作家LiLy×所長対談(1)「渋谷ギャル世代の“自分vs.自分”な自意識の戦い、舞台は表参道」

『AneCan』の人気連載『ブラックムスク』が待望の書籍化! 作家・LiLyさんによる、表参道を舞台にすれ違う6人の女性の「自意識」を描いた話題作です。この連載は、現・小学館女性インサイト研究所所長であり当『Woman Insight』の編集長でもある嶋野智紀(当時『AneCan』編集長)との出会いがきっかけでスタート。そんなふたりが、連載開始のころを振り返りつつ、LiLyさんがこの話を書こうと思ったエピソードについて語ります。

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嶋野智紀(以下、嶋野) では最初に、この「自意識」をテーマにした小説を書こうと思ったきっかけ、書き終わったときの気持ちなどをお話しいただけますか?

LiLyさん(以下、LiLy) 20代のときに、取材でお会いした大竹まことさんが「いつだって邪魔をするのは、自意識だ」とおっしゃったんです。そのとき、一緒にいた土屋アンナと思わず「おぉ!」ってのけぞりました。10代、20代と、うまく言葉にできぬような独特の苦しさ、生きづらさを感じることが多かったけど、それは外部からのストレスではなく、自分vs.自分の葛藤だったのかと! すごく腑に落ちたんですね。そして、そのことをまた思い出したのが、30代に入ってから。 私が20代のころ、先輩たちがみんな「30歳を過ぎると楽になるよ」って言ってたんです。自分が今32歳で、20代のころより確かにずっと楽なんですね。育児と仕事の過渡期が重なって、生活的にはずっと大変になったのに、心は、ずっと軽いというか。それってなんでなんだろうって思い返したときに、あぁこれは、自分の中の「自意識」みたいなものからゆるやかに解放されてきたからだと感じたんです。結局、生活環境というよりも、自分の中にあるものの変化なんですよね。自分vs.自分の戦いを振り返ると、ピーク時は女子高生のころ。今の28~35歳くらいって、青春時代にギャルが大流行した世代なんです。そのときって、「イケてるか死ぬか」みたいな文化だったんです。

嶋野 「イケてるor DIE」だね(笑)。

LiLy 「イケてるor DIE」、そう、まさにそんな感じ(笑)。その「イケてる」っていうのも自分たちの価値観でしかないから、振り切っていて、大人から見たらすごく変だったと思う。白メッシュの本数がどんだけ多いかどんだけ日サロ焼けしているか、誰がどんだけ過激かっていう……また“美”とはまったく違う世界。「美しいor DIE」じゃなくて、あくまでも「イケてるor DIE」(笑)。誰が一番とんがってるか、誰が一番イケてることにかけてるか、どんだけ根性あるか……ってちょっとヤンキーっぽいメンタルですよね。友達の中で、イケてると思われることがとにもかくにも最重要で。そんな青春時代特有のビンビンの自意識は、どの世代にも共通していると思います。でも、今のアイドルがAKBだとしたら当時のギャルのミューズは安室ちゃん。『Chase the Chance』みたいなスピリットの時代なんですよ。それで「そうか、イイ子はイイ子でしかいられないのか。あたしは愛も夢もぜんぶ追ってやる!」っていう“戦闘態勢/上昇志向”を10代の頃に体内にインストールした私たちの20代は、自分の中での理想と現実のギャップとの戦いも、それはもう激しかった。で、そんなふうに10代20代を生きてきた、あのころの渋谷ギャルは今どこにいるのか、というと渋谷にはもういない。若いころに渋谷にいた、みたいな“謎のプライド”があるので、むしろ今は渋谷をちょっと下に見ていたり。そういうふうに常に“上から目線”なところも、この世代の特徴のひとつですね(笑)。あの頃の渋谷に代わる街、今の“オンナの自意識”を描くのにふさわしい街といったら、ひとつしかない。だから『ブラックムスク』の舞台は、表参道なんです。

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本気でギャル時代を過ごしたLiLyさんのリアルな言葉。おおいに笑わされつつ、そのころの激しい胸の内がうかがえます。次回はLiLyさんが作家になりたいと思ったきっかけや、LiLyさんが代表する「ギャル世代」についての対談が続きます。(安念美和子)

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『ブラックムスク』LiLy
(¥1,260/小学館)

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