人気芸人「ぼる塾」のメンバー4人によるリレーエッセイ連載。
今回は、初登場!酒寄さんのお母さんのお話。酒寄さんの意外なバイト経験、お母さんの意外な特技…と新しい発見がいっぱいの回です!(笑)
「お母さんが期待のルーキーになった思い出」
みなさん、こんにちは。ぼる塾の酒寄です。みなさんお元気ですか?私はピンチでした。
最近私は息子から手足口病をもらい、40℃の高熱が出るなかなかしんどい体験をしました。顔や身体に発疹が現れ、痛みでただ歩くことすらもつらく、コップを洗おうとして涙が出ました。
私「おかあさーん」
気がつくと私は幼い頃風邪をひいたときのように、母親を呼んでいました。もう一緒に住んでいないので母親が「大丈夫?」と駆けつけてくれることはないのに。
そんなことがあったからか、実家の母親のことを考えるようになりました。ですから今回は母親との思い出を書こうと思います。しかし風邪での思い出は特になかったので(ないんかい)別の話を書こうと思います。
それは私が大学時代、短期の派遣アルバイトをしたときのことです。このときのアルバイト先は工場でした。
「友達同士での応募もオッケー!」
私はアルバイト情報誌に書かれたその募集要項を見て、自分の母親を誘いました。私と母親はいわゆる友達親子というほど特別仲がいいわけではありませんが、お守りを作る内職を一緒にしたときに、
母親「このお守りを手にした人が幸せになるといいね」
私「そうだね」
と、神社でパワーを注入する前のお守りに、勝手に願いを込めるという共同作業をするくらいの程よい関係です。
話を戻します。工場の派遣のアルバイトに向かった私と母親は、まず初めにデザート部門のラインで働くことになりました。流れてくるケーキのようなものにホイップクリームを絞る、という作業でした。
工場の人「では、この感じでお願いします」
作業が始まると、私はまったく“この感じ”ができませんでした。工場の人が見本を見せてくれたときは、とても簡単に見えた絞る作業ですが、実際にやってみるとホイップクリームがケーキの上で登り竜のようになってしまうのです。
私「(あらららら)」
工場の人A「あー!これは駄目ですね!」
私の登り竜は排除されてしまいました。どんどんデザートが流れてきて、私は焦りました。私は登り竜を作り続けました。
私「(あらららら)」
工場の人A「これも駄目、駄目、…駄目、駄目だよ!!」
気が付くと、工場の人はずっと私の後ろに立っている状態になっていました。
工場の人A「ちょっとあなた、もう外れて!」
工場の人はかなり我慢強く見守ってくれたのですが、登り竜を作り続けた私は結局デザートのラインから外されてしまいました。ドナドナのように別のラインに連れていかれる私を母親が心配そうに見ているのがわかりました。
次に私はお惣菜部門のラインに配属されたのですが、(確かポテトサラダ)ここでも私はうまくできず、気がついたら流れてくる瓶が曲がっていたら直すというラインに立っていました。
工場の人B「派遣のみなさん休憩に入ってください」
休憩所に入ると、私の母親はデザート部門の期待のルーキーとして、人に囲まれていました。
母親「あら、希望(私の下の名前)も今から休憩?一緒にこっちでお昼にしましょう!」
私「…いや、私タバコ吸ってくるから」
期待のルーキーになった母親と一緒にいるのがつらくて、私は喫煙所で休憩時間を過ごしました。ちなみに今はタバコは吸っていません。
私「(さっき母親のまわりにいた人たち、『え?なんで仕事できる酒寄さんがどんくさいあの子と仲よしなの?』って目で私を見てた…)」←とんでもない被害妄想
落ち込んでいる私から変なオーラが出ていたのか、たまたま喫煙所にいた同じ派遣先の女性が、
「いいんだよ。時間が経ったら金もらえるから」
と謎の励ましをくれました。
休憩が終わったあと、結局私はアルバイトの終了時間までずっと流れている瓶が曲がっていたら直すラインで過ごしました。母親は「ぜひまたここに働きに来てほしい」とスカウトされていました。
帰り道、母親と並んで帰る道すがらも私は無言で歩きました。母親も何かを感じ取ったのか無言で一緒に歩いてくれました。
母親「希望、なんかおいしいものでも買って帰ろうか」
駅のホームで電車を待っていたとき、母親から私に話しかけてきました。
私「…いいよ。…働いたお金がもったいないし。(どうしよう、せっかくお母さんが気を使ってくれたのに)」
私はふてくされていた自分が恥ずかしく、でも今更態度を戻すこともできずに困っていました。そのとき、ぶわっ、と、風が吹きました。
ぶわっ、
母親「あら、気持ちいい夕方だね」
私「…うん」
母親「希望が頑張ったからお母さんごちそうするよ!」
私「…ありがとう」
そのときの風が私のふてくされた気持ちも恥ずかしさもすべて吹き飛ばしてくれ、笑顔でふたりでおいしいものを買って帰ることができました。
この話だけ聞くと、なんか優しいお母さんみたいに感じるかもしれませんが、私の母親はとんでもない教育ママです。私が小学校低学年のとき、同じクラスの〇〇ちゃんから「みんなには内緒だよ!私✕✕くんが好きなの!」と教えてもらった秘密を母親にならいいだろうとうっかり話してしまったところ、母親はママさんグループに言いふらし、そこから〇〇ちゃんの好きな人が一気に広まってしまい、〇〇ちゃん激怒。私は散々な目に合いました。
母親はきっと私に「みんなには内緒」の場合のみんなには母親も含まれる、秘密をばらすと痛い目に合うという教育的指導をくれたのだと思います。
お母さん、ありがとう。あなたのおかげで私は口が堅い人間に成長したし、なんとかこの連載の締め切りにも間に合いました。(酒寄)
★ぼる塾連載は毎週日曜夜配信予定です!お楽しみに★
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第17回 あんりさんの回「できなかったことより、できたこと」
第21回 あんりさんの回「みんなへ伝えたいありがとうの気持ち」
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酒寄さんが育休中にnoteで書き綴った、笑えて心温まるぼる塾エッセイが書籍化!『酒寄さんのぼる塾日記』(¥1400/ヨシモトブックス)発売中。
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文/酒寄希望(ぼる塾) イラスト/mame 構成/田中絵理子