分断を越え、SDGsを「自分ごと」に。トラウデン直美×平原依文さんが語る「教育支援」の新しい視点

SDGs教育支援『WORLD ROAD』とは?

今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!

今回は、世界の人々から学ぶSDGs教育を推進する平原 依文さんに、持続可能な社会に大切な視点を教えていただきました。

平原依文さん/8歳から中国、カナダ、メキシコ、スペインに単身留学。早稲田大学卒業後、大手外資製薬会社などを経て『WORLD ROAD』設立。SDGs×教育を軸に事業を行う。青年版ダボス会議『One Young World』日本代表
トラウデン直美/高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。『SDGs』にまつわる勉強や発信に力を入れ、情報番組コメンテーターとしても活躍。初のフォトブック『のらりとらり。』が好評発売中。

「SDGsのために」ではなく自分が叶えたい世界を思い描こう

トラ 最近、読者の方にアンケートでSDGsに関する思いを聞いたところ、「どの企業が本当にやっているのかわからない」「資本主義の社会で偽善なんじゃないか」といった疑問の声が少なくなくて。SDGsが自分ごとになりにくい要因になっているのかなと感じたんです。

平原 「エシカル就活だと思って行ってみたら、実態は全然違う」という方もいますね。私は企業や自治体でSDGs領域のコンサルティングにも携わっているので、この声をきちんと届けなくてはと。同時に、利益と社会貢献を両立するために企業が何を考えているのか、学生側も知る必要があるかなと思うので、あえて学生と一緒に商品を開発するような場もつくっています。

トラ 高校や大学までは社会貢献活動をしていたのに、就職した途端に自分の声が届かないと諦めて折れてしまう人がいるのはもったいない。でも、少しずつ受け入れてくれる企業も増えてきているんですよね。

平原 ここ1年で圧倒的に増えた感じはします。最初はSDGsの広報的な側面が先行していた日本企業でも、次世代に向けて実現しようという意識が高まってきていますね。社員さん自身の体験として最近よく聞くのが、お子さんから「パパとママの会社は、SDGsの何をやってるの?」と聞かれると。小中高では必修ですから先生が授業で記事を共有するし、受験問題にも出てくるので子供たちは感度が高い。ドキッとしますよね。

トラ 学校や企業でSDGsを伝えるにあたって、平原さんご自身が描くSDGsってどんなものなんでしょう?

平原 元々「社会の境界線を溶かしたい」という思いがあって、それが私のパーパス(存在意義)であり、SDGsはそこにつながる目標。様々な企業や個人の方とお話しすると、「SDGsを自分ごと化できない」という課題は共通なんですね。自分が叶えたい世界や自分が解決したい社会課題のためじゃなく、「SDGsのために」が先行してしまっている気がすると。たしかにそうだよねと考えたときに、自分が夢見る世界をちゃんと追い続ければ、その結果、SDGsも達成できるんだということを、世界で生きる人々から等身大で語ってもらいたいなと企画したのが『WE HAVE A DREAM』という本でした。

トラ 世界201か国のひとりひとりが共同著者だとか。

平原 スタートから半年時点では40か国しか集まっていなくて、完成の危機でした。それでFacebookグループで「まだ足りない国がこれだけあります。どうしよう?」って弱音を吐いたら、みんなから「早く言ってよ!」と返ってきて、一気に紹介の輪が広がったんですよ。時差も関係なくあらゆる面でサポートしてくれて。この本がみんなの夢になり、IからWeへ、他人ごとではなく〝自分ごと〟になっていった体感がありました。

トラ まさにそれこそが目指している世界観ですよね! 見て見ぬふりをしないというか。

目の前にいる人に向き合って「私たち」の新しい歴史をつくる

トラ 平原さんは8歳から単身中国に留学されたとのこと。SDGs達成には中国の動向は肝になると思うのですが、どんな視点で見ていらっしゃいますか?

平原 中国で学びたいと思ったきっかけは、転校してきた中国人の女の子の強さに惹かれたからなんです。実は当時、私はいじめられていたのですが、マイノリティの彼女が来たことでターゲットが変わった。でも、彼女はいじめられてもめげずに話しかけてくるし、算数の点数はめちゃくちゃいいし、とにかく好奇心の塊で気づいたらみんなの輪の中心にいて。なんでそんなに強いの? と聞いたら、「私中国人だから!」って言うんですよ。人口は10億人以上、日本みたいに国のお金でこんな良い教育を受けられる機会も少ない。だからみんなハングリーで必死だよ! …って。私はいじめられていたとき、声を上げないほうがラクだからと黙っていたんですが、中国に行ったら私も彼女みたいに自分の声を持てるようになるのかなと思ったんですね。

トラ 8歳ですごい…。現地ではどんな生活を?

平原 上海に行って飛び込みで何校か当たって、なんとか全寮制の学校が受け入れてくれました。ただ、南京大虐殺で日本が中国に侵攻したときの再現VTRをホームルームで毎日見せられて、国と国との歴史が原因でいじめられる事態に。

トラ 毎日…! その過酷な環境をどうやって打開していったんですか?

平原 学校の先生が「他の国の歴史を見てみて」と、アメリカの歴史の教科書を渡してくださったんです。読んでみると同じ史実なのに違う歴史として書かれている。「なんで? 」と先生に聞いたら「歴史は国によって変わるもの。特に学校で配られている歴史の教科書は、都合よくつくられている。あなたは今目の前にいる人たちと、まず人として向き合うことに注力して。そうすれば、新しいあなたたちだけの歴史をつくることができるから」と言われたんですね。そこから境界線のない社会や教育に、すごく興味をもち始めました。一個人として先入観を抜きに話していくと、もうただの友達で共感することのほうが多いんですよね。お互いそう気づけたからこそ、現地で通っていた小学校の子たちとは今でもしょっちゅう連絡を取り合っています。

トラ カテゴリで見るとつい自分と別ものだと考えちゃうけど、その前に相手も同じ「人」。そう考えると優しくなれるというか、壁が剥がれる気がします。

平原 本当に! 初めて会う人に対して国籍とか年齢などの枠で一括りに見ないことは、中国で学びました。

トラ 最近はどうしてもウイグルや香港などの人権問題が気になっていましたが、見渡してみれば日本でも外国人技能実習生の方々が苦しんでいる現実があり、どの国にも問題はあるんですよね。

平原 色々報じられている中国ですが、習近平さんの国内支持率が高いのは、貧富の差を改善してきた部分が大きいかなと思います。農村部の人々も差別なく就職できるように企業側に働きかけたり、権力層の汚職撲滅のためにシステムを整備したり。多額の裏金をなくして、税金として徴収して再分配できるようにという取り組みが市民に支持されているのではないかと。

トラ それは中国の知らない一面でした。今回は学びだけでなく、反省も多いです。限られた情報で知った気になってしまっていた自分が恥ずかしい…。想像力をもって人と人との関係を見直していきたいです。

平原さんが携わるSDGsプロジェクト

■201か国の若者の夢で世界をひとつに

世界各国のZ世代、ミレニアル世代の「夢」を一冊に集約。どんな未来を夢見て「どう生きるか」、SDGsに向き合うためのマインドを学ぶことができる。

『WE HAVE A DREAM』/いろは出版/¥2,860

■社会の課題を体験型授業で身近に

この日トラちゃんが体験したのは、ロヒンギャ難民キャンプのVR。「ニュースで目にできるのは本当に一部。子供たちがどんな環境で暮らして、どんな物を食べているのかといったことを現場を歩く感覚で知れました」(トラ)

平原さん&トラが考える境界線を溶かすために必要なこと

■無意識のバイアスを自覚する

「国籍や年齢、性別などの属性はアイデンティティの一部ですが、時として壁にもなってしまうもの」(平原さん)。「育った環境によるバイアスは誰しもある。すべてを受け入れなきゃいけないわけじゃなく、否定しないことが大切ですね」(トラ)

■〝We〟を主語にして考えてみる

「〝I〟の視点で見ると自分との違いから敵対してしまいがち。まず人として〝We〟でありたいな」(トラ)。「会社でSDGsに取り組む際はぜひ部署や業界を横断したチームで! 迷ったときも仲間がいると輪が広がって行動につながります」(平原さん)

■自分が見えている側面だけで知ってるつもりにならないように

国や画面といった〝境目〟の外にいる人に対する見方がすごく盲目的になっていたことを、広い世界を見てきた平原さんに気づかせていただきました。自分が知っている世界なんてきっと1%にも満たない。背景のストーリーを知ることで、もう一歩、優しくなりたい!

目指せ「SDGs」!トラちゃんの今月の一歩

■棚上まで積んでた本がスッキリ♪

段ボール3箱分の本を買い取りに出し、その査定金額を寄付しました。今回利用したのは『六畳ブックス』さん。森林保護やサンゴ礁回復、動物の里親探しといった活動を行っている保護団体に寄付できるのがうれしい!

■今月の1冊は…『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』

政治家との対話形式で現代の生きづらさの解決を探る一冊。くだけた文体でとっても読みやすく、政治が身近になります。騙されたと思って(笑)読んでほしい! 

著:和田 靜香/取材協力:小川 淳也/左右社/¥1,870

今月のSDGsブランド「ピープルツリー」

フェアトレード・ファッションの世界的パイオニア。働く人や環境に配慮した生産で、世界で初めてWFTOフェアトレード保証ラベルを取得。今回着用のワンピースは、ロンドンの歴史あるV&Aが所蔵するデザインアーカイブからインスピレーションを得たもの。

ワンピース¥20,900(ピープルツリー)、ピアス¥16,500・リング¥12,100(エレメントルール<パティエラ>)
2022年CanCam5月号「トラウデン直美と考える 私たちと「SDGs」より」 撮影/石田 祥平 スタイリスト/伊藤舞子 ヘア&メイク/川嵜 瞳 モデル/トラウデン直美(本誌専属) 撮影協力/有田梨菜 構成/佐藤久美子 WEB構成/坂元美月 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。