新しい資金調達手段「ESG投資」で未来が変わる!?
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回はサステナビリティ経営を推進する、経営・金融コンサルタント夫馬賢治さんに、環境や社会課題を解決する資金調達手段としても期待されている、ESG投資の今を教えていただきました。
<What’s ESG?>
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス/企業統治(Governance)の頭文字を取ってつくられた言葉。2006年に当時の国連事務総長アナン氏が提唱したPRI(責任投資原則)で言及、企業の持続的な成長には、この3つの非財務的な経営観点が必要との考え方が世界に広まった。ESGを分析して投資する「ESG投資」は、寄付や援助と異なり、リターンを追求。投資で間接的にSDGsへの貢献も可能に。
Environment(環境)
- 気候変動への対応
- 資源循環への取り組み
- 廃棄物の生態系汚染対策
- 温室効果ガス排出の抑制、削減 etc.
Governance(企業統治)
- 取締役や監査役の資質
- 汚職の防止
- コンプライアンス遵守
- 情報開示の透明性
- ステークホルダーとの対話 etc.
Social(社会)
- 多様性受け入れの推進
- 適切な労働条件、労働環境の整備
- 製品の安全性向上やリスク管理
- 地域コミュニティへの貢献 etc.
世界の運用資産がESG投資へ
トラ 気候変動や人権など、世界の課題を勉強していくほど経済とは切り離せないなと痛感します。
夫馬/近年では、環境・社会・企業統治への取り組み=ESGをしっかりと評価して投資先を選び、継続的な課題解決を促す「ESG投資」が注目されています。「投資」と聞くと、「無縁だな」と思う方もいるかもしれませんが、実は、すべての人が必ず関わっているのが、「年金」。iDeCoなどで個人的に資産形成されている方だけでなく、公的年金は、徴収された後に運用に回されて、様々な企業を支えた後に戻ってくる。公的年金を増やすなら、「企業の成長」や「環境や社会をよくすること」が誰にとっても重要だよね…と気づき、ESG投資が世界に広まってきました。現在では、世界全体における運用資産の約3分の1が、ESG投資で運用されています。
トラ/少子高齢化で人口が減り、年金の行く末が心配な日本でも、ESG投資は今後ますます重要になりそうです! 日本企業にも変化はありますか?
夫馬/これがすごい影響力で! 大きな会社は環境や社会問題に取り組みたくても、まずは投資家に反対されないかその意向を気にするものですが、2017年頃から株主が「なんでやらないの?」と言い始めたんです。企業の経営層や金融機関にとっても衝撃でした。欧米では2006年にESG投資が動き出しているので10年遅れではありますが、日本の大企業のESG思考も大きく前進。環境・人権NGOとの共同提言なども進んでいます。
トラ/大企業のシフトは希望である反面、圧倒的に多い中小企業がどこまでついていけるのか気になっています。
夫馬/先に動き始めた大企業が、取引先の中小企業を支援し、ESG視点をインプットする流れができつつありますね。ESGにガバナンス=企業統治が含まれているのは、環境や社会にいい事業だとしても、その持続性や意思決定は経営の体制や倫理観に左右されるため。欧米各国では企業の経営層が「環境問題を解決するのは自分たち」という意識で、政府に物申すようになっています。
10年、20年先を見すえてモノ・お金・情報と向き合っていく
トラ/消費者目線では、転換期に発生する値上がりなどで、抵抗感が生まれてしまうこともあるのかなと。
夫馬/確かに環境負荷の少ないエネルギーや原材料を使用することで、コスト高になっている現実はあります。ただ、このままサステナブルではない経済活動を続けてしまうと、20年、30年後には比較にならないレベルで物価が高騰する可能性があるんです。気候変動の影響で、農作物がつくれずに近場で手に入りづらくなる、輸送コストがかかる、冷房の使いすぎでエネルギー不足、さらにCO2排出量が増えて悪循環…といった具合ですね。最終的にはコストが下がる世界を目指してシステムを再構築しているんですが、未来に向けて歯を食いしばれるか、正念場です。
トラ/資本主義や成長に疑問をもつ意見もありますね。
夫馬/従来の大量生産・大量消費はもう限界、先進国の成長率は落ちている。ただ、途上国の発展はこれから。国連や環境科学者の間でも、元に戻る「脱成長」は現実的な解決策ではなく、環境や社会を考慮しながら利益を生む新しいやり方に移行して成果が出てきたと認識されています。もし「未来にもう成長はないから、豊かになることはないよ」と言われたら、どうでしょう?
トラ/頑張れないです(笑)! 人類は、100年前の人には想像もつかない速度で発展してきましたよね。今の私たちには方法を想像できていなくても、物質的な充足ではない〝次の豊かな社会〟は絶対に実現できるはずだと思うんです。
夫馬/おっしゃるとおり、100年前の世界人口は20億人。人間が5倍増えたら、当時の5分の1の資源で生きていくため、モノを極力使わない日常を実現する産業革命が必要です。例えば、娯楽。最近はスマホ1台あればアプリで満足できますよね。これもイノベーションの力。地球の制約の中でどう成長するか、みんなで一緒に考えていきたいと思っています。
トラ/将来の自分の子供にはいい未来を残したいと思うものの、何か指摘はできても行動となると無力を感じます。
夫馬/企業がすごい勢いで変わっているのは、自分たちがESG経営を実践することで未来は変わると希望を感じているから。この火をともし続けるか消すかは、消費者や市民の方々が、いかに理解して応援してくれるかに委ねられています。実際、企業の公式SNSにコメントを寄せるだけでも力になるので、一緒に希望の火を燃やす側に回っていただけたら。
トラ/個人の投資活動でも、貢献できるのでしょうか?
夫馬/はい、例えばNISAやiDeCoでもESG関連の投資信託やETFが選択できます。政府の法規制も強化されたので、ESGと投資リターンの双方をどう追求するかを目論見書で確認できるようにもなっていきます。お金の流れが変われば、企業も変わり、経済を大きく変化させていけるんです。もうひとつ見落とされがちなのは、日本の今の豊かさは、食べ物も服もエネルギーも大半が海外の資源由来という事実。日本だけ見ていては、豊かでいられない時代です。
トラ/メディアの責任が大きい部分。私も関わる番組で世界を知ることができるよう提案していきたいと思います。
夫馬/ぜひ! 企業や金融機関、行政の上層部からは、「僕らの時代とは全然違うから教えてほしい」という声を日々聞きます。現代の感覚や知見をもつ若い人の意見が、遥かに通りやすくなっている。職場などでも上の世代の価値観にとらわれず、自分の直感を大切に声を上げていただきたいです。
■巨額の投資も元は個人の年金
過去6年で、世界のESG投資額はほぼ2倍に。アメリカとヨーロッパが牽引する中で、日本も2020年には2兆8740億ドルと拡大(出典:GSIA)。「多くが年金基金の資本で、皆さんの年金が世界を循環しています」(夫馬さん)
ESGと世界経済の潮流をやさしく学べる夫馬さんの著書。『60分でわかる!ESG超入門』(監修/技術評論社)、『ネイチャー資本主義』(PHP新書)
「経済やお金の流れを知ることで、社会の一員である自分にも希望がもてる」
ESGの観点で地球の問題を見てみると、自分が部外者ではないんだと再認識。変わっていこうと努力しないと取り残されるのは自分自身だし、外から指摘するだけではなく、社会の一員としてポジティブな変化を起こしていきたいと前向きになれました!byトラちゃん
目指せ「SDGs」! トラちゃんの今月の一歩
■日常の野菜は、有機野菜コーナーでお買い物♪
スーパーでは、なるべく有機野菜を買うようにしています! 使える農薬や肥料に制限があり、土壌や海洋の汚染、生物大量死などを防ぐ有機農法。取り組みを応援するため、少しでも自分のできることを続けていきたいな。
■今月の1冊は…『破壊戦 新冷戦時代の秘密工作』
政治、金融、サイバー空間…あらゆる領域を攻撃する現代の情報戦や工作を徹底取材した一冊。今の世界情勢を見る上でも、ロシアを知ることが大事だと思って読んでいます。
今月のSDGsブランド「Repetto」
1947年にローズ・レペットがダンスシューズをデザインして始まった、パリ発のブランド。2022年より、動物性皮革を一切排除したヴィーガンバレリーナシューズが登場。パテントレザーの気品ある艶やかさを再現しつつ、アウトソールには米のもみ殻を再利用してゴムの使用量を削減。