食や教育…徳島県神山町でトラウデン直美が感じた〝自分にとっての持続可能とは?〟【SDGs連載】

【SDGs連載】ファイナルは徳島県・神山町へ

世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考え、2020年から約3年半続けてきたこの連載も、いったんここでひと区切り。今回は「これまで学んできたサステナビリティを体現している町の方々にお会いしたい!」と、神山にやってきました!

ここからは、前編に続きトラちゃんが徳島県・神山で出会った方々との対話を通して発見したことをご紹介していきましょう!

徳島阿波おどり空港から車で約1時間、賑やかな市街地から徐々に離れ、緑豊かな里山へ。滞在先に到着した瞬間、思わず駆け寄ったのがこの縁側! 町と共に70年を重ねた佇まいと通り抜ける風に、この地で暮らす人々の温かさが迎え入れてくれたような不思議な感覚に…。

連載を始めた頃からずっと変わらないのは、サステナブルって「自分と自分の大事な人たちが、幸せでい続けられる場をつくること」だなという思いです。かつて消滅可能性都市のひとつに数えられながら、今や〝創造的過疎〟と呼ばれる神山町には、古きも新しきも受け入れて課題を解決していく、おおらかな土壌があると感じました。自然保全、地産地消、教育改革、古民家再生…様々な取り組みに触れるこの旅を通じて、未来を変える扉を一緒に開いてみませんか?

[ about ] 神山町/徳島県の山あいにある人口約5,000人の町。過疎地域ながら、2004年に町全体に光ファイバー網を設置し、空き家を活用したIT企業のサテライトオフィスや、個性豊かなお店が続々誕生。近年は若い移住者が増え、地方創生のモデルとして全国から視察が相次ぐ。

★トラウデン直美「SDGs連載」前編はこちらから↓

「地産地消」で旬を楽しみ食と農を次世代につなぐ

■神山の農業を食べて支える少量生産・少量消費の豊かさ

オープンキッチンに心躍る食堂では、新鮮な野菜の甘みとパワーに幸せいっぱい♡ フードハブ・プロジェクト共同代表・白桃薫さんは、農業の担い手減少と耕作放棄地の問題を解決するため、町役場と連携して、就農支援や給食、加工、食堂、ベーカリーなど8つの事業を同時に立ち上げたとうかがいました。

「種をまくところから皆さんの口に届くまでをひとつのチームで担う業態。単一品目でなく、町民に必要とされる多様な農作物を生産することで、地域内消費を促す循環を大切にしています。多品目栽培は作物の病気予防にも効果的ですね」(白桃さん)

神山での産食率を毎月算出し、農産物だけなら、なんと8~9割を達成しているとか。気候変動によって、今までの暦の常識が通じなくなってきている一方、ポジティブな変化も感じているそうです。

「荒れていく畑を見るのは心が苦しかったけれど、今は耕してくれる仲間ができて、守られています。神山町の出身は私と父だけで、他メンバーは東京や大阪などからの移住組。本当にうれしいですね」(白桃さん)

\高齢の町民にも届くように、折り込みを配布/

白桃さんはフードハブ・プロジェクト農業長を兼務。毎月の活動や営業予定を知らせる『かま屋通信』で、町民との交流も生まれている。

栽培期間中、化学肥料・農薬不使用で育てた野菜中心の定食ランチ。この日はレモングラスでマリネしたすだち鶏のグリルに、春菊と白菜のサラダ、かぶスープ、菊芋チップス、釜炊き梅干しご飯。

\午後は売り切れ注意!在来種・神山小麦のパンも/

ベーカリーでは、レーズンや小麦由来の自家培養発酵種が生きたもっちりした食パンを堪能。どちらも口に入れた瞬間、目を見開くほどのおいしさ♡

\パン製造責任者笹川大輔さんは東京から移住/

かま屋・かまパン&ストア/「農業法人フードハブ・プロジェクト」が運営。食堂「かま屋」で週替わりで提供されるランチは、地元の旬野菜をたっぷり使用。また、「かまパン&ストア」では、町で採れたものでつくる焼きたてパンの他、食堂で使われる調味料などを販売。徳島県名西郡神山町神領北190-1

起業家精神と生きていく力を養い社会を動かす教育の場

■教科書だけでは得られない自ら考える実践的な学び

取材にうかがったのは、神山まるごと高専開校1年の感謝と成長を伝える、町民報告会の日。生き生き発表する学生さんの表情と、それを見守る町民の皆さんの笑顔にほっこり。

事務局長の松坂孝紀さん曰く、「この学校の軸は、チームで実践の中から学び、モノをつくる力で、コトを起こせる人を育てること。毎週起業家を招き、学生がその思考や習慣に触れて身近に感じられる時間を設けています」。

\授業や研究の拠点、「OFFICE」は棚田の跡地に/

学生さんに1年の収穫を聞いて印象的だったのは「10歩先の大きいことをやろうと焦った経験があるからこそ、小さいことでも誰かのすごさに気づける。一日一日を大事に土台を築きたい」との言葉。私も偉大な人に会うたび自分は何をすべきかと迷うので共感します。他にも「大人が楽しそうに仕事の話をする姿を見て刺激に」「価値観の違う相手にも壁をつくらず、知ろうと思えるようになった」と胸アツなお話に、教育の本質を感じました。

\静岡、北海道、山形など故郷は様々/

事務局長の松坂さんは、人事コンサルティング会社経営を経て家族で移住。話を聞いた(左から)1期生の伊藤楽大さん、松井ひな子さん、鈴木カヲルさんと。

神山まるごと高専/日本で19年ぶりの高等専門学校として、2023年に開校。初年度倍率は約9倍、合格者44名の男女比は同数。全寮制で「テクノロジー×デザイン×起業家精神」を土台に、人間の未来を変える学校を目指す。企業が出資や寄付をする給付型奨学金制度で5年間学費無償を実現。

古民家と石積みを再生。持続可能な暮らしを体感する宿

■なつかしくて、新しいSTAY&WORKを

実はこの特集の最初に登場したのが、古民家を改築したWEEK神山の縁側。鮎喰川を見渡し、リラックスして働くスタイルを体験できます。元々は起業を志していた京都出身の料理人・神先岳史さんが、代表を引き継いだのは、職業訓練プログラム「神山塾」がきっかけだそう。

「以前は受け身というか、環境が自分を育ててくれると思っていたんです。でも、ここで自分を全開にして頑張ってみたら、するすると縁がつながって」(神先さん)

2021年からは「石積み学校」と一緒にワークショップを開催、宿泊棟周辺の崩れた石積みを修復しています。

「自然に優しい昔ながらの技法で、景観を守ることが目的でしたが、ありがたいことに全国から宿泊を兼ねて参加してくださるので、人手もまかなえています」(神先さん)

\人の手で半永久的に直せる石積み/

お向かいにコワーキングスペースがあり、視察などビジネスで滞在する人も。

「神山まるごと高専のゲスト講師を務める起業家をはじめ、各界をリードする人にお会いできるのは貴重ですね。出資者である町民の方々との交流も大事に、スタッフと協力しながら運営しています」(神先さん)

顔を上げて、思い切り深呼吸したくなる♡ 樹齢150年の神山産ヒノキの丸太柱や、神山杉をふんだんに使った宿泊棟。擁壁には、コンクリートを使わず環境負荷が低い石積みを活用。川へ降りる道の整備や河原の清掃も行い、景観を維持している。

オーバーオール¥36,300(k3 OFFICE<k3&co.>)、インナー¥7,480(レイ ビームス 新宿<レイ ビームス>)、カーディガン¥30,800(HOLLYWOOD RANCH MARKET)、フードボンネット¥5,940(OVERRIDE ルミネエスト新宿)、靴/スタイリスト私物

\食堂では研修やイベントも開催/

\手の込んだ家庭的な料理を提供/

京都や大阪で創作和食の経験を積み、徳島の地元食材を使ったグルメ開発などを手がけてきた神先さん。体が喜ぶ、素材の風味が生きた料理にほっと安らぐ(夕食は予約制)。

\朝食は日替わり、「かまパン」が味わえる日も/

\全室リバービューの宿泊棟はワーケーションにも/

樹齢150年の神山産ヒノキの丸太柱や、神山杉をふんだんに使った宿泊棟。擁壁には、コンクリートを使わず環境負荷が低い石積みを活用。川へ降りる道の整備や河原の清掃も行い、景観を維持している。お部屋は白と木目、窓の景色が織りなすシンプルで清潔感のある空間。暮らすように過ごし、川のせせらぎと鳥の声に包まれて目覚める朝は、なんとも健やか!
WEEK神山/2015年にオープンした宿泊施設。築70年の古民家をリノベーションし、フロント兼食堂に。宿泊棟は鮎喰川に臨む全室リバービューで、刻々と移り変わる絶景に時間を忘れて寛げる。Wi-Fi完備なのでワーケーションも快適に! 徳島県名西郡神山町下分地野57

神山の自然と出会いを通して感じたことは…

誰にとって持続可能なのか、神山の人々のしなやかさに学び優しい生き方を見つけたい

「今回の旅で、移住や新しい挑戦を始めた方々にお話をうかがい、自分の価値観を押しつけずに「神山に何が合うか」を一番に考えている姿にこれこそが地方創生の秘訣なんだなと感じました。ただ都会の流行や文化をもち込めばいいわけじゃない。いかに暮らし、働き、学ぶか、心の在りようを含めて町も人もそれぞれに持続可能な生き方がある。私は進んだ先で悩んで行き詰まることが多いので、〝自分にとっての持続可能〟ってなんだろう? と問い直す機会にもなりました。今後も現場に足を運び、色んな人に会って、見解を見て聞いて、感じることを忘れたくない!そこから社会にも地球にも、そして自分自身にも優しい生き方を見つける旅を続けていきたいと思います」。

ジャケット¥53,900(OKURA)、リング¥10,450(k3 OFFICE)

■神山からの帰路で見送ってくれた虹♡

■夕日にきらめく鮎喰川を心に焼きつけて

今月のSDGsブランド

■「mizuiro ind」

ブランドコンセプトは、〝Ageless〟〝Sceneless〟〝Seasonless〟。年齢も着る場所も選ばず、様々なシーンに寄り添う服は、季節を通して楽しめる。何事にもとらわれない素材や着丈、デザインに、重ね合わせる楽しさと長く一緒に過ごす喜びを実感。

■「BLUE BLUE JAPAN」

手作業で縫い合わせた、温もりを感じられる藍を中心としたモノづくりからスタート。「MADE IN JAPAN」にこだわり、日本の伝統技法である本藍染めや、四季を感じさせるカラー・素材を使用した、着心地がよくて長年着用できるアイテムを展開する。

トラちゃんが心に刻んだ出会いをプレーバック!

約3年半の連載でお会いした皆さんとのお話から芽生えた気づきを、ダイジェストで振り返ります。

■義足のモデル・海音さんとコラボ♡

楽しかった海音ちゃんとの撮影。その後、東京オリンピックの閉会式とパラリンピックの開会式に出演し、CMなど様々な舞台でご活躍されていてうれしいな。個性を活かして誰もがチャンスをつかめる世の中をつくっていきたい! ハンディを武器に、羽ばたく姿がかっこいい!

「CanCam2021年11月号」撮影/田形千紘

■能條桃子さんと語った〝20代と政治〟

縁遠く感じてしまう政治の世界に諦めないで、疑問に思ったら「これっておかしいよね?」と投げかけてみる。能條さん率いる「NO YOUTH NO JAPAN」の活動に背中を押され、声を上げる人が増えている気がします。心に浮かんだ違和感を大事に意見をもとう。

「CanCam2021年1月号」撮影/藤井由依
 

■動物と人間の幸せを考えたズーラシア

気候変動は猛暑や豪雨がなければ実感する機会が少ないですよね。動物たちの暮らしを見ると、人間だけよければいいの?と考えさせられます。スマホに使用されるレアメタル採掘が環境破壊の要因になると知ることもできました。

「CanCam2022年2月号」撮影/相馬ミナ
 

■読者のみなさんと誌上ミーティング

誌面では一方的に発信してきたけれど、みんなにはどう見えているんだろう?という思いから企画。SDGsを一歩引いて分析する人、興味はあるけど意識高いと言われて悶々としている人など、本音に触れられたのがうれしかったな。

「CanCam2022年3月号」撮影/芹澤信次

■国境なき医師団に人道支援を学ぶ

日本ではウクライナのこともパレスチナのことも報道が減ってしまっている中、今も現場で支援を続けている国境なき医師団の皆さん。関心を寄せることが希望になるという、世界の人道危機の実情をうかがい、言葉で表しきれないもどかしさを感じた取材でした。

「CanCam2022年7月号」撮影/花村克彦
 

■障害のある人の才能を放つヘラルボニー

最近色んなところでヘラルボニーを知っている人に会い、注目度の高さを感じます。アートで福祉のイメージが着実に変化。目指していた「いいもので、かっこいいから持つ」という世界観を実現されているなと感じます。アートシャツをまとって日常に彩りを!

「CanCam2022年10月号」撮影/三瓶康友
 

■防災体験施設「そなエリア東京」で地震を生き抜く体験取材

等身大サイズのアトラクション感覚で、身をもって地震のリスクが感じられる貴重な体験スポット。映像だけで見るのとは違い、危機意識がグッとUP…! 体験後はさっそく防災リュックを購入。何度も振り返りたい回です。

「CanCam2022年12月号」撮影/花村克彦
 

■大量消費を見直す日本の伝統「金継ぎ」

この号の金継ぎで直した器が我が家で大活躍。かわいくて思い出があって、他の器より丁寧に扱っています。モノは壊れて終わりじゃない。手をかけて息を吹き返すと、さらに愛着が増して長く使えるんだと再発見できました。数百年伝わる知恵で割れ・欠けを修復!

「CanCam2023年6月号」撮影/角田明子
 

3年半ありがとう♡TORA’S MESSAGE

「すべての回を読み返して、この連載でいただいた学びが今の自分に沁み込んでいるなと実感しました。SDGs達成はまだまだ先の長い道。次なるサステナブルの種を見つけに、いざ!」byTora
 
 
3年にわたってお届けしてきたトラちゃんのSDGs連載は今回でファイナル。これまで多くの関心を寄せてくださりありがとうございました。
2024年CanCam5月号「トラウデン直美と考える 私たちと『SDGs』」より 撮影/須藤敬一 スタイリスト/鈴木千春 ヘア&メイク/神谷真帆 モデル/トラウデン直美(本誌専属) 構成/佐藤久美子 web構成/坂元美月 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。