「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(2)

「平和学」という新たな視点からジブリ作品を読み解き、早くも話題を呼んでいる新書『ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論』。著者の創価大学平和問題研究所助教・秋元大輔さんにお話をうかがっています。前回の『風立ちぬ』に引き続き、今回は『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』について語っていただきました。

★前回はコチラ→ 「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(1)

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Woman Insight(以下、WI) 平和学的な視点で『風の谷のナウシカ』を見つめると、どんなことが言えるのですか?

秋元大輔さん(以下、秋元) まず「巨神兵」とは、ずばり核兵器そのものです。映画ではオープニングで5体の巨神兵が出てきます。これは僕の解釈ですけど、米・ソ・英・仏・中の核保有国を意味しているのではないかと思っています。だから5体なのではないでしょうか。一方で原作のコミックのほうでは無数の巨神兵が出てくる。これは「核弾頭の数」を表していると思います。’80年代に核弾頭の数は、約7万発という過去最多に達するのですが、それを絵にしていると思われます。「火の七日間」は核戦争ということになります。これは起こってしまったと想定されている第三次世界大戦を表しています。  

WI 「腐海」は何を表しているのでしょう?

秋元 「腐海」とは、「核の冬」を意味しています。核戦争が起こると塵などで日光が遮られ、地球全体の温度が低くなってしまう。それで植物が光合成ができなくなって枯れ果ててしまう。いわゆる「死の森」です。「腐海」とかなりイメージが一致しますね。これに関してはさまざまな研究者が指摘しているところです。

WI 著作の中で3.11との奇妙な符号に触れられていますが……。

秋元 まず、『風の谷のナウシカ』が公開されたのが1984年3月11日。これは、無用な風評を招かないかと書くべきか書かざるべきか迷ったところですが、この偶然には何か背筋が寒くなるものがありますね。そして「火の七日間」の後に王蟲の群れがやってくるというのも、津波が押し寄せてくるかのようなイメージと重ねてしまいます。チェルノブイリがあったところにも、腐海のような木が生い茂っていたりする。こういった分析は先行研究の中にもありますし、ネットユーザーの間にも広まっている見方です。ひとつの警鐘としてとらえられれば、と願ってあえて著作の中でも書かせていただきました。「腐海」は、核戦争の結果、もしくは原子力文明がもたらした災害、このふたつの視点でとらえられます。「腐海」はまず核戦争が原因であったということが言えると思うのですが、環境問題や脱原発の視点から見ると、3.11を経験した私たちには原子力発電所のメルトダウンともとれます。

WI 平和利用であれ軍事利用であれ、宮崎アニメの多くが原子力への警鐘と取れるのでしょうか?

秋元 これについては『天空の城ラピュタ』で象徴的なシーンがあります。ポムじいさんが飛行石について語る場面で、「力のある石は人を幸せにもするが、不幸をまねくこともよくある」ということを言っています。つまりこの石は「ウラン鉱石」と読み解ける。核兵器にもなるし、原発もつくれてしまう。この石がもたらす力の恐ろしさを暗に語っていると思います。’80年代に発行されたラピュタのガイドブックの中で宮崎監督自身も、ラピュタの中心にある巨大な飛行石は原子炉のイメージで描いたと語っています。

WI  天空の城から放たれる「ラピュタの雷」は何を意味しているのでしょう?

秋元 「ラピュタの雷」は、古代インドの叙事詩『ラーマヤーナ』に登場する超兵器インドラの矢をモチーフとしているのですが、平和学的にはやはり核戦争や核兵器を象徴していると思います。物語の終盤でラピュタの雷が実際に映像化されていますが、ヒロシマ・ナガサキだけではなく、第五福竜丸も含め、ラピュタの雷が原水爆実験を映像化したように思えてなりません。冷戦期は核テクノロジーによって「ニュークリアピース=核の平和をつくろう」という核抑止論に基づく理論があったのですが、それに対する政治風刺と読み解けます。

WI 核抑止論というのは今日では古い考え方になっているのですか?

秋元 そうですね。まだ国際政治学者のリアリストの間では、核によって均衡が保たれているという考え方もあるのですが、核廃絶論者にとっては核抑止という考え方自体がすでに弊害となっています。たとえば9.11以降を経験した今日にあっては、テロリストが核をもつと抑止も何も効かなくなってしまう。最も恐ろしいシナリオですね。テロリストが核をもって、日本の原発を攻撃したとする。1回でもそれをやられてしまうと本当に取り返しのつかないことになってしまいます。今、そういう状況がいちばんあってはならないシナリオです。

WI ユートピアであったはずのラピュタが崩壊することによって平和がもたらされるというのも逆説的な感じがしますが。

秋元 かつてのラピュタはユートピアに近い、といえば近かったかもしれません。ただラピュタ帝国のような恐怖の力で支配するユートピアとは別のかたちで平和を達成する。それが平和学の目指すところです。平和学では戦争がない状態を最善とし、すべての人々が自己実現できるというのが理想。ちなみに滅びの呪文「バルス」とはトルコ語で「平和」を意味しているのですが、宮崎監督自身がこれを意図したかどうかは明らかになっていません。

3.11と符合を見せる『風の谷のナウシカ』。そして『天空の城ラピュタ』の公開を境に世界の核弾頭数が減少しはじめたという事実。両作が先見の明に満ち、どこか予言書的な様相も呈しているように思えてきます。

次回は『紅の豚』や『ハウルの動く城』についてです。お楽しみに!(ナスターシャ澄子)

★前回はコチラ→ 「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(1)

★次回はコチラ→ 「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(3)

 

平和論書影

『ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論』秋元大輔著・小学館新書

定価:本体720円+税

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