水辺の生き物が教えてくれる、海と川の未来
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回は、東京・池袋で水中世界の魅力を発信してきた「サンシャイン水族館」で、環境保全を学びました! 〝天空のオアシス〟をコンセプトに、多種多様な生き物の展示に加え、環境問題をテーマにした啓発イベントも多数実施。「天空のペンギン」水槽では、絶滅危惧種のケープペンギンが生き生きと泳ぐ様子を観察。水中に潜っているかのような感覚に!
(左から)スタッフの山辺英生さん、鶴橋 梓さん、芦刈治将さんにお話をうかがいました!
人間や社会の選択が、巡り巡って野生生物の危機に
世界の海や川ではどんな問題が起きているのか? 生き物が置かれている現状を知るべく、サンシャイン水族館にやってきました! こちらでは、毎年春の「世界ペンギンの日」「世界カワウソの日」に合わせて、絶滅が危惧されている現状に目を向けるきっかけとなるイベントを開催。売り上げを保護団体に寄付することで、保全や現地調査、研究をサポートしています。
まず驚いたのが、翼を広げて飛ぶように水の中を移動するケープペンギンの姿です。南アフリカに生息するケープペンギンは、過去30年間で73%減少したとも言われる絶滅危惧種。ペンギンたちの命を脅かしている原因のひとつが、石油タンカーの座礁事故や清掃時の違法な投棄による油の流出です。ペンギンを含む海鳥が体を汚染され、油を飲んで死んでしまう痛ましい事態に…。大量の燃料が必要になっている現代社会がもたらした現象とも言えますよね。また、魚の乱獲や気候変動によってペンギンの餌場に魚が減少したことでの餓死や、漁業で使用されるロープや網などが海に捨てられることで、海洋生物が引っかかり死んでしまう「ゴーストフィッシング」の問題も見逃せません。
そして、水族館の人気者・コツメカワウソにも知られざる危機があります。生息する東南アジアの森林、湿地、水辺では年々数が減少。一因として日本でペットとしての飼育が増え、ブームによって密猟や密輸などが横行したことも影響しているとか。結果的に2019年にはワシントン条約によって国際間の取引が禁止になり、現在は国内でも、ペットとして新規に譲り渡すことや販売は、原則としてできません。
実際にコツメカワウソを育てるとなると、経験豊富な飼育員さんでもとても難しいそうです。野生下では、様々な生息地域による違いもある可能性があり、未だ生態が解明されていない部分が多いとか。また、俊敏で、硬い貝やカニをも砕く鋭い歯をもち、噛みついたら離さない凶暴な一面も。一生懸命エサを食べたり、仲間と寄り添って眠る様子は本当に愛らしくて癒やされますが、生き物に対して「かわいい!」だけでなく、そこから一歩踏み込んで、生態や生息環境を知ろうとすることが、種を守る意識につながっていくと感じました。
現在は、世界に生息する13種のカワウソ(ラッコを含む)のうち7種が絶滅危惧種ですが、日本でも昭和初期ぐらいまでは全国にカワウソが生息していたことを、初めて知りました。こんなにも自分たちの身近にあった〝絶滅〟。毛皮をとるための乱獲や水質汚染によって絶えてしまったニホンカワウソの存在と教訓も、忘れずにいたいなと思います。
■アフリカ大陸に唯一生息するペンギン
ケープペンギンは、暖かい地域の海辺や岩場で暮らす。
■希少なコツメカワウソ
野生下では群れで暮らすコツメカワウソ。急流に潜る活発な姿も見ることができる。
海水温上昇でサンゴの白化が進行。観光、防波、医療にも影響
海の生態系において大事な役割を担っているサンゴ。生き物の隠れ家や産卵の場であり、また、サンゴ自体が出す粘液がエサになり、そこに集まった魚を捕食する生物もいます。恩恵を受けているのは、自然界だけでなく私たち人間も。漁業や観光業の資源、防波作用のほか、昨今は医療分野でも応用されています。サンゴ礁に集まる生き物から抗がん作用や鎮痛作用のある物質が発見されているんですね。
近年は海水温上昇からサンゴの白化が進み、私も昨年訪れた沖縄で、死滅したサンゴが流れ着いてできた真っ白な島を見て衝撃を受けました。分布域は南から北に広がるも、北の海流はCO2増加による酸性化もリスクに。今後は化学物質やマイクロプラスチックによる成長や繁殖の妨げが懸念されています。沖縄・恩納村と取り組むサンゴ保全プロジェクトでは、海の原風景を未来に残すべく、恩納村からお借りしたサンゴをサンシャイン水族館で育てて殖やしてから現地の海中に移植。サンゴを安定した水槽環境で維持・育成することによって、万一、自然災害などで恩納村のサンゴが絶滅したときにその遺伝子を保管する役割も担っているそうです。
ちなみに、サンゴはイソギンチャクやクラゲと同じ刺胞動物。その多くが年に1回、初夏の夜に一斉に産卵するそうです。しかも種によって時間差で! とても神秘的で、一見、非日常の世界ですが、海の全生物のうち4分の1の種類がサンゴ礁の周りで暮らしているとも言われます。「旅先で保護活動に力を注ぐホテルやツアーを利用してみる、リーフセーフ処方の日焼け止めを使う」といった選択が、都市部で暮らす私たちにも実践できる環境改善の一歩になると思います。
バックヤードではサンゴの赤ちゃんを飼育。水槽には藻を食べる魚を入れてお掃除係に!
透き通った南国の青い海をイメージしたサンシャインラグーン。小さな魚がサンゴに集う。
ミズクラゲは海水温の上昇で成長。今夏は全国的に大量発生して漁業にダメージも。
魚と微生物が、農業で活躍
技術として注目したのが、魚類などの養殖を行いながら野菜を水耕栽培する「アクアポニックス」の展示。魚の排泄物やエラ呼吸から発生する有毒なアンモニアを、微生物が硝酸に分解。それを野菜が栄養として吸収し、浄化された水が再び魚の水槽へ戻る…という自然の摂理を利用した循環型の農法です。バランスが整えば水替えはほぼ不要。化学肥料や農薬に頼らず屋内で生産でき、連携する青梅市の農家さんでは育てた野菜の販売も実現。持続可能な農業に期待大です!
小松菜やレタスなど、水中で根をはれる葉物を栽培してカメのエサに活用。育った魚は大きな展示水槽でデビュー♪
不変ではない自然界のバランス。何かを守るためには、まず知ること
海と淡水の生き物の生態に触れ、自然界って、多様性で絶妙なバランスが成り立っているんだと改めて感動! 反面、人間の生活が介在することでバランスをくずしてしまう。ぐるりと回って陸の自分に返ってくると知ると自ずと行動が変わりますね。
目指せ「SDGs」! トラちゃんの今月の一歩
■幼い頃の服をいつか自分の子供に
先日実家で母と片付けをしていたら、私の小さい頃の服を発見! 多くは人に譲ってしまったらしいのですが、いつか自分の子供に着せたいなと思いました。時代を超えて着られるよう、大事に保管していきたい!
■今月の1冊は…『教養としての建築入門 見方、作り方、活かし方』
観賞・設計・社会の視点から建築をひもとく1冊。いつの時代も、その土地の風土に合うものが作られている建物。様々な建築を知ると、エネルギー効率のよい暮らしが見える気がしました。
今月のSDGsブランド「aid to」
河川・海洋ごみ問題解決に取り組む、NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムから誕生したアクセサリーブランド。「海洋プラスチック」を使ったキーホルダーやアクセサリーはデザイン性豊かな一点もので、売り上げは清掃活動などに還元。