「髪型は人生を変える」 高木琢也さんの美容論
日本一予約の取れない美容師・高木琢也さん。全国で8店舗を展開する人気ヘアサロン『OCEAN TOKYO』の代表を務め、著名人からの支持も厚い、まさに「メンズヘアのカリスマ」。彼の手にかかれば、「髪型が人生を変える」ことが大袈裟ではなくなります。そんな高木さんが今注目しているスタイルや、まさにお客さまの「人生を変えた」エピソードなどをうかがいました。
メンズはカッコかわいさ。レディースはちょい色っぽいかわいさ。それを押さえれば、今っぽい
―高木さんが注目している春のメンズスタイルはどんな感じですか?
「この春夏のメンズは“モヒカン”! 今は細い束でニュアンスのある動きをつけるのが主流ですけど、もっと存在感のある髪型を流行らせたいと思っています。15年前くらいにみんながやっていた“ベッカムヘア”よりもうちょっとナチュラルで、横から見たら丸めだけど前から見たら尖っている…みたいなイメージですね」
「でもみんなの気分はそこまで行っていなくて、現状は“シャープさの中に丸みがある”スタイルが人気ですね。男子は女子にモテたくて髪を切るから、女子が好きな要素が入っている好感度の高い髪型にしたがるんです。トレンドの早さ的には、ファッションもヘアも女子の方が半年くらい早いかな。男子は女子を真似るんですよ。特にその共通点は、前髪。下ろす場合はギリ目にかかるくらい、分ける場合はセンターパートにして毛束がちょこっと目の端にかかっている…みたいな。以前は、髪を立たせたりひし形シルエットにしたりと、アウトラインにこだわることが多かったですが、今は圧倒的に顔周りですね。女子と一緒。“丸さ”も絶対的に必要。昔はカッコいい髪型を意識する人が多かったですが、今は“カッコかわいい”雰囲気。今の若者は、周りと一緒がいいんですよね。みんながやっていないことをやってやろうと考える人はほとんどいなくて、とにかくダサくなければOKみたいな。尖っている人が少ないからこそ、強めのモヒカンを流行らせたくて」
―女子ヘアはどうですか?
「女の子はとにかく楽をしたいんだなぁと思います。今はマスク生活だからというのもありますが、ファンデーションも塗らない人がいるじゃないですか。決めすぎない簡単なスタイリングで、でもツヤ感は欲しい…という今の流れはしばらく続くと思います。ロングがいないですよね。鎖骨くらいのワンレンで切って、オイルをつけて完成!、という人が多い。オイルの濡れ感でちょっと色気をプラスして、あざとかわいい雰囲気に持っていく」
「女子のカラーは、フェイスフレーミングとかインナーカラー。この人気はしばらく続くと思います。部分的に入れるカラーはイージーに隠せて、提案もしやすい。ブリーチオンカラーで強めの色を入れる、ポイントカラーは本当に多いですね。髪を結ぶとチラッと見える、遊びがあるのがいいのかも。内側をブリーチしても、髪表面は傷まず美しく見えることも今の気分にあっているんだと思います。グラデーションカラーは少なくなりました。春の色味はピンクアッシュ。とにかく、くすみのある○○(なんとか)アッシュや○○(なんとか)ベージュをやっておけば間違いない。マロンやココアブラウンとか、濃いブラウン系は避けている人が多いですね」
「引きこもっていた人でも髪型ひとつで夢に向かって踏み出せる」。失敗しない高木流ヘアチェンジのテクニックとは?
―「髪で人生が変わる」というのが美容師・高木さんの信条だと思いますが、実際になにかエピソードはありますか?
「カッコいい、かわいいって誰が決めるの? それは周りの人。何がカッコいいのかすらわからなかった子が、髪を切って、クラスやサークルの子に『いいじゃん、その髪型』『どこで切ったの?』と話しかけられてヒーローになれる。自分から周りに話しかけられないなら、話しかけてもらえるきっかけとなる髪型にしたらいい。髪型を変えたことで性格も明るくなって、『あんなに暗かった子が大手代理店に就職かよ! チャラくなったなー(笑)』みたいな人をたくさん見てきているから、本当にそう思う。
すごく印象深かったのは、『高木さんと同じ髪型と髪色にしたい』とお父さんと来店した高校生。のばしっぱなしの黒髪で、あいさつしても目を合わせず、話さない。最初は『色は落ちるし、バイトにも行けないよ。ヘタしたら学校にも行けなくなるよ。目立ちすぎていじめられるかもしれない』と断ろうとしたんですよ。でも、どうしても…というので、責任は取れませんよと僕とまったく同じ髪にした。終えてクロスを取ったら、服も僕が持っているのとまったく同じものを全身着ていて。それでもひと言も喋らない。けど、鏡を持たせて後ろまで全部見せた時にニヤッとしたから『喜んでいる』と心の中で思ったんです。そしたらその日の夜にお父さんからDMがきて、『半年前に母親を事故で亡くして、それから一歩も部屋を出なくなりました。打ち込んでいたサッカーを辞めて学校にも行かなくなり、2回の自殺未遂を起こしました。ところが高木さんのインスタを見て、こうなりたいと。久しぶりに家を出て髪を切ったら、表情が明るくなって明日から学校に行くと言っています』と。そのあと、ファッションの勉強をしたいと服飾系の学校に入り、もう卒業したのかな? 『あなたのおかげで、あの子は救われました』とお父さんに言ってもらえたことが、とても胸に残っていますね」
―人として変わっていく様子を見られる喜びは大きいですよね。
「そうですね。ファッションって人それぞれ好みが違いすぎて、ツッこめないじゃないですか。でも髪型は他者がコメントしやすいので、人生を変えるポイントとしてはもってこいですよね。ただねー…、就活中の女子のヘアはツライですね。今までずっと茶髪だったのを就活のために黒髪にして、テンションだだ下りで帰っていくんですよ。いつもは喜んで帰っていくのに、あのがっかりした顔を見るのはこっちもイヤですね。どうせ内定をもらったら茶髪に戻すわけだし。うーん…、あれはどうにかならんもんかなと思っています」
―確かに…。美容師としてやりがいがなくなりますね。ところで、「変わりたい」と来店された人には、何を基準にスタイル提案するんですか?
「『高木にかかればイケメンになれる』とか『変身できる』と言われますけど、僕は意外と慎重派。目の前のお客さんに対して絶対にミスりたくないから、前髪をバンッと切ったりとか、大胆にカラーしたりとかはできないんですよ。だいたい考えているより1cm長めに切るし、『襟足はこれでいいの?』『前髪はこんな感じ?』とか確認しながら進めます。『失敗された』と思う人は、自分が思うより短く切られた人。あとは、目と頭蓋骨を見ますね。今の髪型のアップデートバージョンと、今までやったことのないバージョンのふたつを提示して、お客さんがイメージしやすいようにもしています。『お任せします』って言っていても、ひとりひとり譲れない部分って実はあると思うから」
〉〉サロン経営や生き方…『OCEAN TOKYO』高木琢也さんインタビュー【後編】を読む
大胆不敵に見える高木さんですが、スタイル作りは意外にも緻密で丁寧。その根底にあるのは、「今、目の前にいるお客さんに満足して帰ってもらう」ことを大事にして、ひとりひとりの理想や憧れに寄り添っているからこそ。そうしてファンを増やし、今の人気につながっているのです。
構成/斉藤裕子
あわせて読みたい