「誰ひとり取り残さない」社会をつくるには?
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回は、SDGsの理念「誰ひとり取り残さない」を体感しに暗闇へ。人と人との関わりや対話の大切さを学びました。
見えないからこそ発見できる人間の温かさと可能性
トラ 完全に光を遮断した暗闇も白杖も初体験。自分の手さえ見えないので、最初は緊張しながら空間を感じることに集中していたのですが、徐々に心地よくなって。アテンドの方や参加メンバーの声が聞こえるとホッとするんです。不安と安心の狭間にいる感覚。気持ちが高ぶり涙してしまう場面もありました。
志村 どうして涙が出てきたの?
トラ 言葉にするのが難しいのですが…常に見られる仕事をしていることもあり、お互いに「見えない」「見られていない」ことで解放されたような気がして。大きかったのは、アテンドのトランプさん(ニックネーム)の「以前は目が見えないことが好きではなかったけれど、今は皆さんにこういう体験を届けられて自分の世界が好きになったんです」というお話。トランプさんには音やにおい、気配を捉える、私にはない感覚があるんだなと。語弊があるかもしれませんが、その世界をもっていらっしゃることが本当に素敵で羨ましく感じました。
志村 ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケが発案した『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』(以下、DID)を日本に普及させたのが、私の夫である志村真介なのですが、初めて体験したのがローマで、イタリア語がわからなくて暗闇で迷子になってしまったんですね。困っていたら、知らない人が誘導してくれた。夫は「暗視ゴーグルをつけたスタッフだろう」と思って外に出てみたら、実は目の見えない人が〝足取り〟で異変を察知して助けてくれたんだと知って。その感動が、日本でDIDを始めるきっかけにもなっているんです。
トラ 私たちも暗闇で迷いのないトランプさんの所作に何度も驚かされました! DIDでは、障害のあるアテンドスタッフの方が約30人働いていらっしゃるとか。
志村 竹芝の「ダイアログ・ダイバーシティミュージアム『対話の森』」では音のない世界で対話するプログラムもあり、楽屋では目が見えない人と耳が聴こえない人が歩み寄って工夫しながらコミュニケーションを交わしています。人って、友達になりたいと思ったらどんな努力もできるんだなとその姿に胸を打たれますね。
■今回体験したのは…ダイアログ・イン・ザ・ダーク 神宮外苑『内なる美、ととのう暗闇。』
視覚障害のあるアテンドスタッフと共に、〝照度ゼロ〟の暗闇を歩いて探検し、視覚以外の様々な感覚や参加者との対話を楽しむソーシャルエンターテイメント。時間が経っても目が慣れることのない漆黒の非日常空間で自分と向き合い、心と体をととのえる。プログラムは時期によって変わるので公式HPで確認を。
■裸足になって触覚を解放♡
■白杖を頼りに暗闇へ…
対等に出会い、助け合うことで自分も他者も好きになる
トラ 目の不自由な方は日本では約35万人いるとか。
志村 実際はもっと多いと思います。というのも、まだ言えない人もいて。見えないことで受け入れられない場もあり、「見えているふりをして生きてきた」「DIDで初めて白杖を持てたし、自己開示できて自由になれた」という方もいるんです。
トラ それは苦しい…。志村さんは、DIDに参画する前はセラピストとして活動されていたそうですね。
志村 当時はありがたいことにカウンセリング予約が2年先まで埋まってしまっていたんです。一方でDIDでは、体験すると涙を流しながら「自分のことが好きになれた。そうしたら他者のことも好きになれた」「心と心で人と出会えた」と言われる方が数多くいて。これって、メンタルヘルス改善のプロセスと同じなんですね。DIDの活動をもっと広げたいなと思い、企画・運営を担うようになりました。
トラ 確かに暗闇では人との心の距離が近くなりました! 恥ずかしがらずにキュッとお互いの手を握ったり、肩に手を置いたりできるのもうれしかったです。言葉以上に伝わってくるものがあって、温かい。それに、目が見える人でも、感じている世界は各々違うんだと気づきました。例えば、夏と言えば…で思い浮かべるシーンがみんな違う。私は食べ物ばかり(笑)。参加者同士の交流にも発見がありました。今回は18歳以上限定でしたが、竹芝会場では子供も体験できるとのこと。お子さんたちの反応はいかがでしょう?
志村 すぐに慣れてどんどん先に進む子、アテンドを手伝ってくれる子もいて面白いです。ある女の子はアテンドの男性に「お母さんと結婚してほしい!」と。どうやらシングルマザーの家庭で、「暗闇でとても頼もしくて王子さまみたいだったから、お父さんになってほしい」と思ったそうです。目の見えない人は助けられる側…という先入観もなく、相手の素敵なところをフラットに気づける、本質的な出会いになったのかなと。
トラ ぜひ教育に取り入れたいですね!
志村 ヨーロッパやアジアの一部では学校授業の一環になっていて、まず小4で体験して多様性を理解することで、高学年からのいじめなどの問題が減るんです。あとは自意識に苛まれる中2の時期。他者と助け合うことを知ると、自己肯定感が上がる。誰かのためになれたら、今の自分もいいかなと思えるんですよね。
トラ 若者の自殺率が高い日本にこそ必要ですね。
志村 「助けて」と言えない人が多いのではないでしょうか。親御さんや先生から「人に迷惑をかけるな」と育てられ、弱い部分は見せてはいけないと思ってしまう。本当に大事なのは、お互いさまで助け合うことなのに。
トラ 暗闇では「どこにいるの?」「こっちだよ~」と気軽に声を掛け合えて、〝頼る・頼られる〟関係が自然と生まれる。でも日常生活だと、まず自分でなんとかしなくてはと考えてしまうかもしれません。
志村 失敗して「大丈夫ですか?」と聞かれて、反射的に「大丈夫です」って言っちゃうとかね。私はよく転ぶのですが(笑)、「大丈夫じゃないかもです~」と弱音をこぼすと、皆さん快く手を貸してくださるんですよ。
トラ 声を掛けて恥ずかしい思いをさせたらどうしようとか、余計なことも考えてしまいます。素直に手を差し伸べられる社会にしたいです!
志村 DIDでは、助け合いで解決するシーンをあえてつくっています。その経験で人は変わる。他者のことがちょっと信じられなくなっちゃったとか、自分がちっぽけだなと感じてしまったときはぜひ来てください。〝お互いさま〟の日本をつくっていきたいと思っています。
■世界47か国以上で900万人以上が体験! 企業研修としても注目
世界は敵だらけじゃないと思えて心がふっと軽くなりました
体験後は感覚が研ぎ澄まされ、最後の灯りがすごく明るく見えて、外を見たら葉っぱの1枚1枚も感じられるほど。今生きている世界がよりキラキラと温かく見える出合いでした。足りない! もっといたい! と感じたので、友達を誘ってぜひまた訪れたいな。
目指せ「SDGs」! トラちゃんの一歩
■木材からパルプにして紙になる工程を見学
苫小牧の王子製紙工場へ! 支笏湖から流れる川の水力で発電し、工場稼働や周辺への電力供給に活用。大規模停電時にも影響を受けなかったそうです。
植樹だけでなく適切に木を使って管理する循環が森を守ると知りました。
■今月の1冊は…『美しき愚かものたちのタブロー』
日本の若者に西洋のアートを生で見てほしいとの思いで、国立西洋美術館をつくる実話が基に。本物を自分で見ることに大きな価値を感じましたし、私も現場に行くことを大事にしたいです。
今月のSDGsブランド「mi luna」
一度ジュエリーとして輝きを放ったユーズドの天然石やパールから、プロの鑑別で上質なものだけを厳選。熟練の職人の手で新しい姿へアップサイクルする〝循環型〟ジュエリーブランド。新たに採掘することなく、CO2発生や環境破壊から地球を守る。
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