循環型社会のヒントは江戸時代にあった!
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回は、江戸時代にタイムスリップ!? そこには現代人が忘れてしまった、循環型社会のお手本がありました!
■体験したのは…『深川江戸資料館』
高い吹き抜けの大空間に、江戸時代末期の深川佐賀町の町並みを再現したリアルな展示が人気。各家には生活道具類が配置され、実際に中に入って触れることもできる。また、照明効果と音響効果で、当時の人々の一日の暮らしを演出。まるでタイムスリップした気分に!
天保年間の江戸は、成熟して落ち着いた雰囲気。船宿は「江戸の足」となり、人流や物流を促進。
100万人が暮らす水の都・江戸経済や人々の生活を支えた水運
歴史小説を読んだり徳川家康の取り組みを取材した番組がきっかけで、約260年も続いた太平の世、江戸時代に興味津々! というわけで今回は、天保年間(1830~1844年)の深川の暮らしを体験してきました。
深川は、商業の中心だった日本橋から2.5㎞くらい。現代では都心部の感覚ですが、当時の人々にとっては涼やかな水辺の住宅地で、人混みや喧騒から逃れられる行楽地でもあったんですね。歌舞伎役者は別荘を構え、少しさかのぼって1600年代後半には俳人・松尾芭蕉の庵があり、『おくのほそ道』の旅もこの地から始まったとされているそうです。
江戸の町には水路が張り巡らされ、人々は船着場に停めてある数人乗りの小舟=「猪牙船」を乗り合いタクシーのように使って移動。「船宿」で予約すると、船頭さんが希望の場所へ運んでくれるシステムで、浅草や吉原へもここから。乗り合いを待つ間は、船宿で腹ごしらえをして寛いだようです。
また、物流にも活躍した水路。主には木材をいかだのように流して運搬していたとのことで、江戸の建設ラッシュを支えたことに始まり、昭和前期に陸上流通に移行するまで大事なインフラに! ちょうど別のお仕事で北海道の製紙工場を取材した際に、同じ方法で木を運ぶ様子を見てきたのですが、カーボンフリーで人の負荷も少ない、現代にも通じる知恵を実感しました。
■運河・水が発達!
家康の時代から川や水路を使っての水運に力を入れ、土を掘って掘割が整備されていた江戸の町。深川周辺は物流の拠点や貯木場として栄え、都市の発展を支えていた。
長屋のコミュニティ文化で〝住み続けられる〟町づくり
治安や防災は自治によって守られ、町づくりでも相互扶助の意識が見られた江戸後期。庶民の多くは長い家を壁で仕切っただけの長屋住まいで、町や長屋の出入り口には木戸が設置され、町内で雇われた木戸番が常駐で管理し、往来する人の確認や火の番を行ったそうです。夜10時頃には門が閉まり、朝6時の開門までに通行できるのは、原則お医者さんのみだったというから安心ですね。
消防としては、いざ火の手が上がったら火の見やぐらの番人が鐘を鳴らして知らせ、とにかく延焼を防ぐために町人も初期消火に参加。防犯も火事対策も地域のつながりがないとできないこと。自分自身の生活や命に関わるからこそちゃんとコミットしようと思うし、井戸端でのおしゃべりも情報交換や社交として大切なんだなと感じました。
教育面では、子供の就学率が高く、女子教育も盛ん。個人塾の役割を担う女性もいて、世界でも稀に見る識字率の高さ(都市部は70%以上という説も!)に貢献していたのかな。
屋台文化が発展
■一般的な長屋の居室は、4畳半の畳間に土間と台所。モノが少ないのは、押し入れなどの収納がないことに加え、火事が起きてもすぐに逃げ出せるように。
■天ぷらは江戸のファストフード! 独身男性と共働き世帯が多く、蕎麦や寿司など手軽な屋台での外食が増加。
■読み書き、踊りや唄、三味線などを教えていた女性の家を再現。子供は地域で育て、10歳以降は働き手として奉公に出される。
■初期消火のため、雨水を溜めた大きな桶が町のあちこちに!
環境に適応して幸せを見いだす究極のゼロ・ウェイストと循環
鎖国により限られた資源の中で生活していた当時の人々、循環型の暮らしが自然と根づいていたのが大きな特徴。八百屋さんでは近隣の農地で採れた季節野菜の他、卵やこんにゃく、漬物などが並んでいました。魚や貝、豆腐などは棒手振と呼ばれる行商人から購入。冷蔵庫がなく食材の保存はきかないけれど、わざわざ遠出する必要がなく毎日近所まで売りに来てもらえるので、住民はその日食べる分だけ買い物をしていたとのこと。まさにフードロス知らずですよね!
そして、衣食住のあらゆる場面でリサイクル・リユースが行われていたのもポイントです。鍋でも草履でも、壊れたら直して使用。庶民の着物は、寒くなったら綿を入れて冬仕様に、暖かくなったら綿を抜いて一着を通年で着回していたとか。四月一日と書いて〝わたぬき〟と読むのはこのためなんですね。折々に繕いながら着て、古くなったら着物が破れたときに当て布として使う。次は赤ちゃんのおしめにして、さらにボロボロになったら今度は雑巾に。いよいよ使えないとなったら燃やして灰を肥料として土に還す…という徹底したリサイクルです! これも綿や麻などの天然素材だからこそできたことなんだなと。ちなみに、長屋ではトイレ・ゴミ捨て場・井戸を共用。大屋さんが管理していて、トイレの糞尿は近くの農家が買い取ってくれます。糞尿を発酵させて肥料にして野菜を育て、収穫した野菜や金銭を大家さんに対価として納めたとか。
江戸時代の生活から学ぶゼロ・ウェイストというのは日本人だからこそだと思うし、土地柄に合っていることだと思うんです。もちろん下水道のように、衛生上、最適化されている現代のシステムは素晴らしいけれど、一気に欧米化した過程でいい部分も変えてしまった可能性がありますよね。戻せる部分や応用できる部分がないか、再検証できるといいのかなと思いました。
長期安定政権で、学問・文化・芸術・経済など様々な分野の活動が活発化したとはいえ、総じて見たら現代のほうが便利だし豊かだと思う人が多いかもしれません。でも、江戸の人々の暮らしには工夫や遊び心があって、人間は社会や環境に適応して楽しみや幸せを見いだせるんだと教えてもらった気がします。今後、日本は人口が減る一方で、世界では人口が爆発してさらなる食糧や資源の不足が予測されていますよね。楽観視はできないけれど、環境に適応してきた先人の歴史は希望。知恵を借りながら、未来へ進んでいきたいです。
食材は地産地消&量り売りで、ムダなく
■お米屋さんで精米時に出るもみ殻も肥料や燃料に。
■古着の他、紙や灰など様々な回収業が身近に。
■共同トイレは防犯と臭い対策で扉は下半分のみ。
■生ゴミはほぼなく、魚の行商もその場でさばいて切り身にし、肝や骨、貝殻は回収。
ゴミ捨て場には、割れた器くらいしかなかったという。
ミニマムながら役割分担で最適化。現代社会を豊かにしてくれる教訓
町の気配までリアルに再現されているので、人との交流が多い賑やかな日常が目に浮かぶようでした! 江戸を知るにつれ、物質的な資産は限られていても、精神的な豊かさを得る工夫はできるし、文化や技術も育まれるのだなと前向きになれますね。
目指せ「SDGs」! トラちゃんの一歩
■ひとり旅でスペインに滞在
旅行中に食べたものが原因でアナフィラキシーになってしまいました(涙)。でも、現地病院の方々が外国人の私にもすごく丁寧に対応してくださり、安心&大感動。観光立国を目指す日本も、サポート準備ができてるといいな!
■今月の1冊は…『未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること』
人口減少する日本で各業種・職種や公共サービスに何が起こるのか。現在、抱えている問題が、私たちの未来にどう影響してくるのかよく理解できる一冊。正直、恐ろしいです…!
今月のSDGsブランド「WACRA」
日本の高い繊維技術と職人の技を活かし、天然素材100%の『土に還る服』を開発。和紙を糸に用い、素材の持つ吸水速乾性や消臭性、抗菌性などの機能を活かしつつ、和装から着想したデザインで、性別や年齢、体型を問わず様になる仕立てに。