働く女のルポルタージュ第6弾!「ある管理栄養士の職務経歴書」
「ゆとり以上、バリキャリ未満」を生きる女子のルポルタージュ・大好評につき第6弾がスタート!
管理栄養士として健康カウンセリング1万人を目ざす薫の心は今、いたって平和だ。100万円投資詐欺にあっても、「仕方ない」。つきあってる彼には「子どもが欲しいなら、ほかの女の人のところに行って」。さて、薫の真意とは?
今どきの「女の幸せ」ってなんだろう? 世代を超えて共感必至の、女の人生ルポルタージュ。第6弾「薫」のVol.3をお送りします!
松野 薫(仮名)29歳/管理栄養士
1988年 茨城県出身、品川区在住
職歴/大学卒業時に管理栄養士の資格を取得し、食品系ベンチャー企業に就職。2年半勤務の後、フリーランスとして独立。似ているタレント/白石美帆
理想のタイプ/伊藤英明
パートナー/あり(未婚)
手取り月収/30〜40万円
★Vol.1 メタボなエリート社員を説得する方法【ある管理栄養士の職務経歴書①】
★Vol.2 やる気の搾取に遭わないために【ある管理栄養士の職務経歴書②】
Vol.3 「幸せの基準」に子供はいらない
目標は1万人のカウンセリング
今日のカウンセリングは、警備会社で働く人たち。昼は短時間で食べられるコンビニ弁当やカップ麺が中心、夜はストレス解消にお酒を飲む人が多い上に、食事改善に無関心な人が多い。そんな人に対して薫は、仕事のグチ、会社のグチをいったん聞く。その後、切り替えて「できることから改善していきませんか」と言うのが、いつものパターン。「ゆっくり噛む」「お弁当に味噌汁をプラスする」「休肝日をつくる」など、無理なくできることを提案し、「サポートしますよ!」と言い添える。
警備会社で15人のカウンセリングが終わって、この日も家に戻る前にスタバに立ち寄った。いつものソイラテを飲みながら、手帳の今日の欄の右上に「5000」と数字を書き入れた。大学卒業してすぐにこの仕事を始めて、年間で約600〜700人のカウンセリングを積み上げてきて、今のべ5,000人。ここまできたら、早く1万人に達成したくなるというものだ。
ならば。目標は「30代のうちに1万人のカウンセリング」。成果として見えにくい仕事だけに、今は数にこだわって実績を積み重ねていくのも、ありなのだ。それが、かたちになるのはずっと先でもいい。
「のべ1万人をカウンセリングしたら、それをもとにレポートをまとめ、学会発表でしたり、働き方の制度改正に関われるかもしれない。とはいえ、フリーで私みたいな仕事をしている管理栄養士はまだまだニッチな存在。この先の超高齢化社会の中で、どう活動していくのか、見えないところも多いのは事実です。そして、健康が企業に対してどう貢献できるか、個人の幸せにどう反映されるか。10年、20年のスパンで考えないといけません。ハッキリしているのは、健康でさえあれば、可能性は広がるということ。幸せな暮らしは健康なくして実現できないということ」
そう考えながらソイラテの残りを飲み、今日のカウンセリングのレポート書きを終わらせた。
スタバを出て、15分ほど歩いて区の図書館に移動。最近興味をもっているアロマの本、何日か分の新聞、栄養学に関する本を読んで1時間半過ごした。夕方5時半。スーパーで夕食の買い物をして、自分の夕食をつくって、からだのメンテナンスをする。今日はちょっとだけ奮発して、いつものお米を有機米にしてみた。電気炊飯器ではなく、最近買い替えた土鍋で炊くごはんは、ふっくらして本当においしい。
夕食後に、テレビドラマやネット配信はほとんど観ない。寝付きが悪くなるし、どうしても夜型になってしまうから。お風呂に入ったあとは、好きなアロマをたいて、スマホを切って、10時にはベッドに入る。彼からLINEが来ていても、睡眠が最優先。こんな穏やかで健康的な1日のしめくくりができたら、もう最高の幸せだ。翌朝に朝日が差し込むよう、カーテンは開けて寝るのも、薫の習慣。明日は天気が良さそうなので、5時半に起きて長めの散歩に出かけるつもりだ。
彼氏はいるけど、子どもが欲しいという願望がない
自分のやるべきことが明確になってからは、薫自身の生活はシンプル&スローにますます向かっている。朝起きたら白湯を飲んで体をあたためつつ、朝の太陽を浴びて、体の中からエネルギーがわいてくるのを実感する。朝から土鍋でごはんを炊いて、納豆とお味噌汁、あと有機野菜を使って何かもう一品。ゆるやかにグルテンフリーを実践し始めたところなので、食事は和食が多くなった。外食やお酒も好きだけれど、つきあいだけで行くことはない。本当においしい食事を楽しむためなら、多少高くても行くし、味を覚えて自分で再現するときの参考にもする。
運動は、ジョギングではなくてスローなウォーキング派。天気がよければ1時間くらいは散歩する。そして大事なのは、疲れたら無理に仕事を続けないで、早めに休み、次の日に持ち越さないこと。12時前には寝て朝は6時に起きるのが、今のベストなサイクルだ。
ネガティブなことはめったに考えないが、もし頭によぎったら、紙に書き出して頭から追い払う。好きな仕事をやっているぶんには、そうイヤなこともないので、最近は紙に書くこともずいぶん減った。仕事はまじめに、ウソをつかず、人に迷惑をかけず、自分のためだけでなく人のために働き、研鑽を怠らない。
まるで宮沢賢治の詩『雨ニモマケズ』のようだ。すごいドラマチックな出来事なんてなくてもいい。欲をなくして、あんなふうに考えられたら、それがいちばん幸せなのかもしれないとも思う。
「何が幸せなんだろうって、よく考えます。もちろん彼と過ごす時間も幸せですが、ひとりでいる時間が大好き。彼とは、今年のうちに一緒に住もうかって話は出ていますが、私のほうはそんなに急いでいません(笑)。というのも、子どもが欲しいという願望がないから。子どもが嫌いなわけじゃないんです。ただ、自分が生んで育てるとか想像つかないし、ママ友や保護者会のあれこれに、わずらわされるのは、私は無理。理想は結婚してもDINKSか、しなくてもこのままふたりで過ごすこと」
彼とは、先輩カウンセラーのホームパーティで知り合った。つきあって半年後くらいには、薫の結婚観を伝えていて、それに対する返答は、「薫がそう思ってるなら、それでもいい」。ただ、彼の気持ちがずっとそのままだとは、断言できない。年齢と共に考えは変わるだろうし、彼が本当は子ども好きなのは薫も知っている。
「彼には、『子どもが欲しいなら、ほかの女の人のところに行ったほうがいいかもよ』『そのときは、ちゃんと教えてね』って言ってます。それが、お互いの幸せだと思うから」
自分の中の幸せの基準が明確になると、だれといるかではなく、何をするかが重要になる。そして、1日中ひとりでいても、仕事でイヤなことがあっても、幸せの基準が明確なら、気持ちの揺れは最小限で済む。たとえば、つい先日起こった「投資詐欺事件」。本当なら人生で一大事のこの事件も、薫にとっては「そういうこともあるさ」という感じだった。自分でも意外なほどに、あっさりと。
※Vol.4 100万円詐欺事件!に続く。
【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第6弾「ある管理栄養士の職務経歴書」
Vol.1 メタボなエリート社員を説得する方法
Vol.2 やる気の搾取に遭わないために
Vol.3 「幸せの基準」に子供はいらない
Vol.4 雨にも、風にも、100万円詐欺にも負けず
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。
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