動物のいない世界…人間は生き延びられるのか?
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回は、動物福祉に重きをおく、欧米の先進的な動物園をヒントに運営されている『よこはま動物園ズーラシア』園長の村田さんに、今、世界の動物たちに迫る危機と私たちの生活との関係性について伺いました。
想像することから未来は変わる
トラ 久々に動物園に来ましたが、草原や森などで野生に近い動物の姿を見られて感動しました!
村田 生息環境展示といって、動物たちの生息地をできるだけ再現し、そこで楽しく過ごしながら生物の多様性や命の大切さを学んでいける場にしています。飼育展示動物の約90%は、絶滅危惧種。単に見てもらうだけではなく、飼育下で保護して増やして、いつか生態系が回復したときに自然に戻そうという考え方ですね。
トラ 日本で都市部に住んでいると、地球の動物が絶滅していっていると身近には感じにくいですよね。
村田 知らなくても生きていけるし、そのほうが幸せかもしれないけれど、「自分たちが生活している地球上で、森林が破壊され、動物たちが生息地を失っていると想像できる場」というのが都市型動物園の役割のひとつ。ここに来て、みなさんのライフスタイルを少しでも変える動きにつながればいいなと思います。
トラ 私たちの生活との関わりとして、動物たちがいなくなってしまうことで困ることはありますか?
村田 ないでしょうね。というのも、例えばズーラシアで飼育しているオカピ。コンゴ民主共和国の密林にいて、おそらくあと3万頭ほどしかいないだろうと言われている希少種です。そのオカピが明日世界からいなくなっても、 私たちの生活は全然変わらないですよね。
トラ 普通に暮らして、気づきもしないかも…。
村田 でも、オカピなどが生息する地域では、私たちが使うスマホや電子機器に欠かせないレアメタルが採掘されます。密林開発で、オカピなど野生動物の生息場所がなくなっている。さらに現地の人が労働力として入って野生動物を食料にする。つまり、脱炭素に重要な役割をもっている森林生態系が破壊されていくわけです。まさに私たちの生活と直接関わる問題で、これを考えられるかどうかで未来が大きく変わってきます。
人間が生きのびるために動物を守ることは不可欠
トラ 絶滅も気候変動も、不可逆なものですよね。
村田 プラネタリーバウンダリーとは、地球上で人間が安全に生存できる限界。今はこの境界を越えてしまったと言われていますよね。元には戻らないけれど、せめてスローにできないかと模索しています。
トラ 私たちにどんなことができますか?
村田 デヴィッド・アッテンボローという著名な動物学者によれば、「ロックダウン中に自然の自己修復が進んだように、生態系を回復したいなら地球には人間がいないほうがいい。むしろ人間が生きのびるために動物を守る必要があるんだ」と。たしかにそうだなと。私たちも上から目線ではなく、自分と子孫のためにマストなんだという意識をもっていたいですね。
トラ そう言ってもらえたほうが動きやすいですね! 余裕がないとボランティアはできないけれど、自分のためだと思えば人間は動けますから。
村田 若い人たちほど真剣にとらえてくれますね。共生とか共存ってきれいな言葉ですが、実際は3000万種以上の生物がいる中で、生態系から得られる恩恵の90%以上を人間が搾取している状況です。人間が本当に万物の霊長ならば、知恵を絞ってエネルギーを減らす、成長を抑制する、という歩み寄りが必要だなと。肉食も減らさざるをえない時代がやってくると思います。
トラ ひとりで変えようとするとすごく遠い道に感じてしまいますが、大きな社会のシステムを変えられるようちゃんと声を届けていきたいです。
ズーラシア・未来への取り組みを教えて
<環境教育 調査研究 希少種の保全>
「生命の共生・自然との調和」をコンセプトに、約100種の動物たちが飼育展示されているズーラシア。様々な希少種の繁殖に成功し、中でもインドネシア・バリ島で密猟によって激減したカンムリシロムクは、日本の動物園では珍しい海外の野性復帰協力事例に! また、未知の生態を調査研究し、保全や飼育環境改善に活用。子供たちが体験を通じて学べるスクールを企画するなど、次世代につなぐ試みも行う。
50年後を生きる自分が今行動することで、孫もゾウやキリンが見られる世界に
動物に会えると癒やされるのはもちろん、この世界で生きているのは人間だけじゃないと実感できます。子供の頃から当たり前に知っている、ゾウやキリンが仮想や歴史のものになってしまうのは悲しい! 直接見て感じることができる環境を守っていきたいですね。
目指せ「SDGs」!トラちゃんの今月の一歩
■お風呂用のスポンジは、へちま♪
ポリエステルやナイロン、アクリルなど合成繊維でつくられたものは、排水を通して海の生態系に影響を与えるマイクロプラスチックを放出してしまうと知って、取り入れています。自然由来のものなので、安心して使えます。
■今月の1冊は…『サクッとわかる ビジネス教養行動経済学』
自分の購買行動の傾向がわかるので、本当に必要なものだけを買うためのヒントになります。ついつい買っちゃうムダなものを減らせば、ゴミもムダ使いも減らせて一石二鳥!
今月のSDGsブランドは…「AIGLE」
農家をはじめ、自然と暮らす人々と歩んできた創設168年のフランス発祥ブランド。日本独自プロジェクト「LIVE WITH NATURE」の一環として、棚田保全とその棚田米を使ったヴィーガンアイスクリームを展開するBEAT ICEの活動を支援している。