「痛い?女性にお願いできる?」女性医師が語る、乳がん検診のホントのところ【医師監修】

「痛い?女性にお願いできる?」女性医師が語る、乳がん検診のホントのところ


女性にとって身近な病のひとつである、乳がん。日本の乳がん罹患者は年々増え続けており、今では「日本人女性の11人に1人がかかる」と言われています。

厚生労働省では「40歳以上の女性に対し、2年に1度、マンモグラフィ併用検診を行う」という指針を定めています。今20代、30代の女性も、年を重ねれば乳がん検診を受ける日がやってくるということです。

でも未経験の読者にとっては不安が多いかもしれません。「乳がん検診は痛いって本当?」「男性技師に胸を見られなきゃいけないの?」など検診について気になる疑問をすべて、乳がん治療の第一線で活躍される昭和大学病院乳腺外科・明石定子先生に伺いました。

先生
(c)Shutterstock.com

乳がんは若い女性に増えているって本当?


乳がんの話題で気になるのが「今若い世代に増えている」という噂……。これって本当なのでしょうか?

Q.乳がんのピークは40〜60代。でも20代、30代で乳がんに罹患する人もいるのでしょうか?

はい、割合としては非常に少ないですが、いらっしゃいます。

Q.最近「若い患者さんが増えている」という話も耳にしますが…

いえ、そんなことはありません。全国の乳がん患者さんを年代別に分けると、下のグラフのようになります。

乳がんの年齢別症例数グラフ

20代の患者さんは、全体の0.1〜0.4%。30代でも1.3〜3.7%です。ゼロではありませんが、割合で言えば決して多くはありませんし、若い方にだけ目立って増えているという事実もありません。怖がらなくて大丈夫ですよ。
ただ患者さんの数自体は確かに年々増加しています。若いうちからリスクを減らし、早期発見に努めることが大切です。

20代、30代も乳がん検診を受けた方が良いの?


40歳以上は乳がん検診を受診すべき、というのが厚生労働省の方針。では20〜30代はどうしたら良いのでしょうか?

Q.乳がん検診は40歳になるまで受けられないのですか?

そもそも40歳未満の方で乳がんが発見される確率は低いので、市町村の検診は40歳未満を含んでいません。しかし、自費(自腹)で希望される場合は何歳からでも可能ですし、職場検診(健保組合のドックなど)のメニューに組み入れられている場合もあります。

Q.「若い女性の場合、検診で乳がんを見つけづらい」というのは何故ですか?

乳房の中には乳腺組織(母乳を作ったり乳頭まで運んだりする組織)があります。若い女性はこれが多く、年齢とともにだんだんと乳腺組織が脂肪に置き換わっていきます。乳腺組織の割合が脂肪よりも多いとマンモグラフィを撮影した時に乳房全体が白っぽく映り(デンスブレストといいます)、脂肪が多いと黒っぽく映ります。若い女性では乳腺組織の割合が多いため、デンスブレストであることが多く、乳がんも白く映るので、折角マンモグラフィを撮影しても、見えにくい場合があります。
またレントゲンの被曝の影響も若いほど大きくなりやすいため、20代、30代でマンモグラフィを毎年受けるメリットは少ないといえます。若い女性の場合はマンモグラフィ中心でなく、セルフチェックや必要に応じ超音波検査を主体に検診を受けることがおすすめです。

Q.乳がん検診というとマンモグラフィというイメージがありますが、それ以外の検診方法もありますか?

マンモグラフィ以外では、超音波(エコー)検診が一般的です。こちらは若い方にもデメリットがないので、遺伝性のリスクが心配な場合など若くして検診を受けるときには超音波(エコー)を選ぶと良いでしょう。

他に、乳房専用のPET装置(専用の薬剤を投与して撮影し、がんを発見する装置)も開発されています。こちらは装置の上にうつ伏せに寝転んで撮影を行うため、マンモグラフィのように乳房を挟むときの痛みもありません。ですがまだ一般に広く普及している装置ではないので検査費用がかなり高額ですし、受けられる場所も限られます。将来的にはこのような装置が普及して、検診の選択肢が広がるかもしれませんね。

Q.例外的に、20〜30代でも積極的に検診を受けた方が良い人はいますか?

います。たとえば母親が30代前半など若くして乳がんになり、自分も遺伝的なリスクを抱えているといった方です。こうした方は20代、30代でも検診を受けていただいた方が良いでしょう。

遺伝的なリスクを抱えている可能性があるのは、次のような方です。

・親族に乳がん患者が複数いる
・親族に若くして乳がんになった人がいる
・親族に両側性の乳がん、卵巣がんにかかった人がいる

ただしこの条件に当てはまるからといって全員が乳がんになりやすいと決まっているわけではありません。あくまでも「なりやすい遺伝子を持っている可能性がある」という話です。

実際に自分が遺伝性リスクを抱えているかどうかは、医療機関で遺伝子検査や遺伝学検査を受けることで調べられます。この場合、通販などで手軽にできるものではなく、医療機関でしっかり遺伝カウンセリングを受けてから検査することをおすすめします。遺伝性乳がん(遺伝的に発症リスクが高い状態)と分かった場合には、超音波やMRIも用いた、より積極的な専用の検診が推奨されています。

ただし、あくまでもこうした遺伝性リスクを持つ方は少数です。闇雲に不安にならず、まずは基本のセルフチェックや検診をしっかり行うことが大切です。20〜30代では月1回のセルフチェックをしっかり行い、40歳以降では2年に1度のペースでマンモグラフィもしくは超音波検診を受けましょう。

▶セルフチェックのやり方については、こちらの記事を参考にしてください。
★乳がんの「しこり」ってどんな感触?正しいセルフチェックの方法とタイミング【医師監修】

マンモグラフィ検診は「痛い」って本当?


続いて、未経験者にとってはかなり気になる「マンモグラフィの痛み」についても教えていただきました。

Q.マンモグラフィは「痛い」と聞きますが、本当でしょうか?

マンモグラフィ検診では、乳房を板で挟んで薄く伸ばします。個人差はありますが、このときに痛みを感じる人もいます。

Q.痛みが生じるリスクがあるのに、どうして乳房を薄く伸ばすのですか?

理由はふたつあります。ひとつは細かいところまで綺麗に見える画像を撮影するため、もうひとつは放射線による被曝の量をできるだけ少なくするためです。発見率を上げるためと、受診者ご自身の身体のために必要なことなのです。

Q.痛みを少なくする方法はありますか?

生理が終わった直後に受診すると、痛みを軽減できる可能性があります。というのも生理前は胸が一番張っているので、この時期に検診を受けると痛みを感じる確率が高くなってしまうのです。
痛いか痛くないかは個人差が大きくて、「思ったより痛くなかった」とケロリとしている人もいます。だから必要以上に怖がらないでほしいのですが、どうしても怖い場合には生理の後を狙って検診を受けると良いかと思います。

Q.胸のサイズによって痛みが変わることはありますか?

いいえ、胸のサイズは関係ありません。

検診とはいえ…「女性にお願い」するのは可能?


さらに、検診の現場でやっぱり気になる「あのこと」についても質問してみました。

Q.乳がん検診で女性の技師さんを希望することはできますか?

というより、検診を行う技師さんはほとんど女性です。マンモグラフィも超音波も本当に女性ばかりですよ。私は乳腺外科医として25年間現場を見てきましたが、男性の技師さんには20年くらい前にひとりだけお会いしたきりです。それ以外はすべて女性技師さんでした。

やはりお胸に直接触れるので、女性としては気になりますよね。検診を受けたことがないような若い世代の方はとくに「男性だったらどうしよう……」と不安に感じている方もいらっしゃるかと思いますが、その点は安心していただきたいです。

Q.ちなみに、技師だけでなく女性医師も増えているのでしょうか?

はい、増えています。とくに若い世代の乳腺外科医の場合はほとんど女性です。乳腺外科に限らず、今は業界全体で女性医師が増えています。

この記事を書いている私も乳がん検診は未経験。勝手なイメージで不安を抱いたりもしていましたが……お話を聞いてかなり安心できました。

次回はシリーズ最終回。乳がん発症リスクを下げるための具体的な対策について伺っていきましょう。

 

【前回までの記事はコチラ】

★乳がんの「しこり」ってどんな感触?正しいセルフチェックの方法とタイミング【医師監修】

★乳がんになりやすい人の特徴・行動は?出産、飲酒、喫煙、遺伝子…リスクを上げる要因と対処法【医師監修】

 明石先生

■明石定子(あかしさだこ)先生
昭和大学病院乳腺外科准教授。1965年生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三外科に入局。1992年より国立がん研究センター中央病院外科レジデントとしてオペの経験を積み、同乳腺外科がん専門修練医、医員、2010年には乳腺科・腫瘍内科外来病棟医長を務める。2011年より現職に就任。日本外科学会指導医・専門医、日本乳がん学会乳腺専門医・指導医・評議員、検診マンモグラフィ読影認定医師。

■取材協力 日本対がん協会

(取材・文/豊島オリカ)

 

 

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