配属された部署は、パワハラの嵐。ようやく抜け出した慶子は、黒革の手帳を片手にスーパー秘書の道へ…。
慶子の手帳に書かれていたことは?
女の人生ルポルタージュ3人目、Vol.2!
高田慶子(仮名)31歳/ベンチャー起業 社長秘書
1986年東京都出身、世田谷区在住
職歴/大学卒業後、證券会社に就職。新商品開発部門に2年、部長秘書として3年勤務の後、現在のベンチャー企業に転職。社長秘書。
似ているタレント/柏木由紀
理想のタイプ/佐藤浩市
パートナー/あり。婚約中
手取り月収/約29万円(税引後) 預金総額/約400万円
Vol.1 Vol.1 あみだくじで決まった配属
Vol.2 29歳は最後の転職チャンス?
Vol.3 スニーカー社長が私を退社に追い込んだ一言
Vol.4 退社が先か、結婚が先か
Vol.2 29歳は最後の転職チャンス?
スーパー秘書
黒革の手帳とタブレットを左手に持ち、ダンディ部長の半歩後ろを歩く秘書の慶子。その献身的な仕事ぶりでは、社内の評判になりつつあった。
「ダンディ部長がさりげなく話したことも、手帳にメモしておきます。たとえば、『温泉、好きなんだよね』と言っていたのを覚えておいて、地方出張のときは、温泉のついているビジネスホテルを選びます。部長の家族の誕生日をメモしておいて、その当日は早く帰れるようにアポイントを調整したり、会食を入れないようにするのも大事です。
ほかにもたくさんあります。先輩からお勉強させていただいたことだけじゃなくて、私なりのやり方を加えていくのが、すごく楽しいんです。
社内の飲み会があったとき、みなさんクロークに服や荷物を預けますが、ダンディ部長の物は私が直接預かっておくんです。帰るとき、クロークで順番待ちすることなく、いちばん先に出られるよう、私がサッと荷物を渡すためにです」
言われなくてもやる。一歩先を読む。それも、さりげなく。それが、慶子のやり方だった。
「外食では、好んで食べているものをチェックしておくのも習慣です。で、お弁当を買うときには、そのおかずが入っているものを選ぶようにします。最近好んで食べているのは、玉子焼き。だからお弁当やサンドイッチを買うときは、必ず玉子焼きが入っているものを選びます。どこの玉子焼きがおいしいか、ずいぶん詳しくなりました。
それから、新幹線も飛行機も、席は絶対に窓際。コーヒーは基本ブラックだけど、朝の1杯目だけはミルク入り。でも朝の顔が疲れ見えたときだけは、緑茶にチェンジ。宇治抹茶入りが特にお好みのようです。
2年目くらいからは、あうんの呼吸で、ダンディ部長の思ってることがわかるようになりました。言葉がなくても、空気や目の動きで、察することができるんです」
だから、『そろそろ部長、異動かも』ということも、気配で察知できた。3年周期で異動があるのはわかっていたし、「これからどうするんだ?」なんて、急に聞いてきたりしたので、ピンときた。
異動が確定してから部長は、「うちの会社は異動が多いから、専門的に秘書を極めたいなら、違う職場を探したほうがいい」と慶子に話してくれた。さびしいけれど、そろそろお別れのときなのかもしれない。
すでに秘書検定準一級に合格していた慶子は、次に狙うなら「社長秘書しかない」とも思い始めていた。秘書をやるなら、トップを目ざしたい。トップの仕事を間近でサポートしたい。
「社長秘書の募集にしぼって、すぐにエントリーし始めました。急いだのには理由があって、30歳になるまであと半年を切っていたからです。秘書の転職市場は、若いほうが歓迎される。公にはされていなくても、29歳までという年齢制限がある企業も多いですし。20代のうちに転職してしまいたかったのです」
その選択には、ダンディ部長も賛成してくれた。面接に行く日には、応援してくれたりして、いい人すぎる部長ともお別れかと思うと、悲しかった。転職先は、案外すんなりと決まった。證券会社で秘書をやっていたことは有利だったようで、新しい職場となる躍進中のベンチャー企業で、社長秘書として採用されたのだ。
プロポーズを断る
「つきあっていた同期男子と、結婚を具体的に考え始めた3年目、彼が鹿児島転勤になってしまいました。ずっと本社勤務でエリート街道まっしぐらだと確信していた彼は、相当落ち込んでいましたね。『左遷だ』とか、『もう本社に戻れない』とか、弱音ばかり言って。私は、いずれ鹿児島について行くのはかまわないと思っていましたけど、『こんな状態では、俺は結婚できない』と彼が言うので、しばらく距離を置くことにしました。
その後、数か月ぶりに東京で会った彼は、相変わらず弱ってましたね。新人のような地道な営業をやらされていて、肉体的にも疲れているようで。薄茶色のくまを目の下につくって。『結婚しよう。鹿児島で暮らそう』と言ってはくれたけど、こんな弱った彼とは無理だなって。それに、あわてて調達したのでしょうね、持ってきてくれた指輪は私にはブカブカで、それも拍子抜けで。結婚はお断りしました」
慶子の夢だった「20代で結婚」は叶わなかったけれど、もうひとつの夢「社長秘書」は現実になった。
もといた證券会社と転職先のベンチャー企業では、人も風習もまったく違うことに、最初はなかなか慣れなかった。ダンディ部長みたいなスーツ姿の人はゼロ。平均年齢も2回りくらい若い。慶子が担当する、いつもスニーカーの社長(35歳)をはじめ、ヒゲ面のエンジニア、社内で裸足のアメリカ人デザイナーなど、自由な人ばかり。黒革の手帳には、こうしたユニークな面々の名前が加わって、ずいぶんにぎやかになった。
慶子の仕事は、このスニーカー社長のスケジュール管理をはじめ、会食や会議の準備、ランチのお弁当手配など。偶然にも、前職のダンディ部長と同じくスニーカー社長も玉子焼きが好きで、お弁当に玉子焼きが入っていないときは、単品のお惣菜で玉子焼きをプラスしてあげている。
スニーカー社長は、忙しいこともあるが、片付けが苦手だ。でも、あからさまに目の前で慶子が片付けるのは嫌みになる。社長がタバコを吸いに出た瞬間を見計らって、ゴミを捨てたり、デスクの上を片づけたりするのは、慶子の配慮だ。
タバコは吸わないし整理整頓が上手なダンディ部長とは大きな違いだが、これも仕事と割り切った。けど、ダンディ部長とスニーカー社長との決定的な違いは、人望にあった。
Vol.1 あみだくじで決まった配属
Vol.2 29歳は最後の転職チャンス?
Vol.3 スニーカー社長が私を退社に追い込んだ一言
Vol.4 退社が先か、結婚が先か
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。
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