LiLyさんが作家を志すきっかけとなった高校生時代のエピソードに続き、当時のギャルのように、“現代”を象徴する存在としての「読者モデル」に話が移った前回。小説『ブラックムスク』に登場する6人の女性は、まさにその「読者モデル」が主人公の章からからスタートします。『ブラックムスク』を執筆するにあたり、LiLyさんは各キャラクターを通じて、どんな“女性の自意識”を描きたかったのか。小学館女性インサイト研究所所長・嶋野智紀との対談でお届けします!
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LiLyさん(以下、LiLy) 書く前から「『ブラックムスク』のCHAPTER 1は絶対に読者モデルから始めよう」って思ってたんです。
嶋野智紀(以下、嶋野) 「(これだけ読者モデルが活躍する)『AneCan』の連載なのに、よくもこの話を最初に持ってきたなLiLy!」って当時は思いましたよ(笑)。いろいろ波紋は呼びました、編集部内でもね。
LiLy あの内容を『AneCan』に掲載してもらうということに、すごく意味があると思っていたので、「LiLyさんの好きに書いてください!」とおっしゃっていただいて本当にうれしかったです。
嶋野 当時の担当者が原稿を持ってきて「嶋野さんこれどうしましょう」って言うから、「いいんじゃねーの別に」って。ネガティブな意味ではなく、読者モデルが活躍する雑誌に掲載することに意味があると僕も思ったんだよね。揶揄している内容ではなかったし。
LiLy そうなんです。読者モデルが活躍している雑誌でやりたかったんです。もっと言えば、読者モデルを一度でもやったことがある人に特に読んでもらいたかったんです。主人公は、読者モデル/ブロガー。読モではなくても、ブログを書いたことがある人なら「うぅっ」となる内容だと思います。
嶋野 あれを書こうと思ったいきさつは?
LiLy 読者モデルって、今では“(笑)”(かっこわらい)がつくほど普及したひとつの職業ですよね。ギャルほどじゃないけど、ひとつのカルチャーとしてもワーッと盛り上がっていったじゃないですか。読モではなくても、少しでも自分を人よりかわいいと思っている女の子は、読者モデルの立ち位置と似たものを抱えて生きていると思うんですよね。すごく苦しむんです。苦しいというか、大変なんです。その内側にある葛藤や苦しみは、自分の将来に対する理想や欲があってこそのもの。そこには“(笑)”なんかで嘲笑えない、美しさと切なさがある。
嶋野 多少の差はあれど、自分が人よりかわいいって、ほとんどの女の子が思ってるんじゃないの?
LiLy 「実際に人よりちょっとかわいい人」より、「自分のことを人よりちょっとかわいいと思ってる人」のほうが多いはずなんです。それって自分が自分のことをどう思うかの問題なんですよね。そこがまた面白くて、読者モデルっていう職業は、女の子からするとモデルよりも自分と近いからこそ嫌悪の対象であるし、逆に等身大の共感できる憧れの対象でもあるし、ひとつの現在の象徴ですよね。昭和の女の子は、松田聖子みたいな圧倒的なスターに憧れていたけれど、平成からは、隣に住んでるちょっと綺麗なお姉さんに共感の対象が移ったじゃないですか。それって見る側の女の子の中で「自分」の占める割合がふくらんでいる結果だと思うんです。自分に近くない人に興味がない。ブログもそうですよね。
嶋野 どんどん「自分」が大きくなってるよね。
LiLy 「自分」とかけ離れていると興味ない。そこそこ近いんだったら近づける。CHAPTER4の「モデル」の章でもそういう描写を書いたんですけど、結局、女の子にとって、「著名人」でさえも、「自分」の材料でしかないんです。例えば、ポスターを見て「モデルの○○さんかわいいな」って気分がアガったから、今日は○○さんのファンだと思った。その1週間後に自分がフラれたときに、たまたま○○さんの不幸なニュースが報道された。そこでまた「一緒だ。○○さんもあんなにかわいいのに、私と同じ不幸だ」って重ねていくんです。結局、著名人でさえも自分をアゲたり安心させたりするためのコマでしかないのって面白いですよね。「自分」がどこまでもふくらんでる。自意識ってほとんどの場合が無意識なんですよね。だから、普段流していた感情を、いちいち掘り下げて考えないんですよ。「なんかムカつく。なんでムカつくかわかんないけど、イラつく」みたいな。そこを、なぜだろう、って考えるのが書く人の仕事だと思っていて。そういうのをとことん掘り下げた2年間でした。
嶋野 職業で「読者モデル」って書いているのを見ると、僕は「ん?」って思うね。読者モデルは職業じゃないだろう!と。
LiLy 第一章の主人公の読モも、それをわかってるんです。だから雑誌の取材アンケートでは、職業欄に堂々と「読者モデル/ブロガー」とは書けない。その不安定さや自信のなさも、私自身にあったから書けたことです。作家になりたかったけど、やっぱり1冊2冊3冊って出しただけじゃ、作家って名乗るのは身分不相応だよなっていう気持ちがあって。今でも「ちょっとおこがましいな、すみません」っていう感覚があります。それもまた自意識過剰ですよね(苦笑)。
嶋野 この『ブラックムスク』を書くのにけっこう取材したんですか?
LiLy そうですね、ブランドのプレスの方に仕事内容を取材したり、表参道の歴史について地元の方にお話を伺ったり、あとは『VERY』の編集者の方にお受験のことを聞いたりしました。でも基本は心情描写なので、その材料は自分です。たとえば第二章の専業主婦リカ子は、自分と真逆のタイプで、子供が好んで着ているアンパンマンの服を脱がしてブランドものの服に着替えさせたりする、むしろ私が最も苦手なタイプの母親を描こうと思って書き始めたのですが、最後には書きながら、リカ子と一緒に泣いていました。
嶋野 ここに登場する肩書きの人たちって、全部僕らが日々接してる職業の人たちなので、すっごくリアリティがあった。こういう人、いるいる!って。
LiLy よかったです! 『ブラックムスク』については、表参道で働いている人が読んで、こういう人いるって言われると安心します。やっぱりリアルを感じてもらえないと、「自意識」っていうテーマは響かないですよね。
リアリティを感じさせたり、共感させるためのLiLyさんの執筆秘話も飛び出し、次の回では『ブラックムスク』内でも見られる「自意識の世代差」について語ります。
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