作家LiLy×所長対談(5)「茨城から来たとバレぬよう、友達みんなで口裏合わせてた(苦笑)」

作家LiLyさんは、小説『ブラックムスク』の中で、読者を楽しませるいろいろなテクニックを忍ばせていたことが判明した前回の対談。引き続き小学館女性インサイト研究所所長・嶋野智紀と、女性は「自意識」とどうつきあっていくべきかについて語ります。

対談(1)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(1)「渋谷ギャル世代の“自分vs.自分”な自意識の戦い、舞台は表参道」

対談(2)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(2)「女子高生のリアルを知ってる私の声は、誰にも届かなかった」

対談(3)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(3)「人よりかわいい“読者モデル”の苦しさ、大変さ」

対談(4)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(4)『ブラックムスク』読みどころ秘話

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嶋野智紀(以下、嶋野) 正解はないけど、昔々の太宰治の『人間失格』の時代から、「自意識」を指摘されてすごく恥ずかしくなっちゃう、そういう話は普遍のものだよね。昔は太宰治がいて、今はLiLyがいて、10年後もまた「自意識」を題材にした作家が生まれると思うんだけど、書く内容は全然違うと思うんだよね。

LiLyさん(以下、LiLy) 嶋野さんが連載を始めるときに言っていたセリフが、連載中ずっと頭の中にありました。「女の子が幸せになる方法は、いかに選択肢をたくさん持てるか」だと。その通りだなって思いました。

嶋野 そうでしょ。僕はすべての女の子にそうアドバイスしてますからね(笑)。

LiLy 同じ状況になっていても、いくつかある選択肢の中から自分で選んでそうしているのと、それしかなくてそうなっているのでは、生き心地は全然違う。じゃあどうすればいいのかというと、常に数年後の自分が複数の選択肢を持っていられるように自分で準備してあげなくてはいけない。自分で自分を育てていく感覚というか。子育てみたいなものです、自分の扱いも。あなたは何がしたい? じゃあこうしていこうって、自分の中で自分と対話して、自分で行動してなんとかしていく。方法はいつだってそれしかない。自分vs.自分の葛藤が苦しかった時期を経て、自分+自分で力を合わせて生きて行ければ最強というか。すごくつらい出来事があっても、自分で自分に優しく「いいじゃん、頑張ったじゃん」って心から言えれば、誰に慰められるよりもいいんですよ。自分で納得できるから。自分の頭の中の声って、苦しめられるし、つらいこともあるけど、それがプラスに働くとものすごいエネルギーになる。自分とのつきあいが30年目で私も自分に慣れてきた。自分で自分を満たしてハッピーを維持する、その感覚がしっかりと掴めてきた。

嶋野 ちょっとまとめる感じになるんですけど、自分の小さな成功体験が自分をつくるっていう話があって、でも若いころは自分の自意識と戦っていて、何に悩んでいるんだろう、それって自分じゃんと思っていて、それが30になって楽になるっていう構図でしたよね。それってひとつの通過儀礼みたいなところがあると思うんだよね。その苦難を乗り越えたからこその平穏に価値があるように思うのね。だけど下の世代を見て思うのは、戦うと苦しいから戦わない、みたいな。そしたら、その先に何も来ないんじゃないの?って心配になっちゃう。

LiLy うんうん、確かに、そういう風潮になってきているみたいですよね。でもそのぶん“ヘンな見栄”みたいなのも減って、そういう意味ではそっちのほうがよっぽど正常なのかなとも思います(笑)。というのも、10代のころの葛藤の中には、もう本当にどうでもいいこともいっぱい含まれているじゃないですか? たとえば私は10代の頃、地元の女友達と口裏を合わせて、クラブで出会う男の子たちに「茨城から来た」ってことが絶対にバレぬよう、みんなで細心の注意を払っていました(苦笑)。

嶋野 わかる。言えない、言えない。茨城の葛藤ってありますよねー(笑)。(編注:LiLyさんも所長も茨城県出身)

LiLy でも、そのとき友達になった男の子が海に行くときに私たちを迎えにきてくれるってなって、当然バレて(笑)。「あーそうそう、そのまま六号線まっすぐ来ちゃってー」とかナビして千葉と茨城の県境を越えさせ、「おい!千葉っていうから近いと思って来たら、ここはもう茨城じゃねぇか!」と怒られ(笑)。今でもそのときの仲間とは、この見栄ネタで爆笑です。あ、でもそんなふうにして自分自身の過去のダサい見栄や、カッコ悪い恋愛失敗エピソードって、友達と笑い飛ばすことでなんとかチャラにしてきた、というのはすごくある。最終話の23歳の主人公が抱えるダークさは、“あること”を、心を許している女友達を含めて誰にも、絶対に言わないというところにあると思っています。秘密を抱え込むのと、自分のダサいところを笑い飛ばすっていうのは、ある意味真逆の行為ですよね。さっき自分の「自意識」とうまくつきあうのは、成功体験の積み重ねっていう話をして、それもひとつなんですけど、それよりも、若いときの苦い体験を最終的には笑いへと昇華させていくっていうのも大きいかもしれない。もちろん、絶対に笑えないことだってあるけれど、そのときはものすごく悩んでいることでも、時間が経てば笑えちゃうことのほうがよっぽど多い。だから、大丈夫。

嶋野 まぁ、「最近の若者は……」という話は古代ローマ時代の壁の落書きにもあって、それこそ昔々から言われ続けてることですよね。それでも人類はこうして今も続いてるので、絶対大丈夫なんだけどね(笑)。大丈夫なんだろうけど、大丈夫かな?って思っちゃうよね。

LiLy 絶対大丈夫ですよね(笑)。

小さな成功体験の積み重ね以外に、自分の「ダサかったところ」を後から笑い飛ばせるかどうかが「自分を飼い馴らす」のに必要だったと語るLiLyさん。それができない象徴であるNEXTギャル世代の「自意識」について続いて語っていきます。(安念美和子)

 

BlackMusk
『ブラックムスク』LiLy
(¥1,260/小学館)

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