SDGs達成度1位「幸せの国」フィンランドが大切にしていること【トラウデン直美と考えるSDGs】

SDGs達成度1位の国に学ぶ 「平等な社会」について

今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!

今回は、SDGs達成度ランキングにおいて、2021年に続き2年連続1位を獲得している国・フィンランドをひもときます。

フィンランド大使館にお邪魔しました!

フィンランド大使館 報道・文化担当参事官 レーッタ・プロンタカネンさん/フィンランド南部ハメーンリンナ生まれ。戦争研究の修士号を取得後、危機管理や平和構築の報道や広報に携わる。ヘルシンキのフィンランド外務省コミュニケーション部で西欧とアジアを担当後、2020年10月から現職。
トラウデン直美/環境省サステナビリティ広報大使。高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。『SDGs』にまつわる勉強や発信に力を入れ、情報番組コメンテーターとしても活躍。初のフォトブック『のらりとらり。』(小学館刊)が好評発売中。

フィンランドってどんな国?

・ジェンダーギャップ指数 第2位(2022年)
・SDGs達成度2年連続 第1位(2021〜2022年)
・国民ひとり当たりGDPは日本の約1.37倍(2021年)
・小学校から大学院博士課程まで学費無料
・幸福度5年連続世界1位(2018〜2022年)
・長く愛されるムーミンやイッタラ誕生の地でもあります♪

年齢も性別も関係なく、一人ひとりが社会の大事な一員

トラ 数々の国際ランキングで上位に入るフィンランドですが、やはり30代の女性であるサンナ・マリンさんが首相に選ばれたことが印象的です。

プロンタカネン 私たちの国では「平等」はとても大事なキーワード。フィンランドの女性は、100年以上前から公私の領域で活躍しています。というのも、農業国だったので男女関係なく働く必要があったんですね。1906年には、世界で初めて女性が選挙に「投票する権利」と「立候補する権利」を同時に与えられ、実際に初年度から19名が選出されました。現在では、国会議員200議席のうち、約半分を女性が占めています。

トラ そこが大きな違いというか、日本では女性が女性を信頼していない、なぜか年上の男性に投票する傾向があるのではないかな? と感じています。

プロンタカネン フィンランドでも、ベテランの男性が引き続き選ばれることはもちろんあります。同時に、選挙があるたびに新人候補が当選します。誰が誰に投票してもいいけれど、社会には様々な世代の問題がありますから、20代も70代も全員が必要という考え方ですね。

トラ 国政選挙への投票率も70%前後と高いですよね。

プロンタカネン 学校では、実際の候補に模擬投票をする授業があります。どの政党に投票しても自由ですが、どういう意見であれ、口にすることが大事。選挙の仕組みを学び、メディアの情報を批判的に見る目も養います。政治に限らず「保育園の名前をどれにするか」というような身近なテーマから始め、自分と違う意見の人とどう妥協していくのか、幼少期から身につけていきます。

白樺はフィンランドのシンボル

日本と近い国土面積のうち78%が森林。OECD加盟国で最も森林率が高い(日本は約68%で第3位)。自然享受権があり、地主の許可がなくても森の中でキノコやベリーなどの採取やキャンプができる。

大使専用サウナを特別に拝見♪ 

日本でもブームのサウナはフィンランドが本場。〝サウナ〟も〝ロウリュ〟もフィンランド語! 原型は鉄器時代前からあるといわれ、人口554万人に対して300万ものサウナがあるくらい生活に浸透。心身の健康にも欠かせない。

暗い冬を楽しむ照明の工夫

冬は太陽が昇らない「極夜」が2か月ほど続く地域も。インテリアで光を取り入れ、家時間を豊かに。♡

進むレールは一本ではない 失敗を恐れずに挑戦や意見を

トラ コロナ禍においては、政府が介入しすぎることなく落ち着いて事態を抑えているイメージがありました。

プロンタカネン 言われたことをわりと守る国民性は、日本と通じる部分があるかもしれません。もうひとつの特徴として世界的な統計を見ると、当局や政府、国民、双方に対する信頼度が高いと言われています。パンデミック当初は緊急事態宣言を発令するなど強めの施策もありましたが、徐々にアドバイス的なスタンスに変わっていきました。

トラ 柔軟な強さを感じていますが、フィンランドの人々には「シス(SISU)」の魂が息づいていると聞きます。

プロンタカネン 何かうまくいかないことがあってもあきらめない力、もう一度試してみる…といった精神ですね。

トラ 実際に会社や仕事で失敗しても、やり直せる環境はあるのでしょうか?

プロンタカネン 一生のうちに何度も教育を受けられる「リカレント教育」が盛んで、起業リスクを補う公的な支援もあります。何かを成し遂げるために頑張ったのであれば、失敗しても世界の終わりではない…という捉え方。例えば、企業のトップでバリバリ働いて40歳くらいで自然のガイドに転身する人も。でも、それは人生をあきらめたわけではなく、枝葉にあるひとつの選択をしたというだけのことだと考えます。フィンランドもすべてがバラ色の国ではないのですが、年齢を重ねても比較的路線変更がしやすい風土があると思っています。

トラ 人にどう思われるかは気になりませんか?

プロンタカネン 心配する度合いは少ないかもしれません。自分を表すものがひとつではなく多面的で、自分に合った人生を送ることを大事にしている。一方で年齢による上下関係がないので、15年勤めたからといって昇進できるわけでなく、能力重視で評価されます。能力と実績さえあれば、大臣にも企業のマネージャーにも就ける。年齢や性別はキャリア上は関係ない社会になっていますね。

トラ 怖がらずに挑戦できそうです! 幸福度やジェンダーギャップなどのランキングで長く上位に入る背景には、平等、教育、福祉の積み重ねがあるんですね。

プロンタカネン 根底を考えると、自分の幸せのために自分の面倒を見ながら、どうしたら周囲の人もハッピーでいられるかを中心に据えているのではないかと。

トラ 自分が幸せであることは社会への優しさにもつながりますね。では、課題、懸念に感じていることは?

プロンタカネン ヨーロッパ共通だと思いますが、ウクライナ侵攻による情勢の不安定さを挙げる人は多いですね。また、若い人は特に気候変動について危機感を抱いています。昔と比べて冬が短く雪の量が少なくなり、実際に目の当たりにすると意識が断然高まるようで。若者がNGOの活動に携わったり、ベジタリアンになったり、能動的に関わっている姿を大人たちも前向きに捉えています。〝Fridays For Future(未来のための金曜日)〟という気候変動対策強化を訴える運動に参加しても、学校で欠席扱いにはなりません。トラウデンさんのように自分が大切だと思うことに向けて行動することは、とても素敵なことですね。

トラ 大人たちが「がんばれ! 」と子供たちを見守ってくれると安心感が全然違うと思います。私も次世代に向けてそうありたいです!

コーヒー休憩は労働者の権利

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職場でのコミュニケーションは飲み会よりコーヒータイムに。

コーヒーも幸福度を高める日常の癒やし♡

持続可能な素材を活かす

「Sulapac」のバーム容器はプラスチックに見えて実は余った木が原料。既存の工場・ラインで製造可能。

プロンタカネンさん愛用の腕時計「AARNI」。森林破壊に加担しない生産元を厳選。

自然をモチーフにしたラグ

自分の意見をもって行動しながら、何度もやり直せる社会のゆとり

女性の社会進出はもう特別なことではないんだなと実感。日本では意見を言わないのがよしという風潮であきらめてしまっている若い人もいるけれど、フィンランドと日本に通じる国民性も知ることができたので、いい部分はぜひ取り入れたいな!

目指せ「SDGs」! トラちゃんの今月の一歩

WWDJAPANサステナビリティ・サミットに参加

ファッションとサステナビリティの未来について、〝CFCL〟の高橋デザイナーとお話しました。B Corp認証を取得した信頼できるブランドでありつつ、クリエイションを第一に考えているそう。とても勉強になる1日でした!

今月の1冊は…『フィンランド 幸せのメソッド』

フィンランドは日本と人口規模や歴史など前提が違うけれど、昔から今の姿だったわけではなく、今もさらによい社会を目指しているとわかる1冊。日本もスピード感をもって進めるといいな。

著:堀内 都喜子/¥946/集英社新書

今月のSDGsブランド「マリメッコ」

1951年にフィンランドで創業した、世界的デザインハウス。時代に流されることのない独創的なプリントや色使いで、ファッションアイテムからホームデコレーションまで幅広く展開。リサイクル素材や無漂白素材、天然染料を積極的に採用する。

カーディガン¥39,600・Tシャツ¥24,200・スカート¥38,500・靴¥66,000(ルック ブティック事業部<マリメッコ>)、ピアス¥37,400・イヤカフ¥12,100・リング[人さし指]¥19,800・[中指上]¥19,800・[中指下]¥25,300(ノジェス)
2023年CanCam2月号「トラウデン直美と考える 私たちと「SDGs」より」撮影/角田明子 スタイリスト/鈴木千春 ヘア&メイク/後藤若菜(ROI) モデル/トラウデン直美(本誌専属) 取材協力/秋山悦子(フィンランド大使館) 構成/佐藤久美子 web構成/坂元美月 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。