WI その緑は、バンドという夢を諦めて無気力だったように感じましたが……。
菊池 緑は、ものすごく「音楽で成功したい」ということではなくって、“音楽が好き”という以外は“何になりたかったかのか”というのが描かれてなくって……。私は「田舎では自分がやりたい生きかたができない!」と思って上京したんだと思っています。そこには人に語らなかったとしても、「目指す姿」があったんだと思っています。
WI では、日々何を思って生きていたと思いますか?
菊池 高校を卒業して20代前半の“もう一歩、何かしなきゃいけない”って追い込まれた時代を乗り越えたから、今の緑がいると思うんですね。だから無気力だけど、楽しみ方もそれなりに知っていて、日々楽しくやっていけるし、自分の良いところも悪いところも自覚して生きているんだと思います。
WI 何も感じていないという無気力とは違うということですね。
菊池 そうですね。必ずしも、夢を実現して生きていなくても、普通に生きているし、モヤモヤはしているけれど、今の状況をすべて変えたい!というマインドではないと思うんです。ちゃんと友達もいて楽しい瞬間もある。緑が、妊娠が分かるまで「どうやって生きてきたんだろう」って考えると「うまくやり過ごす時もあれば、モヤモヤが止まらなくなって、めんどくさくて人に会うのも嫌」っていう時もある。それが緑だと思います。
WI その緑に、ターニングポイントが訪れますね。
菊池 今回の「出来ちゃった結婚」ってひとつのキーワードで、“緑、ラッキーだったね”という感じがします(笑)。昔だったら眉をひそめる出来事かもしれないけど、そういう風に生きてきた緑にとっては“神様がくれたラッキーなきっかけ”だと思えると思いました。
WI どうして、そう思われたんですか?
菊池 脚本を読んだ時点で“きっかけ”が妊娠というのは、この世代の女性にとってはすごくポジティブなんじゃないかな?って。必ずしも「この人に決めた」とかドラマチックな展開があって結婚に至ったわけではなくても、落ち着くところに落ち着く。ロマンチックじゃないけどある意味ドラマチックだなと思います。それに、妊娠がなければ、どうなっていたかわからない。そのまま真生と何年もだらだらするかもしれないし、別れちゃっているかもしれない……。