パワハラ職場を抜け出した先は…【あみだくじで決まった配属】Vol.1

【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】連載が大好評。波乱の第3弾スタート!


「ゆとり以上バリキャリ未満」を生きる女子のルポルタージュ・大好評につき第3弾がスタート!

配属された部署は、パワハラの嵐。ようやく抜け出した慶子は、黒革の手帳を片手にスーパー秘書の道へ…。

慶子の手帳に書かれていたことは?

 

 

高田慶子(仮名)31歳/ベンチャー起業 社長秘書

1986年東京都出身、世田谷区在住
職歴/大学卒業後、證券会社に就職。新商品開発部門に2年、部長秘書として3年勤務の後、現在のベンチャー企業に転職。社長秘書。
似ているタレント/柏木由紀
理想のタイプ/佐藤浩市
パートナー/あり。婚約中
手取り月収/約29万円(税引後) 預金総額/約400万円

 

Vol.1 あみだくじで決まった配属

パワハラ職場


「こんな職場が本当にあるのかって、びっくりしました。ヒステリックに怒鳴ってる先輩、怒られて泣く女子社員、社内電話を取ればいきなりクレーム…。配属されるなり目にした光景に、私、動けなくなってしまって。最初の3日間は、びくびくしっぱなしで、お昼のお弁当もふた口しか食べられなかったし、トイレもガマンしていました。そして、毎日思っていました。どうして私がここに配属されたのかしら…?」

 

 

慶子が証券会社に入社して配属されたのは、発足したばかりの“女性向け新規商品開発チーム”。さまざまな年代から女性社員が集められ、新人の慶子を合わせて7人。“デキる精鋭女子集団”というのが社内のふれこみだった。当然、慶子だけ商品知識はおぼつかないし、そもそも簡単には追いつけるものでもない。

だから仕事の内容は、資料づくりや社内調整など、先輩のサポート業務が中心。求められた資料がすぐ見つけられないだけで怒鳴られるし、先輩の機嫌が悪いときは、ファイルが背後から飛んで来たこともあった。高校のバスケ部で鍛た反射神経で、素早くよけたけれど、あれは本当に恐ろしかった。

そもそも、家族から大事に大事に育てられ、「怒られる」という体験をしたことがなかった、過保護の慶子だった。だから、近くで大きな声を出されるだけでもビクっとなってしまう。会社ではその連続だった。

「同じフロアを見れば、別の部署の同期たちはそれなりに楽しくやっていました。みんなでランチしながら勉強会をしたり、頑張った新人を労ってワイワイ打ち上げをやったり。それを見ると、涙が出そうでした。泣くのをガマンして、目の前の仕事だけに集中して、とにかく怒られないように、失敗しないように…」

新商品ローンチを控えた冬。先輩女性のひとりが妊娠してツワリがひどくなり、突然会社に来なくなるという事件があった。仕事を放棄したその先輩のぶんも、みんなに仕事がのしかかってきて、クリスマスイブは全員が終電時間まで残業。家族や彼からのメールの返信もできないくらい、切羽詰まっていて、そのときだけは、つらさに堪えきれずに涙が流れた。

「後で知ったことですが、最初は同期のAちゃんがこのチームに配属予定だったらしいです。でも、Aちゃんはそれを断固として拒否したそうなんです。それで、代わりに選ばれたのが、私。それも、知らないところで“あみだくじ”で。誰があみだくじ方式に決めたのかは聞かなかったけど、それを知ったときは、さすがにショックでした。私のスタートライン、あみだくじで決められたの? って」

 

 

黒革の手帳


慶子の唯一の安らぎは、よく仕事中に気にかけてくれる、隣の営業部のY部長だった。慶子が落ち込んでいるとき、ランチに誘ってくれるのも、この部長。あみだくじが当たらなければ、彼の下で働けたはずだった。

 

中村麻美

 

2年目の終わり、Y部長に「もう限界なので辞めようと思っています」と相談すると、部長はひたすら「申し訳なかった」「残ってくれ」と懇願した。そして、「あんなふうに配属が決まってしまって」とも。カンのいい慶子は、「あみだくじの発案の張本人は、この部長だったのね」と確信した。

この、あみだくじ部長が、どんな方法で上層部にかけあってくれたのかはわからないが、きっと罪悪感もあったのだろう。3年目の春、慶子はコンプライアンス部門に晴れて異動となった。

「仕事は部長の秘書です。スケジュール管理はもちろん、出張や来客の手配、手土産や会食の準備など。秘書の経験はなかったので、何かわからないことがあると、同じフロアにいる役員秘書の方に、いつも聞きに行っていました。それまでがヒステリックな環境にいたからか、静かで落ち着いた新部署は、天国のようです。部長はダンディで穏やかさのかたまりみたいな人。教えてくれる役員秘書さんは、とっても丁寧で気遣いの人。頑張って、私もいい秘書になろうと心に誓いました」

先輩の役員秘書さんをマネて、慶子がすぐに実践したことがある。手書きの手帳を使うことだ。ほかの秘書はパソコンとタブレットでスケジュール管理をしているけれど、それと併用して黒い革のシステム手帳を使い、スケジュールだけでなく、上司の会話の内容や覚えておきたいメモなどを書き込んでおく。慶子はこの黒革の手帳に、この数日で知った、部長の家族構成や好み、よく行く店などを忘れないように書き込んだ。

タブレットよりも手書きの手帳のほうが、サッと情報が取り出せることも多いし、移動中や会話中に書き込みやすい。デスクに戻ってから、スケジュールはパソコンに入力し直し、部長とも共有する。

 

中村麻美

 

さらに、「自分の転機になった人」の名前をこの黒革の手帳に書いておくことにした。いい思い出ばかりではないけれど、いつか子どもができて仕事を辞めたとき、「ママも頑張っていたのよ」と話すネタとしてのメモだ(復讐のリストではない)。

この時点で、慶子の黒革の手帳に名前が書かれている人物は、4人。万が一、誰かに見られたら困るので、あだ名で書いてある。ツワリがヒドくて仕事を放棄した「やりっぱなし女」、恨みもあるが感謝もある「あみだくじ部長」、現在の上司であり尊敬する「ダンディ部長」、そして教育係でもある先輩役員秘書「スーパー秘書・薬師丸」(注/薬師丸ひろ子に似ているから)。

「スーパー秘書・薬師丸さんには、たくさんお勉強させていただきました。ときどき、恋愛の相談なんかもして。そのころ私がつきあっていたのは、同期入社の男子。2年つきあって、そろそろ結婚…というムードも漂ってきて、同時に仕事も楽しくなってきて、私は充実感を覚えていました。

彼は入社以来本社勤務でエリートコースまっしぐら。私は今、ダンディ部長のお世話をしているけれど、いつかはエリート旦那のお世話に専念したい。そんな未来を描いたりもしていました」

 

Vol.2「29歳は最後の転職チャンス?」に続く

【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第3弾「あみだくじで決まった配属」
Vol.1 あみだくじで決まった配属
Vol.2 29歳は最後の転職チャンス?
Vol.3 スニーカー社長が私を退社に追い込んだ一言
Vol.4 退社が先か、結婚が先か

 

文/南 ゆかり
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。

 

【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】連載一覧

 

【あわせて読みたい】

※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第1弾「貯金1,500万の女子」

※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第2弾「キラキラOLのはずが飛び込み営業に」

※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第3弾「あみだくじで決まった配属」

※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第4弾「インスタ映えで幸せになれますか?」