作家LiLy×所長対談(6)「自分の本気さ、必死さがなければ、夢を追い続けられない」

LiLyさんが小説『ブラックムスク』にて題材にした「女性の自意識」。小学館女性インサイト研究所所長・嶋野智紀との対談で、「自意識」を他人に見せない「ギャルの次の世代」がどうなるのか、また最近の「自意識と欲」について話が移ります。

対談(1)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(1)「渋谷ギャル世代の“自分vs.自分”な自意識の戦い、舞台は表参道」

対談(2)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(2)「女子高生のリアルを知ってる私の声は、誰にも届かなかった」

対談(3)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(3)「人よりかわいい“読者モデル”の苦しさ、大変さ」

対談(4)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(4)『ブラックムスク』読みどころ秘話

対談(5)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(5)「茨城からきたとバレぬよう、友達みんなで口裏合わせてた(苦笑)」

 

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LiLyさん(以下、LiLy) 『パープルレイン』、『グリーンライト』、『ブラックムスク』のカラーシリーズは、職業小説でもあると思っていて、3冊で18人、それぞれの仕事を書いています。今回は中でも特に、専業主婦の主人公の話の反響が一番大きかった。主婦は立派な仕事のひとつだと私は思っていますが、給料は出ない。そういう主婦の内側のシビアさまでは想像していないのか、今の若い女の子たちの中には「結婚したら家に入りたい」という子が増えてきているみたいですよね。不景気で仕事が辛い、というのもあるのかな。

嶋野智紀(以下、嶋野) それは大きいと思いますよ。景気って、みんなが思う以上に人の考え方や価値観に影響を与えていると思います。不景気と言えば、今いわゆるマスメディアやエンタメ業界も景気が良くなくて大変なんですが、インターネットの普及やスマホがどうこうってこともあるとは思うけど、僕はもっと根本的な問題が背景にあると思っているんです。それは、今みんなが作家になりたくて、みんながアイドルになりたくて、全員が何かになりたがっている、という問題。さっき、安室ちゃんの歌の影響で「夢は見るものではなくて叶えるものなのだ」という考え方がギャル世代を中心に広まった、という話をしましたけど(編注:対談(1)参照)、あの歌詞は非常に罪深いと思ってるんです。マスメディアやエンタメ業界においては、全員の夢なんて叶わないわけです。スターが1人いて、お客さんが100人いるからシステムが成り立っているんです。みんながスターになろうとしたら、100人がデビューするけどお客さんは1人もいない、という状態になる。演者ばかりでお客さんがいないんですから、これは売れるわけがない。

LiLy まさに小説『夢を売る男』ですね!

嶋野 唯一儲かるのは「夢を応援する仕組み」を売る人たちね。スクールとか。

LiLy スクールね。なんでもありますもんね。

嶋野 今は読者モデルになる方法を教えている学校もあると聞きました。

LiLy うわー……。

嶋野 さっき「自分が膨らんでいく」の話がありましたけど、自分が肥大していくから、みんなが特別な存在になりたい。でもみんなが演者になろうとするとお客さんがいなくなって破たんしちゃう。それこそ、高齢者を現役世代の何人が支えるのかという年金の話じゃないですけど、100人のお客さんがいるからこそスターは輝くのに。

LiLy でも、うわーって客観的に笑えないです……。私自身も同じだったから。私の両親は読書家で、勉強しろって言われたことはないけど、とにかく本を読めってうるさくて。「これはお前の人生を豊かにするから読め」って言われてたんですが、私は「読まない。書く」ってずっと思ってたんですよね。

嶋野 僕も同じようなことを思ったことはあるけど、多くの人は夢は夢としてどこかの時点であきらめていたと思うんです。でも今は、ある意味でインターネットとパソコンがあれば勝手にデビューできる。だから、なかなかあきらめられないというか。

LiLy そうですね。でも、今思うのは、そこには本気度の差があるってこと。ちょっとやりたいなーくらいの気持ちじゃ、モチベーションが続かないんですよね。才能とか運とかももちろん関係はあるけれど、その前に自分の本気さ、必死さがなければ、選ばれる前に自分自身が続かない。あともっと言えば、その必死さって、持って生まれたものもあるんですよね。これは、自己顕示欲の量の問題。林真理子先生が『野心のすすめ』に書いてましたが、その人が持つ自己顕示欲の量によって、専業主婦としての生活で満たされる人もいれば、それでは満たされない自己顕示欲の強い人もいる。私みたいな自己顕示欲の強い人間が家の中に収まろうとすると、たぶんカオスになるんだと思うんです。自分の持つ自己顕示欲の量との適合なんですよね。夢をがんばれていいねっていう見方もあるけど、こんなに欲深くなければこんな苦しい思いはせずに済んだのにって、今まで何度思ってきたかわからないです。

嶋野 今聞いていて思ったんですが、欲って後から作られる部分もありますよね。弥生時代の人たちに「辛いもの大好きなんです」っていう人はいなかったでしょう。雑穀を食べて満足だった。でもいろんな料理が伝わって来たりして、知ることによって欲が増えていく。メディアっていうものによって欲が増えちゃった結果、今こういう状況になってる。これは非常に20世紀的な状況だと思います。21世紀になってもまだ20世紀を引きずってる。でも、それが10年20年経って新しいものが生まれてくるでしょう。下の世代の人たちがどうなっていくかで、新しい21世紀の「自意識」がどうなるかが決まってくる。

LiLy 本当にそうだと思います。「ああなりたい」っていう気持ちが欲を増大させる。

自身の自己顕示欲の多さに苦労したというLiLyさんは、総アイドル化する次世代の女の子たちの気持ちにも共感。いつの時代も変わらない様々な「自意識」に、苦しんだり葛藤したりする女性たちを描いた小説『ブラックムスク』は、LiLyさんが次の世代の「自意識」を見つめる布石でもありました。対談最終回の次回では、『ブラックムスク』を書くにあたりLiLyさんが初めて経験した苦しみ、その末に得たものについて話をしていきます。(安念美和子)

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『ブラックムスク』LiLy
(¥1,260/小学館)

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