伝統技術「金継ぎ」を体験。昔から伝わる生活の知恵でサステナブルな暮らしを【トラウデン直美と考えるSDGs連載】

日本の伝統技術「金継ぎ」で、大量廃棄をストップ

今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!

今回は「金継ぎ」を実際に体験しながら、ひとつの器を大事に使い続けてきた日本の文化を学びました!

体験したのは…『南青山 うつわ御結』の現代風金継ぎ体験と和食器講座

創業120余年の老舗器問屋・京橋白木が運営する器のセレクトショップは、金継ぎ用の器が多彩! 自分の器を持ち込んでの講習も可能。体験料はお茶・お菓子付きで8800円。予約は公式HP、店舗(東京都港区南青山5-4-29)にて。※体験は別棟の和食器専門ギャラリー、HANAREで開催。
https://utsuwa-omusubi.com/
Instagram:@utsuwa_omusubi
トラウデン直美/高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。『SDGs』にまつわる取材や発信に力を入れ、情報番組コメンテーターとしても活躍する。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2021」(「世界を変える30歳未満」30人)受賞。

これを直します!

教えてくれたのは…左から金継ぎ師・萩原利之さん、京橋白木・代表の竹下茂雄さん。

竹下さん主宰の日本金継ぎ協会は、環境省グッドライフアワードで「実行委員会特別賞サステナブルデザイン賞」に。

傷があることで、さらに美しくなる。数百年続く日本の美意識

今回は以前から気になっていた「金継ぎ」の体験にやってきました! 「金継ぎ」とは陶磁器などの割れや欠けを漆で接着し、その上から金粉で装飾して仕上げる日本の伝統的な修復技法。漆の原料はウルシの木を削って出てくる樹液ですが、その活用の歴史は縄文時代にまでさかのぼるのだとか。数千年前にあった集落の遺跡からは、漆を塗られた櫛や器が出土されている他、土器を漆で補修していた痕跡も残っているそうです。

室町時代、安土桃山時代になると茶の湯が発展して、漆で合わせた茶碗の継ぎ目に金、銀などで装飾を加え、模様を美しい自然の「景色」に見立てて楽しむ文化が流行。さらに欠けた部分に別の器の破片を組み合わせる「呼継ぎ」という技術も生まれ、アートとしての表現も増したそうです。完璧な美ではなくどこか不完全なもの、傷にこそ風流を見出す価値観が素敵だなと感じました。

この技術を継承した「本金継ぎ」は、漆も金も純国産の天然もの。接着・乾燥の工程に約3か月かかるものの、時間が経つほどに漆の硬化が進んで頑丈になります。水をはじいて、さらに抗菌作用まであり、生産工程で大量の水や電気を消費することも、環境を汚染することもない…なんて、漆って優秀♡ おせちの重箱に漆が使われているのは、昔の人の知恵と「何もムダにしない」生き方がつまっているのだなとあらためて気づきました。

ただ、最近では、市販の器などで一般的に使われている漆は中国産に置き換わりつつあり、国産は希少。ほとんどは、寺社仏閣、国宝・重要文化財の修繕用に。というのも、ウルシの木は樹液を採取できるまで育つのに10年。生産の担い手が減り、産地も岩手と茨城以外はわずか。プラスチック製品が普及したことも影響し、ライフスタイルの変化で日常から縁遠くなってしまっているんですね。

■国産の漆の木は稀少に…

■現代風金継ぎのポイント

①割れたお皿は断面に棒やすりをかけて角を削ってから、接着剤を塗布。接着剤は約30分かけて硬化するタイプなので、溝を埋めながら焦らずに微調整が可能。

②マスキングテープで仮留めして乾燥を待つ。

③湯飲みのふちの欠けは、穴埋め用のパテで隙間なく詰めていく。ほんの少し多めに盛って、硬化後に紙やすりで削って整える。

④貼り合わせ部分の小さな穴、欠け、段差を埋め、上に塗る漆と金のノリをよくする。

➄新漆と金粉を混ぜ、継ぎ目の仕上げに筆で塗っていく。

新しい素材を取り入れながら、現代社会にフィットする技術に更新

本金継ぎの場合、全工程に3か月かかるのは、湿度が70%以上、気温が25℃以上でないと漆が乾かないからだそう。今回教えていただいた簡易金継ぎでは、漆ではなく合成樹脂などを使って接着・乾燥の時間を大幅に短縮! 1~2点なら、なんと2時間あればOKなんです。そして、本漆に触ることによるお肌のかぶれがないのもうれしいポイント♪

ちなみに器の損傷には3種類あり、割れたもの、ふちが欠けてしまったもの、そしてヒビ。簡易金継ぎでもそのすべてに対応できるけれど、熱にはやや弱いので直火にかけたり熱湯を入れたりする土鍋や丼には不向きとのこと。その反面、金継ぎをやり直したいときは熱湯につけておくと接着がとれやすくなるので、〝融通がきく〟という見方もできますね! 市販の道具をそろえれば、自宅で気軽にできるのも魅力。そのままでは継承が難しい技術を、素材を代用して残せるんだと、体験したからこそ知ることができました。

リサイクルが難しい陶磁器をリユース・リデュースして守る

講座を主宰する「南青山 うつわ御結」を運営されている京橋白木さんは、日本各地の窯元や作家作品から選りすぐり、国内外の様々な料理店やレストランへ陶磁器を納めてきた老舗。でも、コロナ禍を機に取引先のお店でたくさんの器が廃棄されていた様子を見て、心を痛めたそうです。大量廃棄がない循環ビジネスの形を模索し、金継ぎでの修繕や、飲食店への金継ぎの指導をスタート。例えば、5店舗経営の飲食店では、年間およそ0.1トン(100㎏)を廃棄していたところ、金継ぎによるリユース・リデュースに取り組んだ1年で、廃棄量80%減少という素晴らしい結果に!

陶磁器は不燃物でリサイクルが難しく、大半が埋め立て処分。「日本で生まれた土を日本に帰すなら自然の道理だけれど、実際は海外で大量生産された安価な輸入食器で、使い捨てられてしまうものが多い。作家さんの器も『直せる』とわかれば、皆さんの選択肢になるのではないかなと思います」というお話が印象的でした。金継ぎを知る人が増えて、つくり手を守ることにもつながればいいなと思います。

■乾かして、割れ・欠けの修復が完了!

欠けた部分が味になる♡

トラちゃんが仕上げた器たち。右は萩焼き作家・渋谷英一さんの作品。潔い金のラインがアクセントに。左は人気の鳥獣戯画をモチーフにした有田焼の湯飲み。接着部分は30分ほどで安定するので、当日に持ち帰りOK! その後は完全に乾かすため、1~2日おいて。金継ぎキットは5500円で購入可。

<あると安心!金継ぎキット>

今あるものをアップデートして永く大事に使う、もっと好きになる

こうやって日本文化を学ぶと、暮らしや価値観など国の内側も見えてきますね! 金継ぎで新たな魅力、違うよさが生まれる楽しさも体感でき、壊れてしまったものにも愛着UP♡ 割れても怖くないので、好きな器を普段使いしながら大事にしていきたいな!

目指せ「SDGs」! トラちゃんの今月の一歩

愛用している器を本金継ぎでお直し♪

本金継ぎでお直しに出した器がちょうど戻ってきました。友達からのプレゼントで絶対に捨てたくなかったけれど、自分の技術が心配で(笑)、プロに依頼。とてもかっこよく、大事に使い続けたい思いが強くなりました!

今月の1冊は…『テノウチ、ムネノウチ 刀鍛冶として生きること』

以前取材させていただいた刀鍛冶の職人さん。刀鍛冶になるまでの歩みや、日本刀とは何か、その美しさはどのように感じられるか、未知の世界ながら日本の美学が詰まっています。

著:川﨑晶平/¥1,980/双葉社

今月のSDGsブランド「MILAMORE」

NYでデザインされたジュエリーを、日本のアトリエの熟練職人によって手仕事で制作。伝統文化を伝える、金継ぎモチーフのコレクションも展開。エシカル基準を満たす最高品質の素材のみを厳選すると同時に、使用済み貴金属を回収し、純度の高いリサイクルゴールドを活かしている。

リング[右人さし指]¥118,800・[右中指]¥159,500・[左人さし指]¥206,800・[左中指]¥85,800・ピアス¥209,000(MILAMORE)、トップス¥35,200・スカート¥46,200(AKANE UTSUNOMIYA)
2023年CanCam6月号「トラウデン直美と考える 私たちと「SDGs」より」撮影/角田明子 スタイリスト/鈴木千春 ヘア&メイク/坂口勝俊(Sui) モデル/トラウデン直美(本誌専属) 構成/佐藤久美子 web構成/坂元美月 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。