職場での人間関係に悩む人は多いもの。CanCam.jpが以前ご紹介した仕事の悩みに関するアンケートでも、「上司・同僚との人間関係」は2位にランクインしていました。
とくに上司との関係性については、本当にたくさんの人が悩んでいる様子。たとえ理不尽な指示でも、上司が相手ではなかなかノーと言えません。また非効率的な仕事をしている上司に対して、「そこはこうしたほうが……」なんてアドバイスもしづらいですよね。
もしも立場が平等なら、もっとテキパキ仕事が進むのに。上司も部下も存在しない、フラットな会社があればなあ……。と感じている、あなた。なんと「上司がいない会社」は、現実に存在します!
100名以上の社員から役職や肩書きを全部なくしてしまった、その会社。「上司が存在しない職場」は、いったいどんなふうに仕事をしているのでしょうか? 詳しい様子をご紹介します。
▼肩書きも部署も一切なし!フラットすぎる会社とは?
株式会社ISAOは、大手ゲーム会社であるセガ(現株式会社セガホールディングス)とCSK(現SCSK株式会社)のグループ企業として1999年に創業しました。今は企業向けのクラウドマネジメントや社内SNSの開発・運営など、IT分野で幅広く活躍中です。
従業員は100名以上。にもかかわらず、この会社には上司と部下という関係性が一切存在しません。なぜならこの会社、2015年から役職・部署・階級といった仕組みを一切なくしてしまったから(!)。
通常の会社では、部長、課長、係長……といった上司から仕事を任されるのが当たり前。でもこの会社には、上司どころか部署の区別もありません。一般的な感覚では、ちょっと想像が追いつかないかも。ここではいったいどうやって、日々の仕事を行っているのでしょうか?
▼やりたい仕事は自分で見つける。ひとりひとりが主役の職場
株式会社ISAOでは、社員が自分でやりたい仕事を見つけて会社に提案し、プロジェクトを立ち上げる形で仕事が進みます。
ほとんどの社員は複数のプロジェクトを掛け持ちしていて、あらゆる情報が社内SNSで共有されています。今どんなプロジェクトが動いているのか、どんな成果が挙がっているのか。それが誰にでも分かるよう公開されているわけです。
どうしても必要な仕事(たとえば経理や総務など)も、部署ではなくプロジェクトとして設けられ、スキルを持つ社員が他の業務と掛け持ちで担当しています。
人間関係はすべてフラット。意見やアイデアは年齢や経歴にとらわれることなく、自由に発信でき、フェアな目線で検討されます。「偉い人が言ったから実行する」とか、「若手のアイデアだから取り合わない」なんて場面はありません。新入社員のアイデアだろうとベテラン社員のアイデアだろうと、平等に扱われます。
なんだか会社組織というよりは、目的を達成するための大規模なチームのようなイメージが浮かんできますね。
ただ、大きな疑問も浮かびます。上司がいないということは、仕事で困ったときには誰に相談すれば良いのでしょうか? また、給与に関わる社員の査定は、誰が行っているのでしょうか?
▼自分で選べる「コーチ制度」が上司の役割をカバー
一般的な会社では、困ったことが起きたり判断に迷ったりしたときには、まず上司に相談することができます。上司がいないこの会社では、それができません。
しかし、「相談相手がいない」というこの課題を見事に解決してしまったのが、この会社独自の「コーチ制度」です。株式会社ISAOでは、社員全員に「コーチを持つ義務」があります。
なんだ、それじゃ結局上司がいるのと同じでは?……と、思った方もいるでしょう。でもコーチと上司はかなり違います。どこが違うのかと言うと、なんとコーチは自分で選べるのです!
この会社では、仕事のノウハウを持っている相手や適切な指導・アドバイスをしてくれそうな相手を、自分で選んでコーチに任命することができます。ちなみにコーチにも年齢や経歴は一切関係なし。そのため、50代のベテランが30代の若手をコーチに任命する、といった素敵な実例もあるのだとか。
そして昇給・減給につながる自分の査定、いわゆる「人事考課」をお任せする相手も、自分で選ぶことができます(すごい!)。
評価担当に任命できるのは最大7人までで、不正やえこひいきにつながらないよう、任命相手と評価内容がすべて社内に共有される仕組みになっています。
肩書きをなくした上、査定の担当者まで自分で決められるだなんて……かなり思い切った社風です。いったいどうしてこのような環境になったのでしょうか?
▼「楽しむ」を最優先したら、肩書きが消えた
これらのユニークな仕組みを作り上げたのは、株式会社ISAO代表取締役・中村圭志さん。ちなみに中村さんの名刺にも「代表取締役」の文字はありません。
中村さんがこの仕組みをつくったきっかけは、赤字続きだった会社の経営を立て直すためでした。社長になった当初、社内には無意味な派閥争いが横行していたそうです。経営陣の仲は悪く、全社員を対象にしたアンケートでも会社に対するネガティブな意見ばかり。外部コンサルタントからは「この会社は死にかけている。(人間に例えれば)体力がないので、手術をしたら即死する状態」とまで言われたのだとか。
それを挽回するために中村さんが打ち出したのが、「楽しむことを大切にする人たちが集まる会社」というコンセプト。このコンセプトに基づき、試行錯誤しながら改革を重ねていった結果、現在の「上司も部署もいない状態」「コーチや査定担当者も自分で選ぶ制度」が出来上がっていきました。
中村さんが肩書きに疑問を感じたのは、社内に生産性の低い中間管理職がたくさんいると気づいたとき。会社にぶら下がるだけの中間管理職は、事業にとっても大きな問題。そもそも、そんな状態の本人たちは楽しいのか? 幸せなのか?……と考えていった先に、「役職も肩書きもない会社」というモデルが待っていました。
ユニークな試みで会社を立て直すことに成功した、中村さん。そんな彼に「より良い職場環境づくりのためにできること」を尋ねてみたところ、こんな答えが返ってきました。
「この仕組みを実現できたポイントは、情報のオープン化と、徹底的な無駄の排除にあります。無駄の排除というのは、たとえば無駄な報告や会議をなくしたことです。そうして得られた最大のメリットは、会社の生産性が上がっただけでなく、社員ひとりひとりが成長に向かうための環境が整ったことだと感じています」
会社の業績はもちろん、社員の成長を何よりも大切にしている、誠実な姿勢が伝わってきます。自分の会社にもこんな経営者がいてくれたら……なんて、つい他人任せな考えが浮かんでしまいますが、中村さんは私たち従業員の立場からもできることを教えてくださいました。
「日本の会社員がより良い働き方を獲得していくためには、従業員ひとりひとりが少し視点を上げて、経営目線から会社や事業のことを考えることを心がけると良いのではないかと思います」
そう、経営者だけでなく、従業員も自分の目線を上げていくこと。それがより良い職場づくりのために必要だと、中村さんは考えているのです。上司がひとりもいない職場は、そこにいる社員ひとりひとりが自主性や積極性をきちんと持っているからこそ、きちんと回っているのでしょう。
株式会社ISAOのバリフラットモデルは、2019年2月、リクナビNEXT主催の「第5回GOOD ACTIONアワード」にも選ばれ、ユニークな成功事例として注目され始めています。今後こうした仕組みを持つ会社が増えていくことも、充分あり得ます。
将来こんな会社で働きたい!と感じた方は、日々ちょっとだけ目線を上げて、経営目線でものを見る練習をしてみると……ひょっとしたら、素敵な結果につながるかもしれません。
(豊島オリカ)
取材協力:リクナビNEXT「第5回GOOD ACTION」
★「雨だから休みたい」が連絡ナシでOK!出勤も帰宅も完全自由な会社が、うまくいっている理由