貯めていました。お笑いライブの仕事終わりに食べることが多かったので、私の中でポイント数=芸人としての経験値みたいになっていました。(ただ一日中遊んだだけの日に中本を食べてもらったポイントもたくさんありましたが)
中本に通い続ける日々の中、私は妊娠しました。妊婦に刺激物はよくないので、大好きだった辛いものも封印しました。予定日が近づいていたある日、私は蒙古タンメン中本のことを考えていました。
「(出産後は慌ただしくなるだろうし、前のように中本に行くことはできなくなるだろうな。今が食べるチャンスかもしれない)」
私は大きいお腹で中本に行き、体のことを考えてまったく辛くないラーメン(中本には辛くないラーメンもあります。それをメインにした新たな店を出してもいいんじゃないかってくらいおいしいです)を食べて、ポイントをもらいました。
私は目の前に置かれたラーメンに心の中で約束をしました。
『次に会うときは、お互いまた別の姿(私は出産後の体、ラーメンは辛いラーメン)で会いましょう』
そして出産後。私の予想通り、目まぐるしい日々に追われてなかなか中本に行くことはできませんでした。
しかし、あるとき偶然渋谷に行く用事ができました。それを知った家族が「たまには気分転換に中本に行ってはどうか?」と背中を押してくれて、久しぶりに中本に行くことができました。
「(おいしい!久しぶりの中本、泣けるほどおいしい!)」
最高でした。ずっと食べるのを夢見ていたので味のハードルはとても上がっていたのですが、余裕で超えてきました。中本はポイントカードを今までの紙の物からアプリでの管理に移行する期間だったらしく、私は運よく今までのポイントを消失せずに移行することにも成功しました。普段私は飲食店で店員さんに話しかけないのですが、
「(もし今日来ていなかったらポイント移行期間中に訪れることができず、集めていた全てのポイントを失っていたかもしれない…怖いっ!!)」
そう思うとぞっとし、ポイント移行のサポートをしてくれた店員さんにその気持ちを伝えました。
店員さん「よかったですね。これだけたくさんのポイントを失ったら悲しいですものね!」
店員さんは笑顔で私のアプリへのポイント移行を祝福してくれました。私は笑顔で帰路につきました。
しかし、事件は起きました。
日々の生活に追われながらも楽しく暮らしていたある日、私は何気なく中本のアプリを開きました。すると、どうでしょう。
全ポイントが消失していました。
私は自分の目を疑いました。
全ポイントが消失していました。
私はアプリが壊れたに違いないと慌てて確認したのですが、ポイントの有効期限切れが原因で0ポイントになっていました。きちんと説明を読むと、中本のポイントは最後にアプリにポイントを付与した日付から1年間が有効期限だったのですが、今まで1年間中本に行かなかったことなんてなかったので、私は有効期限があることを忘れていたのです。一度閉じて再びアプリを開いても、薄目で見ても、携帯電話を振ってみても、
全ポイントが消失していました。
これはどうしようもない事実です。私は「0ポイント」という文字を見ながら、ショックのあまり田辺さんに連絡を取りました。
私「田辺さん、蒙古タンメン中本ってあるでしょ」
田辺さん「最近行けてないわよね!また行きたいね!」
私「うん」
田辺さん「懐かしいね!トマトつけ麺!渋谷の!もうないのよ!悔しい!」
私「ポイントが消失して0ポイントになった」
田辺さん「なんてこった!」
私「ぱあ」
田辺さん「ポイントって消失するの?」
私は最後にポイント押してから一年経つとポイントが消滅することを田辺さんに説明しました。
田辺さん「そんなことがあるなんて、泣けるね」
私「まだ信じられない。実感がない」
田辺さん「悔しいね…」
私「私もう、どうしたらいいか…」
田辺さん「悔しいね…でも、ポイントは消えても思い出は消えないよ!」
私「田辺さん…!」
田辺さん「思い出は消えないよ!私、覚えてるよ!」
田辺さんにそう言われ、私の頭の中で中本との思い出が駆け巡りました。
ーーあれは田辺さんとライブ終わりに中本へ行ったとき。私がいつものようにいちばん辛いメニューにさらに辛さをプラスして注文すると、田辺さんが「ふふふ」と笑っていました。私が「どうしたの?」と聞くと、
田辺さん「いや、中本来るとさ、酒寄さん滅茶苦茶辛いの得意だから、この辛さが自慢の店の中でもすごい辛いの食べるじゃない?」
私「うん」
田辺さん「それがなんか滅茶苦茶喧嘩強い友達と一緒にいるみたいな気持ちにさせるの」
−−あれはいつかの私の誕生日。田辺さんに「なんでもご馳走するわ!何がいい?」と言われて「中本」と私が答えると、
田辺さん「え?中本でいいの?誕生日だよ?」
私「中本が食べたい」
田辺さん「焼肉とか寿司でもいいのよ?中本でいいの?」
私「中本が食べたい」
田辺さん「なんで?誕生日に中本?」
田辺さんはまったく悪気なく中本を批判しました。そして私の誕生日に中本に行き、
田辺さん「やっぱり中本は最高だね!いい選択したよ!」
田辺さんは自分のラーメンにチャーシューをトッピングして楽しんでいました。
−−あれはやはりライブ終わりに食べに行ったとき。
田辺さん「どうしようかしら…私はレディースセットにするわ!」
私「私は冷やし味噌ラーメンにする!」
田辺さん「あ、やっぱり私はレディースセットに茹で卵とライスも追加するわ!」
田辺さんの注文したレディースセットには最初からライスがついてくるのですが、そのライスに追加のライスが別盛りで提供され、茶碗が二つ並んでかなり男らしくなっていました。
−−あれは私が家でごろごろしていたとき。田辺さんから連絡がありました。
田辺さん「はーい!今日後輩の西田と映画に行って、その後、中本に行ったよ」
私「え、いいなー!」
田辺さん「中本食べているときに酒寄さんのこと思い出してさ!ああ、このラーメンのポイント酒寄さんにあげたいなーって思ったわ!」
ラーメンを食べさせてあげたいではなく、ポイントをあげたいなんて、田辺さんもかなりポイントに支配されているなと思いました。
私「確かに、思い出は消えないね」
田辺さん「そうよ」
私「ありがとう。ポイントはまた一から貯めるよ」
田辺さん「また一緒に食べに行きましょう!」
私「うん!行こう!」
田辺さん「それにしても懐かしいわね。ねえ、覚えてる?」
私「何?」
田辺さん「私、中本が辛いラーメン初めてでさ、」
私「うん」
田辺さん「他の店ではいつも食べるの私が速かったけど、中本のときはいつものんちゃんが先に店出てたよね。いつも待たせちゃったね」
田辺さんの中本の思い出ってなんか『神田川』の歌詞みたいだなって思いました。ポイントはまた一から貯めたいと思います!(酒寄)
★ぼる塾連載は毎週日曜夜配信予定です!お楽しみに★
▼バックナンバーはこちら!
第13回 あんりさんの回「あんりが分析!田辺さんがモテる理由」
第17回 あんりさんの回「できなかったことより、できたこと」
第21回 あんりさんの回「みんなへ伝えたいありがとうの気持ち」
『猫塾』と『しんぼる』が合体したお笑いカルテット。現在、酒寄希望さん(写真左)が育休中のため、きりやはるかさん(中央左)、あんりさん(中央右)、田辺智加さん(右)のトリオで活動中。
酒寄さんが育休中にnoteで書き綴った、笑えて心温まるぼる塾エッセイが書籍化!『酒寄さんのぼる塾日記』(¥1400/ヨシモトブックス)発売中。
©吉本興業/マガジンハウス
芸能界でも指折りのスイーツ通で知られる田辺さん初の書籍。『あんた、食べてみな! ぼる塾 田辺のスイーツ天国』(¥1,430/マガジンハウス)発売中。
『ぼる部屋』毎週木曜 24:15-24:25 KBC 九州朝日放送にて放送中。
『ラヴィット!』毎週月曜~金曜 8:00-9:55 ※月曜レギュラーTBS系にて放送中。
★公式YouTube 『ぼる塾チャンネル』
★個人公式インスタグラム 酒寄さん@jiujixiwang はるちゃん @kiriyaharuka あんりさん@f_y_e_b 田辺さん@chikaxxsweet
★個人公式Twitter 酒寄さん@no_zombie はるちゃん@shinboru1001 あんりさん@takobu7 田辺さん@chi0314ka
文/あんり(ぼる塾) イラスト/mame 構成/田中絵理子