配属された部署は、パワハラの嵐。ようやく抜け出した慶子は、黒革の手帳を片手にスーパー秘書の道へ…。
慶子の手帳に書かれていたことは?
女の人生ルポルタージュ3人目、いよいよ最終回!
高田慶子(仮名)31歳/ベンチャー企業勤務 社長秘書
1986年東京都出身、世田谷区在住
職歴/大学卒業後、證券会社に就職。新商品開発部門に2年、部長秘書として3年勤務の後、現在のベンチャー企業に転職。社長秘書。
似ているタレント/柏木由紀
理想のタイプ/佐藤浩市
パートナー/あり。婚約中
手取り月収/約29万円(税引後) 預金総額/約400万円
Vol.1 あみだくじで決まった配属
Vol.2 29歳は最後の転職チャンス?
Vol.3 スニーカー社長が私を退社に追い込んだ一言
Vol.4 退社が先か、結婚が先か
Vol.4 退社が先か、結婚が先か
ゆとり世代秘書の反抗
慶子と俊二さんの結婚式の日取りは、来年の4月と決まった。結婚を理由に退社することも、心に決めた。けれど、スニーカー社長にはまだ話していない。その理由はふたつあって、辞めると知ったら社長がまたどんな嫌がらせをしてくるかわからないということがひとつ。もうひとつは、結婚式で慶子側の主賓として招くなら、スニーカー社長しかいないのだが、辞めるとわかっていては頼みにくい。結婚式後に退社を言い出したほうがいいのか、いまだ迷っている。
そんなことを考えていると、慶子らしからぬミスをやらかしてしまう。先日は、大事な大事な黒革の手帳を会議室に置き忘れてしまって、あやうく23歳のセクレタリーゆとりに見られるところだった。前なら、絶対に肌身離さず左手に持っていたのに。
「スニーカー社長のご機嫌は、相変わらず悪くて、私にも、セクレタリーゆとりにも、よく怒鳴ります。職場の雰囲気は…、あまりよくないですね。先週は、ストレスのせいで私、背中に帯状疱疹が出てしまいました。その週末は、ウエディングドレスのフィッティング予定が入っていたので、泣く泣くキャンセル。背中が大きくあいたドレスを着る予定だったんです。今は、跡が残らないように注意して、全身エステに通ってお手入れしています。この帯状疱疹が、結婚式本番直前だったらと思うと、ゾッとしますね。これ以上、ストレスたまることは、もうやりたくないです」
ドレスのフィッティングは1か月後にアポを取り直し、仕事のほうはセクレタリーゆとりと上手に分けあって、いかにストレス少なく済ませるか、それが今の重要課題だ。
スニーカー社長のことは長年の経験でうまくあしらっても、このセクレタリーゆとりが意外にもストレスネタになるのは、困ったものだ。
「大事なお客さまの前で、セクレタリーゆとりが、コーヒーをこぼしてしまったことがありました。廊下からそれを見た私はすぐにかけつけて、まずお客さまに謝り、テーブルや床を拭いて、お客さまのシャツとゆとりちゃんの替えスカートを買いに走って、着替えさせて。ことが大きくならないように、全力で対処しました。そのお客さまからは後日、丁寧にお礼のメールをいただいたのですが、ゆとりちゃん本人は、感謝の言葉もナシ。お礼が欲しいっていうわけではないですけれど、私だったら、対処してくれた先輩秘書さんに菓子折りもって、謝罪とお礼に行ったでしょう。そういうやり方、もう古いんでしょうかね。
何も言ってこないのは、私に対するゆとりちゃんの静かなる反抗なのだと思います。『慶子先輩、そんなに大げさに騒ぐことじゃないのに』というような。ゆとりちゃん、確かにそんな目をしていましたから」
未来の秘書
秘書の仕事が大好きなことは、今も変わっていない。自分なりに工夫して仕事をしてきたけれど、もし自分が辞めても若い秘書がすぐに代わりを務めてくれるだろう。20代の子のほうがお給料だって安くて会社は助かるわけだし。
「最近は在宅秘書っていうのもあるらしいんです。携帯とパソコンとで家にいならが秘書の仕事をやって、出社する必要がないという。でもね、上司の体調や顔色とか、好みの移り変わりとか、そういうのは間近で見ている秘書でなければ、わからないことですよね。いや、AIが発達したら、それもコンピュータがやってくれるのかしら。じゃ、ますます秘書って何なんだって、思っちゃいますよね」
慶子は、会社を辞めることに抵抗はない。けれど、世の時流だからといって、在宅秘書やパートタイム秘書になることは、どうしても抵抗がある。6年間秘書をやってきたプライドであり、うまく言えないけれど、気持ちの入らない仕事に、自分が満足できる気がしない。
「婚約者の俊二さんは、『慶子の好きなようにすればいいよ』って。優しいんです。大人なんです。私をもらってくれてありがとう。今は、感謝の気持ちでいっぱいです。これを、どうやって彼に伝えるか、どうやって返していくか…」
それならば、秘書へのこだわりは捨てて、方向転換するという道もある。趣味で続けている華道をもっと極めて、子どもを育てながら家で教室を開くという道。または、忙しい夫のサポートに徹して、日々栄養バランスを考え、料理をつくり、体調を管理し、お金を管理し、将来の設計をするという道も。
それを考えながら慶子は気づいた。大事なのは、どこで働くかではなくて、「誰のために頑張るのか」ということだ。それなしでは、すごく表面的で、気持ちの乗らない仕事しかできない。
大事な人のために、気持ちを込めて尽くす。かつてはダンディ部長のため、次はスニーカー社長のため。そして今は、大事な婚約者・俊二さんのためと、やがて授かる子どものため。
働く理由は、それだけで十分だ。(第3弾・瑠璃編 終わり)
Vol.1 あみだくじで決まった配属
Vol.2 29歳は最後の転職チャンス?
Vol.3 スニーカー社長が私を退社に追い込んだ一言
Vol.4 退社が先か、結婚が先か
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。
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