人気芸人「ぼる塾」のメンバー4人によるリレーエッセイ連載。
「〇〇に負けないように!」と必死に頑張ることも大切だけど、肩肘張ってばかりいると、意味のない犠牲を払って大事なものが見えないことも…。たまには肩の力を抜くことも大切だと、あんりさんが教えてくれました。
「私が倒したいと思った唯一の女は、はるちゃんよ」by 田辺さん
CanCamをご覧のみなさま、ボンジュール!!
部屋を片付けようと決意して、2か月が経とうとしているあんりです。
仕事をしなきゃいけないときに限って掃除をしたくなるあるあるって、なんか科学的な根拠があったりするのかな。
CanCamの連載を書くときも、毎回私は部屋の掃除をしたくなる衝動とたたかっている。
その戦いに勝ち抜いた結果、私はこの2か月掃除をしていない。
果たしてそれは勝っていると言えるのか。
CanCam連載 VS 掃除もそうだけど、私は最近、いつも何かとたたかって生きているような気がする。
遊びたい私 VS 頑張らなきゃいけない私
疲れて帰ってきて風呂に入るのさえ面倒な今日の私 VS 朝6時起きの仕事だから朝風呂のためには1時間半早い4時半起きしなきゃいけない明日の私
スマホを失くした私 VS 笑う田辺
毎日負けたり勝ったり大忙しだ。
少し前にもこんなことがあった。
私には、たくさんミスをする上司のフォローをいつもしている友人がいる。
仕事ができるというよりは、仕事ができてしまうと言ったほうが、その友人を表すには正しいかもしれない。
きっと自分の仕事をしながら上司のフォローなんて大変なことなのに、できてしまうから大変に見えない。
その上司も助けてもらっている自覚があるんだかないんだか。
だから、そんな人が友人より多くの給料をもらっていることが恨めしかった。
だけど、友人はいつも文句ひとつ言わずに仕事をこなす。
その日も友人は休日だった前日から、上司が仕事しやすいように書類をまとめていた。
それなのにその上司は友人がまとめた書類を何故かまとめ直し、結果ぐちゃぐちゃな内容の書類になってしまった。
普段は書類をまとめ直すなんて事しないのに、よりにもよって。
休日にわざわざ時間をかけて作った書類を台無しにされたやるせなさ、そして毎日毎日少しずつ積み重なっていたこともあるのだろう、友人は悔しいと泣いた。
その上司にも悪気なんてなかったのだと思う。
むしろ頑張ろうと思って、書類をまとめたはずだ。
だから、友人は上司を責めることさえできない。
友人はその悔しさをバネにして仕事を頑張ると決意した。
今の自分で上司と戦うのではなく、未来の成長した自分と上司で戦うことを決めたのだ。
すべてを聞いた私はその悔しさを抱いて、田辺さんとサイゼリヤでヤケ食いをした(?)
何でこんなに不公平なんだ、何で頑張ってる奴が報われないんだ、仕事ができない奴は少しの事で褒められて仕事ができるやつはできることが当たり前で、仕事ができる方が損じゃないか、そんな文句を言いながら次々とサイゼリヤのメニューを平らげていく。何品目かに頼んだムール貝のガーリック焼きを食べ終えたとき、店員さんが私と田辺さんの席に来て、「今度ムール貝のガーリック焼きにドリンクバーに置いてあるアイスティー用のレモンをかけて食べてみてください。おいしいですよ。」と教えてくれた。
次々とメニューを平らげていく私は相当なサイゼリヤマニアに見えたのだろう。
私はそのときにやっと気付いた。
自分がサイゼリヤのメニューをろくに味わうことなく、雑に平らげてしまっていたことに。
自分が一体なにを食べたのかさえ、よく覚えていない。
伝票を確認すると、私はいつの間にか激安のサイゼリヤでひとりで三千円分の料理を平らげていた。
私は会ったこともない、友人の上司と戦っているつもりで数々の料理を平らげ、結果サイゼリヤのおいしい料理を犠牲にした。
意味のない戦い、意味のない犠牲。
田辺「私もなぜか三千円分食べてたわ。」
意味のない食欲。
私と田辺さんは反省をして、赤坂のサイゼリヤから新宿の吉本本社まで歩けるだけ歩こうということになった。
頑張っている友人のために、私と田辺さんがただ太るのはあまりにも意味がない。
まだ冬の寒い夜の街並み、真っ暗な道をお腹いっぱいのふたりが歩く。
何かを話し出すとまた愚痴を言ってしまいそうで黙ってる私の代わりに、田辺さんは9人も彼女がいるおじいさんの話をしてくれていた。
最近10人目の彼女を探すためにベランダから道ゆくおばあさんをナンパしているらしい。
おじいさんがおばあさんへの誘い文句として近所のおいしいお店を紹介する姿は、テレビでスイーツを紹介する田辺さんにそっくりだという話まで聞いたとき、真っ暗だった道が華やかに煌めいた。
六本木のイルミネーションだ。
田辺さん「あら綺麗ね。頑張って歩いた私たちへのご褒美じゃないかしら。」
イルミネーションの近くにはカップルたちがあふれかえって、みんながみんな、これは自分たちのためのイルミネーションだと思っている表情をしていた。
そんなカップル達に負けないくらい私と田辺さんもイルミネーションを私物化した表情をした。
イルミネーションというご褒美をもらったし、そろそろタクシーに乗ろうという話になり、大通りへ歩こうとしたときだった。
ピキッ
私の足元から聞こえてはならない音がした。
「いったあい!!足つった!!!!」
イルミネーションを見ていたカップル達の頭で流れていたであろうラブソングは、私の悲鳴、そして田辺さんの笑い声に変わった。
田辺さんにつられて、すごく馬鹿らしくて、足はまだ痛むけど、私も笑った。
友人にもこんなふうに馬鹿らしいことで笑っていてほしい。
たたかいに勝つことばかりが幸せじゃない。
たまには休んで、何も考えず笑ってやりゃあいい。(あんり)
★ぼる塾連載は毎週日曜夜配信予定です!お楽しみに★
▼バックナンバーはこちら!
第13回 あんりさんの回「あんりが分析!田辺さんがモテる理由」
第17回 あんりさんの回「できなかったことより、できたこと」
第21回 あんりさんの回「みんなへ伝えたいありがとうの気持ち」
『猫塾』と『しんぼる』が合体したお笑いカルテット。現在、酒寄希望さん(写真左)が育休中のため、きりやはるかさん(中央左)、あんりさん(中央右)、田辺智加さん(右)のトリオで活動中。
酒寄さんが育休中にnoteで書き綴った、笑えて心温まるぼる塾エッセイが書籍化!『酒寄さんのぼる塾日記』(¥1400/ヨシモトブックス)発売中。
©吉本興業/マガジンハウス
芸能界でも指折りのスイーツ通で知られる田辺さん初の書籍。『あんた、食べてみな! ぼる塾 田辺のスイーツ天国』(¥1,430/マガジンハウス)発売中。
『ぼる部屋』毎週木曜 24:15-24:25 KBC 九州朝日放送にて放送中。
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文/あんり(ぼる塾) イラスト/mame 構成/田中絵理子