作家LiLy×所長対談(4)『ブラックムスク』読みどころ秘話

小説『ブラックムスク』で描かれる“女性の自意識”。その6人の女性たちは、立場や年齢は違えど、誰しも少なからず共感できる部分があるはず。発売記念の小学館女性インサイト研究所所長・嶋野智紀との対談を進めるうちに、LiLyさんのリアルな心理描写に加え、読者に楽しんでもらうためのテクニックも満載だったことが判明します。

対談(1)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(1)「渋谷ギャル世代の“自分vs.自分”な自意識の戦い、舞台は表参道」

対談(2)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(2)「女子高生のリアルを知ってる私の声は、誰にも届かなかった」

対談(3)はコチラ→ 作家LiLy×所長対談(3)「人よりかわいい“読者モデル”の苦しさ、大変さ」

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嶋野智紀(以下、嶋野) 美容師アシスタントの話を最後に持ってきたのって、面白いよね。この話だけ異質じゃない?

LiLyさん(以下、LiLy) 第一話は、自意識の高い読モを書こうと思っていて、その読モが憧れる男が好きなのが、その読モのブログにコメントをした女の子にしようと決めていたんです。6人の主人公がいる6つの独立した話が、少しずつ繋がっている連作短編ならではの面白みというか。読モはコメントしてきたファンを自分より下に見ているけど、自分が好きな男はそっちを選んでるっていう図が書きたかった。で、その男が選ぶくらいだから、大変な仕事を一生懸命頑張っている子がいいなと思ったんです。

Woman Insight編集部(以下、WI) この美容師アシスタントの子は自意識低いですよね。

LiLy そうです。低いんです。第一話から六話にかけて、少しずつ主人公の自意識が薄まっていく設定にしていて、それを香水『ブラックムスク』の香りの濃度とかけています。ページの隅っこに香水のイラストを載せているのですが、本をめくるとパラパラ漫画のように瓶の中身が減っていくんです。これは連載当初から、書籍化したらやりたいと思っていたアイディアで。かわいいでしょう~。

嶋野 うわ! ほんとだ! かわいい! 自意識の高さと香水の量がリンクしてるわけか。

 

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WI 同じひとつの香りなのに、匂いの描写も、人によって全く感想が違っていて面白かったです。

LiLy そもそも架空の香水で、その匂いは私の頭の中にイメージとして存在しているだけだから、それを6通りに描写するのは大変だった。すぐ「甘苦く」とか書きたくなっちゃって(笑)。

嶋野 僕ら最初は『AneCan』の連載で読んでいて、こうして本になってまとめて読み返すと「あのときのあいつはここに出てたんだ!」とか、そういう発見が面白いよね。

LiLy 私、連載短編を読むのも書くのも大好きで。あ、この脇役の人、ここでまた出てくる!みたいな繋がりをたくさんつくって作品の中に散りばめて、ひとつの物語へと繋いでいく。そこに、人生のリアリティをすごく感じる。『ブラックムスク』は、六本木を舞台にした『パープルレイン』、渋谷が舞台の『グリーンライト』に続く、色がタイトルに付いたシリーズなんですが、1冊目のときからテーマとして書きたかったのが“縁”なんです。知り合うのももちろん“縁”なんだけど、おんなじ場所で同じ信号待ちをしているのに、一言も言葉を交わさない。そういう“縁”って日常の中に溢れているけれど、特に気にとめることもない。それ、面白いなと思って。お互いの存在に気づいてないわけではなく、「あ、あのブランドの靴履いてる」とか「ちょーかわいいな」とか、すれ違うときにいろいろ思ってはいる。でも他人のまま、人生がクロスすることはない。でも、一瞬だけど、絶対になんらかの影響は与え合っている。今作では、香水の香りが他人へと移っていく。その流れと、知らず知らずに繋がっている感を書きたかったんです。他人のままの“縁”。

嶋野 一番最後の登場人物、美容師アシスタントが23歳で、登場人物の中で一番若いのね。で、どの世代の人が読んでも通じるっていう普遍的なものと、ギャル世代の人たちの感覚っていう話をさっきしたけど(対談2回目参照)、ギャル世代よりももっと下の世代って、また全く感覚が違うじゃない。

LiLy あ、そこに気づいてもらえてうれしいです。

嶋野 僕は下の世代にも自意識ってあると思うんです。でも、だいぶ自意識の持ち方が変わってきていて、第一章に出てくる26歳の読者モデルは、僕なんかでも理解しやすい自意識なのね。今まで一番接してきた年代だから、よくわかる。それがどんどん、若い世代になるほど自意識を見せなくなってきてるっていうか、さっき「自意識が薄い」って言葉が出たけど、本当に薄いのかがわかんないんだよね。

LiLy この最終章の美容師アシスタントは23歳で、第一話の読モの子より3歳年下ですが、自意識的には読モの方が“若い”感じがしますよね。でもここには世代差があって、今20代後半の子と前半の子では自意識の種類のようなものが違うんじゃないか、と考えたんです。『今の若い子は欲がない』とよく言われますが、欲がないというより、欲の種類が変わってきたんじゃないかと思って。ガツガツと肉食的に熱いのがギャル世代なら、今は、もう少し淡々とした欲というか。人の目を気にしてヒートアップするというよりも、淡々と他人を見下す感じの自意識というか。

嶋野 いるよな、こういう子。で、見下してるけど、自分では特に何もやらないし、言わない(笑)。いろんなところでも同じような構図が見えるんですけど、例えば女性雑誌の編集長も、昔は男性ばかりだったんです。それが先輩の女性編集者たちが頑張って、苦労して、認めさせて、今では女性の編集長が当たり前の時代になった。それなのに、今の若い女性編集者に話を聞くと、みんな「編集長になりたくない」って言うのね。理由を聞くと、「大変そうだから」って。それはもう、夢中で雑誌作りに人生かけてきた僕ら世代を見ての反動なのかな、と思ったりして。

LiLy 『ブラックムスク』の中で絶対に書きたかったセリフがあったんです。上の世代の人が下の世代の子のことを思って親身にアドバイスしてくるのに対し、下の世代の子は「いやいやいや、私はあなたみたいになりたくないから」って思っているっていうセリフ。こうして、ひとつ上の世代との摩擦によって少しずつ時代の流れって変わっていくのかなって……。これは、40歳になるアパレルブランドのプレスが登場人物の話の中に入れたのですが(CHAPTER 5)そういうのってありますよね。

嶋野 これ見てドキッとした。あっちゃー、俺やってるわ、あぶねー!みたいな。

LiLy これは本当に、自分でも感じていることです。30代になって、10代20代の子についアドバイスしたくなる気持ちが芽生え、いや、でもこういうの余計なお世話だったよなと思い出して途中でやめたり(笑)。『ブラックムスク』の中に入れたのは、若い子に自分が選んできた道をすすめることで、自分の選択/自分の人生を肯定しようとする先輩ヅラした“己の欲”です!(笑)

前の世代の「自意識」を、次の世代が違う「自意識」で塗り替えていく。小説が進むにつれ、そんな世代交代を感じさせるエピソードが盛り込まれていたという事実。LiLyさんが描いた 「自意識」の世代差は、みんな一度は感じたことがあるはず。そこもまた、LiLyさんの小説から目が離せない理由のひとつです。次回はLiLyさん自身が自分の「自意識」をどうやって「飼い馴らして」来ることができたのかに続きます。(安念美和子)

BlackMusk
『ブラックムスク』LiLy
(¥1,260/小学館)

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