働く女のルポルタージュ第6弾!「ある管理栄養士の職務経歴書」
「ゆとり以上、バリキャリ未満」を生きる女子のルポルタージュ・大好評につき第6弾がスタート!
管理栄養士として健康カウンセリング1万人を目ざす薫の心は今、いたって平和だ。100万円投資詐欺にあっても、「仕方ない」。つきあってる彼には「子どもが欲しいなら、ほかの女の人のところに行って」。さて、薫の真意とは?
今どきの「女の幸せ」ってなんだろう? 世代を超えて共感必至の、女の人生ルポルタージュ。第6弾「薫」のVol.2をお送りします!
松野 薫(仮名)29歳/管理栄養士
1988年 茨城県出身、品川区在住
職歴/大学卒業時に管理栄養士の資格を取得し、食品系ベンチャー企業に就職。2年半勤務の後、フリーランスとして独立。似ているタレント/白石美帆
理想のタイプ/伊藤英明
パートナー/あり(未婚)
手取り月収/30〜40万円
★Vol.1 メタボなエリート社員を説得する方法【ある管理栄養士の職務経歴書①】
Vol.2 やる気の搾取に遭わないために
フリーで働くということ
今から7年前。薫は食品系ベンチャー企業に就職した。管理栄養士の資格は大学卒業時に取得し、卒業前に1年間のインターンシップで仕事の基礎をひととおり経験した。管理栄養士としての仕事だけでなく、お茶出しやコピー取り、社員の手伝いなど、「これが社会人か」とわかった1年だった。
「入社時には、カウンセリングの基礎研修を数日間やりました。が、そのあとはひとりで実地研修があるのみ。最初は…、もうボロボロでした。学生のときに勉強した栄養の知識なんて、とっさには出てこなくて、とにかく『一緒に頑張りましょう』と言うのが精一杯。情けなかったです。それもあって、うまく伝えられなかったことを補ったり、相談しやすくするために。ひとりずつに手書きで手紙を書くようになりました。相手に負担にならないよう手紙は手短かにまとめ、堅苦しくならないように文末にはニコちゃんマークをつけて。新人なりにあれこれ工夫しました」
薫の入社2年目は、変化の年だった。就職した食品系ベンチャー企業が大手企業に買収されたのだ。そのとき、信頼できる周囲の人に身の振り方を相談したところ、「松野さん、一緒に仕事しよう」と、何人かから言ってもらえた。そう言ってもらえるのなら。どこか会社に所属するのではなく、フリーランスとしてさまざまな企業や仲間と仕事をしたいと考えるようになった。
「一緒に仕事を」と言ってくれた人たちからもらった仕事は、「管理栄養士」の可能性を広げてくれた。男性向けのWebサイトのコラム連載では、忙しいビジネスマンの味方として、やさしく食事のアドバイスをする“カオルおねえさん”として。また、食育セミナーでは栄養の話をわかりやすく教える“松野先生”として。芸人さんやタレントさんと一緒にテレビの料理番組に出たこともあった。そのときは、しっかりしていながらヌケたところもある“薫ちゃん”としてイジってもらえた。もちろん、これまで同様に企業にはメタボ改善のカウンセラーとして出向く。仕事の幅が広がっても、カウンセリングが薫の仕事の中核にあることは変わりなかった。
「それからは、平日の日中は契約企業へカウンセリングをしに、さまざまな土地に出向きました。夜に東京に戻って、新しいクライアントや仕事相手と打ち合わせ。コラムを書いたり、セミナーをするのは、土日です。コラムを読んだ方から、テレビ番組の料理メニュー作成を頼まれたりもしました。そのための準備は、徹夜に近いことも。それはそれで面白かったのですが、忙しい生活が1年近く続いて…。んー、いろいろやりすぎちゃったかな。少し立ち止まって考えなくちゃ、と思うようになりました。それが、3年目でした」
やる気を搾取されないために
普通だったら、仕事の幅が広がるのは歓迎すべきことだけど、薫の考えは違った。なんでもできる人になるつもりはない。忙しいことを誇るつもりもない。費用と内容と情熱が折り合って、幸せを感じられることが、仕事なのだ。実際は「テレビに出られるんだから」「自分をPRできるんだから」という理由で、驚くほど安く雇われることもある(たとえば数時間かけて考えたレシピの報酬が、材料費込みで2000円だったり…)。その上、支払いまで数か月待たされることも少なくない。
「やる気だけ吸い取られて『安くてもガマンする』のは、やってはいけないこと。こんな話、『逃げ恥』にも出てきましたね、そういえば。あ、『やる気の搾取』と言っていましたっけ。仕事としてやるからには、相当の報酬をもらって、相手と自分のためになることをする。それが、健全な仕事の在り方だと思います。そうわかってからは、初心に戻って、ビジネスマンと企業の健康管理から外れずにいこうと決めました」
薫が「ビジネスマンと企業」の健康管理にこだわるには、さらにふたつの理由がある。
「ひとつは、いま叫ばれている働き方改革には、そのまっただ中にいるビジネスマンの健康なしに、実現しないということ。家族を抱えているビジネスマンが、残業を減らし、仕事を効率化するというプレッシャーの中、病気をかかえていては、すべてが台無しになってしまう。それを未然に防ぐのは、ほかでもない食だと思います。それを不特定多数に広めるのではなく、きちんとひとりひとりに、語りかけていきたい。それが私のやること。
そしてもうひとつ。テレビにも、Webにも、健康情報は山ほどあふれています。目まぐるしいほどに、健康のブームは次々とつくり上げられては、消えていく。そして、そのどれがいったい真実なのか、どれが自分の体にいいのか、情報を取捨選択するのは至難の業。一般の人でも、プロであっても。そんな今だからこそ、その人にとって必要な情報を選択して提供することが、大事じゃないか。実際、ブームに乗って間違ったダイエットをしている人、続かなくてリバウンドした人を、たくさん見てきましたから」
ただ難しいのは、食事を改善したとしても、健康になれたとしても、それで? という気がしないでもない。健康になれたから、仕事や家庭がうまくいった。収入がアップした。企業が成長した。そんなふうにわかりやすく測れる指標があるわけでもないし、成果として実感できるまでに年月もかかる。さて、なにを指標にしたらよいのか。3年目から今日まで、薫はずっと迷っていた。
【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第6弾「ある管理栄養士の職務経歴書」
Vol.1 メタボなエリート社員を説得する方法
Vol.2 やる気の搾取に遭わないために
Vol.3 「幸せの基準」に子供はいらない
Vol.4 雨にも、風にも、100万円詐欺にも負けず
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。
【あわせて読みたい】
※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第1弾「貯金1,500万の女子」
※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第2弾「キラキラOLのはずが飛び込み営業に」
※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第3弾「あみだくじで決まった配属」
※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第4弾「インスタ映えで幸せになれますか?」
※【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第5弾「外資OLの省エネ恋愛術」