スニーカー社長が私を退社に追い込んだ一言【あみだくじで決まった配属】Vol.3

配属された部署は、パワハラの嵐。ようやく抜け出した慶子は、黒革の手帳を片手にスーパー秘書の道へ…。

慶子の手帳に書かれていたことは?

女の人生ルポルタージュ3人目、Vol.3!

 

高田慶子(仮名)31歳/ベンチャー企業勤務 社長秘書

1986年東京都出身、世田谷区在住
職歴/大学卒業後、證券会社に就職。新商品開発部門に2年、部長秘書として3年勤務の後、現在のベンチャー企業に転職。社長秘書。
似ているタレント/柏木由紀
理想のタイプ/佐藤浩市
パートナー/あり。婚約中
手取り月収/約29万円(税引後) 預金総額/約400万円

Vol.3 寿退社への道-スニーカー社長が私を退社に追い込んだ一言

 

プロポーズinバリ島


同期男子と別れて半年後につきあい始めたのは、友達の紹介で知り合った、コンサルタントをしている俊二さん。慶子より11歳年上の41歳だ。

「知り合ってすぐ、つきあってほしいと言われましたが、さすがに年上すぎて不安でした。返事を1か月以上待たせても、焦らせることもなく、いつも普通に遊んでくれて、ああ、余裕ある大人っていいな。そう思わせてくれました。その寛大さに、だんだん惹かれていって。

 

中村麻美

 

思い返せば、20代前半から中村トオルとか阿部サダヲとか、ちょい渋好みで、でもつきあった男性は、まったく違うタイプばかりで。ようやく、落ち着きのある、優しくて包み込んでくれる、でも見た目は若々しい、という理想の人に会えたのです」

プロポーズはそれから半年後、ふたりでバリ島に旅行に行ったときだった。最終日のディナーの席で、「僕と結婚してください」というシンプルで率直なものだった。慶子の返事は「はい」とひと言だけ。メインイベントはその後だった。ディナーの後、ホテルの部屋に戻ったら、ベッドの上に「Will you merry me?」とバラの花びらで飾られていた。感激した慶子はその場で号泣。最終日だけスイートルームにランクアップしようと彼が提案した理由は、そしてホテルの人たちが「Congratulations!」と言ってくれていたのは、これだったのか、とようやくわかった。幸せすぎて、頭がぼーっとしてしまう経験も、始めてだった。

慶子にとって、プロポーズはちょっと意外だった。年齢の差はあれど、仕事に趣味にと独身貴族を謳歌している俊二さんは、すぐには結婚しないだろうと思っていたから。プロポーズのとき、彼は指輪は用意していなかった。あわてて間に合わせで用意するよりも、あとで慶子が好きなブランドで、慎重にサイズを合わせて、納得して買ったほうがいいだろうという気遣いだった。

 

寿退社したい!


バリ島旅行から帰ってきてから、週末にふたりで婚約指輪を見に行ったり、家族との食事会があったりで、にわかに忙しくなってきた慶子だが、なんとなく、気持ちはスッキリしなかった。原因は、スニーカー社長だ。

「2年目にさしかかってから、どんどんわがままになってきたのです。以前は、『このゴミ、捨てておいてくれる?』だったものが、『捨てておけ』に変わり、今ではそのゴミを投げてくる。ポンと軽く、ですけどね。でも、会社は成長していたし、だんだんと社長らしく貫禄が出てきたことも、わかっていました。その代わり、社長のプレッシャーは大きくなるし、社員とうまくいかないことも増える…。辞めた社員の悪口を言ったり、周囲に八つ当たりしたりすることもありました。近くで見ていて、ちょっと辛かったです。

 

中村麻美

 

ある日スニーカー社長との面談で、『俺の悪いところがあったら、何でも言って欲しい』と言われたので、私、正直に言ってしまったんです。

“一緒に働いている社員のことを悪く言うのは、おやめになったほうがよろしいかと思います”

すっごい怒られました。『お前は何もわかってない!』『そんな答えを求めてるんじゃない!』と。あー、失敗したな。それからです。社長のわがままが嫌がらせに変わっていったのは」

慶子は社長秘書業務のほかに、人事の仕事も兼務させられ、新しい秘書の23歳女性(「セクレタリーゆとり」と命名)の教育係もすることになった。慶子の仕事量はざっと1.5倍に。そして、スニーカー社のイライラも同じく1.5倍に増えた。丁寧に仕事をしたいけれど、忙しく動き回ることで精一杯。誰にも助けを求められないし、グチを言いたくても言う時間さえない。

「もー、寿退社したい!」

慶子はこの1文を黒革の手帳に殴り書きした。そして、すぐに婚約者の俊二さんに電話で話した。俊二さんの第一声は、「慶子はよく頑張ったよ。でも、もう辞めちゃいな、そんな職場」。

理由がなんであろうとも、無条件で味方になってくれる俊二さんの存在が、慶子にはうれしかった。あれこれ詮索してきたり、正論をぶつけてくることもない。スニーカー社長は、実は慶子にもそんなふうに、味方でいてほしかったに違いない。今さら、そんなことを思っても、もう遅いけれど。

 

Vol.4 「退社が先か、結婚が先か」に続く。

 

文/南 ゆかり
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。

 

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