「温泉に入った後シャワーで流すのはNG!」ってなんで!?温泉のプロに聞いた、意外と知らない温泉豆知識

新型コロナウイルスの影響で私たちの生活がこれまでとがらりと姿を変えてから早数か月。これまでは極力出かけずに過ごしてきたものの、なんとなくリスクが低い行動がどういったものかが少しずつ体系化されてきた今、Go To トラベルキャンペーンの後押しもあり、少しずつお出かけを検討している方も多いのではないでしょうか。

そんな中でやっぱり、何より頭に出てくるのは「温泉に行きたーい!」というもの。

ゆっくり広い温泉に浸かって、のんびりして、美味しいものを食べてお酒を飲んで熟睡。そして朝風呂に入ってしゃきっとして、旅館の美味しい朝ごはんで心も体も満たされる…考えるだけで楽しくなってしまいますよね。

今日は改めて知っておきたい「温泉の基本」について、温泉に特化した宿泊予約サービス『ゆこゆこ』編集長、上野彩子さんにうかがいました。

 

Q.そもそも「温泉」の定義ってなんですか?

A.実は「温度が25度以上であれば温泉」です。

以下のふたつの条件のうち、いずれかを満たしているものを「温泉」と呼んでいます。

・掘って湧き出たお水の温度が25度以上である
・指定されている19種類の成分のうち、1種類でも含まれている(有名なものでは、硫黄やラドン、ラジウム塩など)

温泉といえば「なんらかの成分を含む特別なお湯」というイメージがありますが、実は成分が入っていないものも25度以上であれば「温泉」扱いになります。
たとえば東京などでも「天然温泉」などと謳われて「こんなところに温泉があるの?」という場所があると思います。何かしら水が湧くまで掘り進めていくと、だいたい地熱で25度以上に温められているので、この「25度以上」のみを満たしているものの可能性が高いです。
とはいえ、土地によってはすごく良い成分を含んだ温泉が湧いているところもあるので、一概には言えません。

 

Q.ではホテルなどで「天然温泉付き」と書いてあっても、特に効能がないものもあるのでしょうか?

A.温泉の「効能」は、成分だけに限らない複合的なものです。

温泉の効能の考え方にはいくつか項目があります。指定された成分を含まないお湯であったとしても、あたたかい温泉で血行が良くなることによって得られる「温熱効果」、お湯の水圧による「水圧効果」、浮力によって体が軽く感じてリラックスできる「浮力効果」、そして日常生活から離れた温泉地に行くことにより得られるリフレッシュ効果「転地効果」など、さまざまなものが複合的に存在していて、私たちは温泉を好んでいます。

このうちいくつかは家のお風呂でも得られるのでは?と思うかもしれませんが、やはり深い温泉だと水圧もかかりやすいですし、広ければ広いほど手脚を伸ばしてリラックスできるので、そのぶん通常のお風呂より血行促進されやすくなります。何より、自然や素敵な旅館などに身を置く「転地効果」が、実は私たちにかなりのリフレッシュ効果を与えています。

Q.逆に、なんらかの成分が含まれている温泉って、本当に効果が得られるんでしょうか?

A.経験からいって、得られます。

成分によりますが、温泉に入っていたらいつのまにかかさぶたやちょっとした傷が治った…という経験をしたことがある人は多いはず。
特に「強酸泉」「硫酸塩泉」は消毒効果が高く、硫酸塩泉は「傷の湯」と呼ばれるほど。
これは私自身の経験なのですが、以前泊まったお宿の人に「最近口内炎がひどくて」とポロっとこぼしたところ「うちの温泉で口をゆすいでみて」と言われて、ペットボトルに硫酸塩泉のお湯を汲んでくれて。それで1日口をゆすいでいたら本当に治ってしまったこともありました。
その温泉については温泉のお宿の方などが詳しいはずなので、もし気になる不調があるようでしたら、相談してみると良い活用法を教えていただけると思います。

 

Q.温泉には朝と夜、どちらに入るのがより効果的ですか?

A.どちらも効果的ですが、狙いを変えると良いと思います。

朝にお風呂に入るときは「目覚めを良くする」、夜に入るときは「癒し効果」を意識してみると良いと思います。
朝は交感神経を活発にさせるために40度以上の熱めのお湯に浸かるのがおすすめ。逆に夜は熱いお湯で交感神経を活発にさせてしまうと眠れなくなってしまうこともあるので、露天風呂など比較的ぬるめのお湯にゆっくり浸かるのが向いています。
また、通常のお風呂と同様に、寝起きすぐに入るとちょっと頭がグラグラしてしまうことがあるため、起床後30分くらいはおいて、きちんと水分補給をしてから入りましょう。
また、お酒には注意が必要です。温泉は通常のお風呂よりもさらにアルコールが回りやすくなってしまいますので、飲酒後の温泉はやめましょう。

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Q.温泉に入るとお肌がツルッとするのは皮膚の表面を溶かすから…と聞いたのですが、長く浸かるとお肌に悪くないですか?

A.大丈夫です! ただ、保湿はマストです。

これはおそらくアルカリ性の強い温泉の話だと思いますが、温泉がそこまで深いところまでお肌を溶かしてしまう…ということはありません。
ただ、私自身も経験したことがありますが、アルカリ性の強い温泉に入り、そのまま保湿をしないで出てしまうと、お肌がカサカサになってしまうことがあります。
アルカリ性の温泉は「皮脂を含んだお肌の表面を溶かす」性質があるため、通常より角質は薄くなり、乾燥しやすくなります。できるだけ温泉から出たらすぐに保湿クリームなどを塗ってケアをしてあげてください。

 

Q.美肌になる温泉の入り方のコツはありますか?

A.いくつか泉質がある場合は、アルカリ性温泉→塩化物泉→保湿クリーム、が最強です

九州のほうなど、いろいろな泉質をひとつの浴場に備えている温泉に入るときなどは、美肌に効果的な入り方があります。
「美肌の湯」と言っても泉質によって得意分野が異なるので、覚えておくと役立ちますよ。

<汚れを落とすなら、アルカリ性温泉>

効果的に皮脂を溶かしてくれる「アルカリ性温泉」で、まずは汚れを落としましょう。

湯口に未使用のタオルを浸して新鮮なアルカリ性成分でいっぱいにして、それを温泉などにつかりながら顔にしばらくかけていると、毛穴が広がり、皮脂を効果的に落としてくれます。その後洗顔をすると、天然のピーリングのようにツルツルになります。

体も同様に、温泉に浸かって皮脂を溶かしてから石けんで洗うと、とても汚れが落ちやすくなります。髪も汚れが落ちやすくなっているので、汚れを落とした状態でしっかりトリートメントなどをするのもおすすめです。

アルカリ性温泉ではなかったとしても「温泉に浸かったあと、体を洗う」の流れを行うと、かなり日頃の汚れが落ちやすくなります。

<保湿効果が高いのは、塩化物泉>

「塩化物泉」は、保湿効果が高い温泉です。
この「塩化物泉」はその名の通り塩分を多く含んでいて、有名どころでいえば熱海や湯河原など、海辺の温泉地に多い泉質です。これは毛穴の中にまで塩分が溶け込んでくれるため保湿効果が高く、温泉から出た後もポカポカ・しっとりします。その上で保湿をすると、長く美肌効果を実感できると思います。

そのため、いくつか泉質があるならば「アルカリ性温泉でしっかり汚れを落とす→塩化物泉保湿をする→さらにクリームなどでしっかりフタをする」が、もっとも美肌になれる温泉の入り方です。

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Q.温泉は長く浸かれば浸かるだけ効果的ですか?

A.無理して長く浸かる必要はなく、人それぞれで問題ありません。

これまで「浸かる時間で効果に差は出るのか」といったことを調査してみたことはありますが、特に「明確に何分浸かるのがいい!」という話は出てこないので、時間は人それぞれで良いと思います。無理して長く浸かろうとする必要はありません。
ただ、副交感神経が優位になりリラックス効果が出てくるのは浸かって15〜20分した頃なので、だいたいそのくらいは浸かっておくといいですね。

もちろんこれはずっと浸かっていなければいけないわけではなく、途中で休憩を挟んでもまったく問題ないですし、むしろおすすめです。「5分入って少し休み、8分入って少し休み、最後に3分入る」の流れが健康効果にいちばん良いとも言われています。
これは都市伝説かもしれませんが、温泉のマーク(♨︎)はこの「3回に分けて入る」を表しているという説もあります。
最近ではいわゆる「ととのう」と呼ばれている、サウナと水風呂を交互に繰り返すものが流行っていますが、温泉でも同様に、入浴の合間に水風呂などで体を冷やすことで、一気に血管が開いてすっきりします。

 

Q.素朴な疑問ですが、温泉に浸かったあと、シャワーで流すと成分も流れてしまいますか?

A.基本的には流さないことをおすすめします。

実はこの「温泉に入ったあと、シャワーで流さない」は「温泉で絶対気をつけてほしいこと」として覚えていてほしいレベルのことです。

以前、保温効果の高い塩化物泉に入って少々のぼせてしまった際に、シャワーで洗い流したらわりとすぐに回復したことがあります。それくらい良くも悪くも「シャワーで流すことは、成分を落とすこと」と心得てください。

温泉に入ったあとには成分効能がたっぷり肌にくっついているので、できるだけ最後は流さずにあがって、保湿クリームを塗るのがおすすめです。

ただ、たとえば殺菌効果が高く酸性が強い「酸性泉」の中でもpHが2以下の強酸性泉や、極度に何かの成分が強い温泉は流さないでおくと痛くなってしまうこともあります。そのような場合は流したほうがいいですが、基本的には流さないほうがいい温泉が圧倒的に多いですね。もし「どうしても最後にシャワーで流さないこと」が気になるようであれば、湯出し口から新鮮な温泉のお湯を桶などですくって、かけ湯をして出るという流れをおすすめします。

Q.温泉に色がついているのはどうしてですか?

A.ものすごくわかりやすく説明すると「酸化」です。

この「温泉の色」は化学の分野になってくるので説明が複雑になってしまうのですが、ものすごく簡単にわかりやすく説明すると、特定の温泉成分が酸素に触れることにより酸化して、色が変わっています。

たとえば草津温泉は、白濁した「にごり湯」や、厚い板でお湯を混ぜる「湯もみ」が有名です。草津温泉は場所によっては熱すぎたり、透明のそのままのお湯だと成分が強すぎて湯あたりしたり肌荒れしたり…ということがあるので、それをまろやかにするために「湯もみ」をして酸素を取り込んだ結果、あのような白い温泉になっています。温泉の成分や温度をちょうどよくマイルドにしながら観光にも結びつけている…という、なかなか素敵な例です。

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Q.温泉旅館に行くとだいたいお茶やお菓子が置いてありますが、これは何か意図があるのでしょうか?

A.糖分&水分補給を兼ねたおもてなしです。

シンプルにおもてなしの意図もありますが「温泉に入る前に、血糖値をきちんと上げておかないと湯あたりしやすいため、それを防ぐ」という狙いがあって置かれています。そのため、旅館に着いてテーブルにお茶とお菓子があったら、まずは温泉に入る前にそのお菓子とお茶をいただいてから温泉に入りに行くのがベストです。

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Q.旅館の人に「心づけ」はお渡ししたほうがいいでしょうか?

A.基本的には渡さなくてOKです!

旅館の料金を見ると「税・サ」などと書かれていますが、この「サ」が「サービス料」として最初から料金に含まれているので、基本的には渡さなくて問題ありません。これまで私自身プライベートでもたくさんの旅館に行ってきましたが、どんな老舗旅館でも、渡さなかったことで変な顔をされたことはありません。

もしどうしても渡さないと気になる、渡したほうが気持ちよく泊まれるのであれば、一部屋1000円くらいが目安でしょうか。どんなに高くても3000円程度で問題ありません。

ただ、私や弊社スタッフの場合は、何か別途お願いすることがあればお渡しするようにしています。たとえば途中で病気になって薬を持ってきてもらった場合や、団体旅行でそもそもある程度お騒がせして迷惑をかけることがわかっている場合、高齢の方と一緒で介助をお願いすることが多くなりそうなときなどは、別途お渡しする…くらいの認識で良いと思います。

 

Q.よく「ここは良い温泉だ」と言っている人がいますが「良い温泉」ってなんですか?

A.人によりますが、歴史があるところは良い温泉の確率が高いです。

温泉好きの方が言う「ここは良い温泉だ」という言葉は、だいたいは温泉の効能です。
ずっと昔からある湯治場や、温泉地として歴史が深いところは、いわゆる「良い温泉」であることが多いと思います。有名どころでは長野の渋温泉など、昔ながらの湯治場は街中に共同浴場があることがほとんどなので、参考にしてみてください。

お湯があまり酸素に触れない状態のまま浴場に流れている温泉も「新鮮だ」と形容され、「良い」と言われることが多いですね。
「足元自噴」「足元湧出」などと呼ばれる、源泉がすぐそこで湧いている温泉はすごく濃く新鮮な温泉です。以前ゆこゆこで「温泉の良さを伝える新しい基準を作ってみよう」というプロジェクトが発足しかけたときには、まさにこの「湧き出し口から湯船までの距離を、お湯の新鮮さの尺度として作ってみたらどうか」という話があったほどです。

ただ、人によって「良い温泉」の基準は異なります。たとえばわかりやすく色や匂いがあると「温泉に入ったな、良いな」と思う方もいますし、入った瞬間は無臭で無色透明でも、入っているうちに短時間で湯あたりしそうになるなど「すごくこの温泉濃いな」と感じるものもあったり…。さまざまな基準があるので、自分に合った温泉を見つけてみてくださいね。

取材協力/ゆこゆこ
構成/後藤香織
*事前に宿やお店の営業状況などご確認の上お出かけください。