アイドルオタ歴8年目で、突然「同担拒否」になった24歳女子の本音

“好きでこうなったんじゃない”|オタ歴8年目で「同担拒否」になった24歳女子の本音

みなさんは、「同担拒否」という言葉をご存じですか? 一部のアイドルオタク界隈で使用されている、同じ担当の子は拒否する、つまり推し被りの子とは仲良くできませんという意味の言葉です。同担拒否という言葉が存在しない界隈でも、同じ概念はあるというところは少なくないのではないでしょうか。アイドルを応援している以上、推し被りが発生するのは当たり前といえば当たり前。「ファン同士仲良くしようよ! そのほうが推しも喜ぶよ!!」なんて言うのは簡単ですが、そんなに単純な話ではないのです。

今回は、アイドルオタク歴10年、新しい推しができてから同担拒否になってしまったというNさんに、その理由と本音を伺いました。

Nさん
都内のメーカーに勤務する24歳。14歳の頃男性アイドルにハマり、それ以来アイドルオタク。21歳の頃、新しい推しができてから同担拒否になった。

以前、一番のオタ友は同担だった

 新しい推しができてから同担拒否になったとのことですが、それまではどうしていたのでしょうか。

Nさん「全く拒否感情はありませんでした。いつもコンサートに一緒に行くのは、SNSで知り合った同担(推し被り)の友達で。近くに知らない同担がいると、ファンサタイムのとき埋もれてしまってちょっと嫌だなとかは思ったことありますけど、それくらい。仲良しのオタ友以外にも、SNSで同担と繋がる…というのはよくあることでした」

中学生の頃からの推しが大好きだったというNさん。新しい推しを好きになったのは、どういった経緯だったのでしょうか。

Nさん「好きになったのは私が21歳の頃ですけど、彼の存在自体は2年くらい前から知っていたんです。事務所が同じで、推しグループと絡みもあったので。転機が訪れたのは、ステイホーム中でした。YouTubeのおすすめ欄に出てきた動画をなんとなく見ていたら、いつの間にか彼のことが頭から離れなくなっていました。既存の推しもいたので、金銭的にもファンになるのはやめようと思っていたのですが、あまりにも頭から離れなくて、1か月後にはファンクラブに入会していました」

「推しとの出会いは突然」と言いますが、Nさんの場合も新しい推しを探そうとしていたのではなく、日常生活の中で突然起こったようです。

さて、今回の本題は「同担拒否」。ファンになった当初から同担拒否だったのでしょうか。

Nさん「すぐにではありません。最初の頃は同担のお姉さんたちのツイートやブログを見るのが大好きで、前の推しのときとスタンス的にはあまり変わらなかったと思います。でも、気づいたら同担拒否になっていたんですよね。自覚したのは推し始めてから2年半が経ったくらいのときで、全国ツアーでのことでした。ファンはペンライトをそれぞれ推しのメンバーカラーにするのですが、自分と同じ色を遠くから見るだけで気分が悪くなってしまって…」

一般人ぽさが、恋を拗らせた

ツアーで同担拒否を自覚したとのことですが、何か思い当たるきっかけはあったのでしょうか。

Nさん「たぶんですけど、すぐ近くの推しが他の同担を見ていたからだと思います。よく『目が合った!!』と喜ぶファンに対して『勘違いでしょ〜(笑)』と言う意地の悪い人がいますけど、勘違いのしようがない距離ってあるんですよね。当時まさにそれで…。3mぐらいしか離れてないので、目が合ってそうで合ってないこともわかるんです。逆に勘違いができないというか(笑)。『目が合っ……てないねこれは!!』と気づいて、彼が見ていたのが斜め後ろの同担だったと知ったとき敵対心? のようなものが、生まれたのかもしれないです」

ファンサービスがあるのは嬉しいけれど、誰か一人が至高の体験をすれば、周りにいる他の人たちが辛くなってしまうのは事実。至近距離で玉砕してしまった経験が、トラウマになっているようです。また、他にも思い当たる節があるようで…。

Nさん「いわゆる“ガチ恋”であることも理由かなと思います。相手はアイドルなのに現実の男性に対して恋心を抱くように、本気で好きになってしまうことをガチ恋って言うんですけど、まさにそれで。自分でもバカバカしいと思ってはいるんですが、感情なんて簡単にコントロールできないじゃないですか。

すでにいた推しは10歳年上で、好きになった頃にはすでにドラマの主演を張ったりドームで単独公演をしたりキラキラアイドルっていう印象でした。ただ、新しいほうの推しは良い意味で一般人ぽいというか、サークルの先輩にいそうな雰囲気なんですよね。年齢も3歳上であまり変わらないし、人気アイドルではあるけれどもうひとりの推しに比べたら規模は大きくないし、ドラマに出ても主演をするレベルではありません。コロナ禍で好きになったというのもあって、彼がステージ上に立って大勢のファンが周りを囲んでる…みたいな光景を見ずに2年半過ごしてしまったというのもガチ恋を拗らせた原因だと思います。もちろん、ガチ恋の人が全員同担拒否というわけではないので、そこは誤解しないで欲しいんですけど」

推しの活躍を心から喜べないという葛藤

同担拒否になったことで、オタ活や心境ににどのような影響が出たのでしょうか。Nさんが詳しく胸の内を語ってくれました。

Nさん「まず、コンサートを100%楽しめないです。推しのパフォーマンスは全力で享受しているんですが、同担を見るとモヤッとしてしまって、ファンサを沢山する曲はあえて違うメンバーを目で追っています。うっかり、マナーの悪い同担がファンサもらってるのを見てしまったときはさすがに心臓が凍りましたね(苦笑)。あ、これは同担拒否じゃなくても凍るか。

あとは、会えても会えなくてもしんどいことかな。コンサートや舞台がない期間は“会いたい”という気持ちで一杯で、会えないのが辛いのですが、現場では同担と同じ空間に行かざるを得ないので、常に気が張っていて辛いです。可愛くて綺麗な同担を見ると病みますね」

誰かのオタクをしている人にとって、推しと実際に会えるイベントは一番幸せな場所のはず。ただ、同担拒否になったことによって、それが苦痛を伴うものに変わっていってしまったようです。なお、コンサート以外でも辛い点があるようで…。

Nさん「推しの活躍を心から喜べないんです。ドラマの出演が決まったりビジュ(ビジュアル、外見)が完璧なときって、ファンにしてみたら最高に幸せな瞬間だと思うんですけど、私の場合同時にファンが増えちゃう”と焦りを感じてしまっ。ファンが増えるとチケットが取りにくくなるじゃないですか。会場が大きくなると距離も遠くなるし。活躍の場を広げるためには、ファンの母体が増えることが一番だということは自分でもわかっています。でも、Xで『〇〇くんが気になっています』というツイートを見るとちょっとへこんでしまう自分がいるんです。相手の方を攻撃するなんて絶対しませんけど、自分はいわゆる『害悪オタク』なんじゃないか、と日々葛藤しています」

同担拒否の人って意味わかんないとずっと思ってた

同担拒否に対する世間一般のイメージは決して良いとは言えないどころが、正直悪いほうに偏っているのが事実。それに対して、Nさんはどう感じているのでしょうか。

Nさん「それはそうだろうなと思います。私も元は同じで、同担拒否の人って意味わかんないとずっと思っていました。みんなで仲良くしようよって。でも、自分が当事者になって感じるのは、好きでこうなっている人ばかりではないということです。もちろん彼を推しつづけているのは私の意思ですけど、先ほども申し上げた通り、感情なんてコントロールできるものじゃないじゃないですか。コントロールできてたら、オタクに限らずみんなもうちょっとハッピーに生きられてると思うし(笑)。

推しや周りの人に迷惑をかけるのはあってはならないから、言動はコントロールするべきだとは思います。それこそ、SNSでの誹謗中傷は論外です。でも、同担拒否ってだけで人格破綻者みたいな扱いを受けるのは納得いかないですね。自分も相手も傷つけたくないからこそ、SNSで『同担拒否』と書いています。無理に付き合っても辛いだけだし、他の人を攻撃したくないし。トラブルの元はつくらないのが吉だと思っています。

あと話逸れますけど、この場を借りてついでに言わせてください。推しが結婚したときに“推しの幸せを祝えないなんてファンじゃない!”と意見を押し付けるのもやめてほしいです。こちらも諸々の正論はわかってて、でも色んな気持ちに折り合いをつけながら生きてるんです」

SNS全盛の現代。たしかに、言動だけでなく人の頭の中に対しても期待しすぎてしまっている状況はありますね。同担拒否でいることで、正直生きづらいというNさんですが、今後こうなりたいというイメージもあるようです。

「いつか周りを気にせずに楽しめるようになれたらいいなと思います。先ほども申し上げたように、現場に行っても100%楽しめなかったり、同担を見て落ち込んじゃったりするので…。あと、同担拒否は私の本望ではないので、叶うことなら同担の人と仲良くなれたらいいなと思います。私の気持ち次第なんですけどね(笑)。同担と盛大に本人不在の誕生日会をするの、ずっと憧れてるんです」
 

一般的には、同担拒否というと性格がキツく推しにも良い影響を与えていないようなイメージがありますが、Nさんが語ったのはその想像とは全く違う実情でした。確かに、同担拒否であることを告げられると、推し被りしていなくても少し身構えてしまうかもしれません。ただ、人それぞれ事情があるはず。言動をコントロールできず他人に危害を与えるのは論外ですが、マナーやルールを守っている限り、十人十色の推し方があって良いのではないでしょうか。Nさんや皆さまのオタ活が、幸せな方向に向かいますように。(平田真碧)

(c)Shutterstock.com