「ちょっととっつきにくいけど、じっくりつきあってみると楽しかったりかわいかったり泣けたり笑えたりするニクいやつ、その名も文楽くん」と『あやつられ文楽鑑賞』で表現した、三浦しをんさん。
『和樂』6月号では、文楽がグッと身近になり、面白く観ることができるツボを教えていただきました。
【1】人形だからこそ人間の本質を表現できる!
歌舞伎や能は生身の人間が演じますが、文楽では人形を遣って表現します。しかも、ひとりで遣うのではなく、主遣い、左遣い、足遣いの3人がかりで動かす人形は、誰のものでもない存在として見えるのです。
「江戸時代は、歌舞伎は女性ファンが多く、人形浄瑠璃は男性ファンが多かったといわれています。今もフィギュア好きな男性が多いように、男性は人形のもつフェティシズムに魅かれるのかもしれないですね」(三浦さん)
【2】ソウルフルな義太夫と三味線を聞け!
「文楽」を聞きに行くという人もいるほど、太夫と三味線によって紡ぎだされる義太夫節は、文楽の核となる部分です。
「太夫は、すべてを語り尽くす存在なんですよね。単なるナレーションとも違う。ときに登場人物そのものになり、ときには当の登場人物でさえ気づいていない内心を語ったり、神の視点になったり……そういう意味で、文楽のような語り物の芸能は小説と似ている部分があります」(三浦さん)
ソウルフルに奏でられる三味線ですが、決して義太夫の伴奏ではない、という点も興味深いところです。
【3】大河ドラマ好きは時代物を観よ!
文楽の演目は大きく「時代物」と「世話物」に分けられます。作品の舞台が江戸時代以前に設定されているものが「時代物」、江戸時代の現代劇として書かれたものは「世話物」です。
「現在のテレビ番組で考えると、事件もあり、恋愛もあり、戦いもあり……という大河ドラマみたいな話が好きな人は『時代物』が合うはず。『世話物』は月9の恋愛ドラマにワイドショーをくっつけたようなもの。今、世間で話題の出来事をすぐに取り入れて作品にしているんです」(三浦さん)
【4】三大名作は、ぜひとも「通し」で!
三大名作といわれるのが「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」の三作。現在もこれらは歌舞伎でも上演されていますが、物語をすべて上演する「通し」だと長いので、人気のある段(場面)だけ上演することが多くなっています。
「でも、文楽は『通し』でやることも結構多くて。三大名作はぜひとも『通し』で観ていただきたいです。登場人物も多くて、筋も複雑ですが、ずっと観ていると、その物語のダイナミズムみたいなものが感じられて、感動します」(三浦さん)
【5】ダメ男のオンパレード!
『曾根崎心中』の徳兵衛しかり、『心中天網島』の治兵衛しかり、世話物には、優柔不断で生活力のないダメ男が多く出てきます。でも、なぜか女はダメ男に惹かれてしまう。
「そういう男でもなぜか憎めず、ほだされてしまう女の人がいるのは、今も昔も変わらないんですよね」(三浦さん)
【6】家元制度がない実力主義の世界!
歌舞伎や能とは違い、文楽の世界には家元制度がありません。江戸時代から実力主義を導入し、師匠に入門して実力を認められれば、家柄や血縁関係がなくても舞台に立つことができます。
現在活躍中の太夫、三味線、人形遣いの約半数は、文楽研修生出身。そんな若手の成長を見守るのも、文楽の楽しみといえます。
歌舞伎、能とはまた違った楽しみが魅力的な文楽。人形が見せてくれるさまざまな表情、そして舞台を作り上げる人々、あらゆる面に魅了されてしまいそうですね。(鈴木 梢)
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