南部鉄器を「今のものとして、いいよね」という意識に変えていくために。岩手発・30代の職人が挑戦する「日常になじむ鉄器」へのこだわり

花王が特別協賛する「ネクストとうほくアクション」という、東北のみなさんとともに未来を考え、未来につながる活動を支援していく取り組みをご存知ですか?今回はその一環で、現地に縁が深い大学生のみなさんとともに、CanCamがピックアップした東北の素敵な企業を紹介するプチ連載をお届けします。
初回はCanCam専属モデルの佐々木莉佳子とともに、莉佳子の地元・宮城県気仙沼市の「気仙沼ニッティング」を訪れましたが、第2回は少し北上して、岩手県へ! 誰もが知る伝統工芸「南部鉄器」をつくる、タヤマスタジオさんにお邪魔しました。

工房には、制作途中の鉄製品や、普段なかなか見かけることのない道具の数々が所狭しと並びます。

 

伝統工芸の職人さんといえば、「この道50年以上のプロ」というイメージがある方も多いのではないでしょうか。しかし、タヤマスタジオの代表、・田山貴紘さんは、震災後にUターンし、南部鉄器の職人の道を志した30代。さらに20代の若い職人を何人も採用し、若手職人を育てるプロジェクトにもチャレンジしています。

●今回お話をうかがったのは…

タヤマスタジオ 代表 田山貴紘さん
岩手県滝沢市出身。東京での営業職を経て、2013年にタヤマスタジオを設立し、南部鉄器職人の道へ。2017年、南部鉄器のブランド“kanakeno”をスタート。持続可能な若手職人育成の仕組み「あかいりんごプロジェクト」など、新たな取り組みにチャレンジする。2023年、盛岡駅すぐの盛岡市中央公園内に、工房と雑貨店を併設した施設をオープン予定。

その工房に一緒に訪れたのは、岩手県・富士大学に通う齋藤ななせさんと、芦埜未彩(あしの みさき)さん。

富士大学3年 齋藤ななせさん
山形県尾花沢市出身。富士大学の大学案内パンフレット(2023年版)の表紙を務める。地域の魅力を広めるため、公務員を志望。花王がネクストとうほくアクションの一環で開催した講座に参加。

富士大学1年 芦埜未彩さん
山形県河北町出身。親の影響で、子どもの頃から地域・地元にまつわる活動に興味津々。花王がネクストとうほくアクションの一環で開催した講座に参加。

▼震災を機にUターン。田山さんが南部鉄器職人の道を選んだ理由

田山さん 「南部鉄器」にはどんなイメージがありましたか?

芦埜さん 私の実家には南部鉄器のきゅうすがあって、「おばあちゃんがお茶を注いでくれるときに使っているもの」というイメージでした。

齋藤さん 「南部鉄器」といえば伝統工芸のイメージが強かったんですが、公式サイトを見ても、今の生活でもおしゃれに使えるデザインがたくさんあって、特に「あかいりんご」が本当にかわいくて! いいな、と思いました。

田山さん おっしゃる通り、うちでは「毎日の生活の中で使えるもの」を作りたい、と思っています。こう言うとちょっと語弊があるかもしれませんが、僕の想いとしては、実は「伝統」という言葉があまり好きではないんです(笑)

芦埜さん えっ、どうしてですか?

田山さん 「伝統」という言葉がつくと、それは「昔はこんなものがあったよね」という「過去の遺産」のような印象があるな、と思っていて。そうではなく、今に生きる「資産」としてとらえていきたいんです。南部鉄器を今の文化や生活に自然に組み込んで、「今あるものとして、いいよね」という意識に変えていきたい。そういう想いがあるからこそ、うちで作っているものはデザインもミニマルでシンプル。色も、従来の南部鉄器にはあまりない赤みをもった色などを使うなど、チャレンジをしています。

タヤマスタジオが手がけるブランド“kanakeno”の代表作のひとつ「あかいりんご」。なんと現在は8か月待ち。

 

齋藤さん 本当に幅広い世代の方が使えるデザインで素敵だな、と思います。

芦埜さん なんとなく「黒でゴツゴツしたデザイン」というイメージがありましたが、まったく違うよさのデザインのものもあって、使ってみたいです!

齋藤さん 田山さんが南部鉄器の職人になろうと思ったきっかけはなんですか?

田山さん 父は15歳の頃から、盛岡市内の南部鉄器の工房で働く勤め職人でした。僕自身は大学進学を機に上京して、そのまま東京で就職していました。父が定年退職して「自分の好きなものを作りたい」と工房を作ったのは知っていましたが、実は最初は南部鉄器の職人の道を継ごうという想いは、正直まったくなかったんです(笑)。ずっと「自分にしかできないことができたら楽しいだろうな」と思いつつ、営業の仕事をしていました。そのタイミングで震災があり、東北や地元が大変なことになっているのはもちろんわかっていたけれど、東京での生活があったから、あまり地元に戻ってこれない。その現実と、地元に何かしたい気持ちの葛藤がありながら日々が過ぎていく。…自分が思っていたことのすべての交差点が「南部鉄器の職人になる」という、伝統工芸の道でした。

田山さん あれは、2012年くらいのことですね。父親と一緒にお酒を飲んだときに「帰ろうと思っている」と言ったら「いいんじゃない」と一言。父が嬉しいのか嬉しくなかったのかはわからないんですが(笑)、きっと半分は嬉しくて、半分は大変な道だよ、と思っていたのではないでしょうか。

芦埜さん どうしてですか?

田山さん ビジネス的な話をすると、伝統工芸はこの40年の間で、売り上げや市場規模が8割減になっている、斜陽産業です。自分の技術がつながっていく嬉しさもあるとは思いますが、若者ひとりが人生をそこに賭けて、食べていくことの大変さを感じていたんだと思います。

齋藤さん でも、そこから何か月分もの予約が埋まっているブランドを作り上げた、って本当にすごいですよね。

田山さん 南部鉄器をひとつ作るのには数日かかるので、需要と供給のバランスで言うと供給が少ないこともあると思います(笑)。ただ、広い世代に届いているのは感じますね。若い年齢層の方だけに向けて作っているわけではないのですが、お客さんには若い人も多いですし、娘が通っている保育園のお母さんたちの間にもクチコミで広がっています。一方で、仕事を引退された世代の近所のご夫婦が「あかいりんご」をほうじ茶を淹れるのに使ってくださっていたり…。最近では伝統工芸をPRする新規事業を立ち上げる企業さんの話も聞きますし、今改めて注目されているのかもしれません。

左:「みぞれあられ」、右「さくらふぶき」。「さくらふぶき」は、陸前高田市で津波の到達地点に桜の植樹を行うNPOと共同で生み出した、「桜、そして生命のはかなさ」を表現したもの。

▼新卒の若手職人を採用。南部鉄器の可能性を広げたい

齋藤さん 田山さんは若手職人の育成を積極的に行っているそうですが、力を入れている理由はありますか?

田山さん 伝統工芸という斜陽業界で、400年くらい継承されてきた南部鉄器の技術がこのままだと伝わらなくなってしまう可能性もある。その課題をどうしたら解決できるかと考えた結果、若手職人の育成に力を注いでいます。「あかいりんご」は、高校を卒業して入社してくれて5年め、23歳の職人が基本的には作っています。他にも、そこにいる彼、宮田康矢さんは、積極的に募集をかけていたわけではない時期に問い合わせをくれて、入ってくれました。

齋藤さん どうして職人になろうと思ったんですか?

宮田さん 単純に、何かを作ることや伝統的なものが昔から好きだったんです、東京の大学に進学したものの、やっぱり岩手に戻ってきたいと考えたときに、オフィスワークに自分は向いていないだろうし、手仕事の伝統産業に携わりたい、という結論になり、職人の道に進むことを決めました。

取材の傍ら、すぐ近くで丁寧に真摯に鉄器に向き合い、作品を作り上げていく宮田さん。

 

田山さん 彼の面接はZoomで行ったんですが、畳の部屋で作務衣を着ていたのが印象的でしたね。伝統の価値を今の時代に再発見する価値観を持ってくれているのでは、と思って採用を決めました。さらにもうひとり、今年の4月に新卒の女性が入社しました。今は工房外で研修中ですが、来年からは職人として働きます。今、南部鉄器の業界は、1500度くらいの鉄を扱うことや、10kgくらいのものを平気で持たなければいけない力仕事など、いろいろな理由があってかなり男性社会です。でも、だからこそ新鮮な女性の感性はどんどん入ってきてほしいし、そうすることでさらに可能性が広がるはず。今、盛岡駅徒歩5分ほどの場所に、工房と雑貨店が併設された建物を新設しているところなので、彼女が入ってくれることで、さらに僕たちのやりたいことが実現できるのではないかと思っています。

齋藤さん 職人さんにあまり女性のイメージがなかったのですが、女性ならではの視点を生かしてものづくりができるって素敵ですね。

芦埜さん お父さんと何かものづくりについてお話しすることはあるんですか?

田山さん 父がものづくりしているところを、僕が覗きながら気になったことを聞きながら会話することはあります。最初は父親に黙って会社を作ったので怒られましたが(笑)、僕がいろいろやっていることを新聞で見て理解したそうです。新しい取り組みと、伝統を繋ぐことの両軸を意識してやっていますね。この業界は「50・60はなたれ小僧」と言われるくらい、職人さんたちは果てしないものづくりを続けている方ばかり。40歳にもならない僕は本当にまだまだで、やっていることもかなり異端です。父親は15歳でこの業界に入り60年近く職人をやっていますが、僕はまだ10年も経っていません。まだ何もわかっていないことだらけで、父親と僕が見ている世界はまったく別のもの。僕には見えていないものがたくさんあります。「自分は、わかっていない」ことを自覚しながら、真摯にものづくりに向き合っています。

齋藤さん ちなみに…あのホワイトボードの上に貼ってあるものはなんですか?

「創作とは個性の解放」「腕を磨くとは自分を磨くことが大切」「仕事場は個性と才能が開花する場所」など、名言が並びます。

 

田山さん あれは父親が書いていつのまにか貼っていたもので、無言のプレッシャーです(笑)。人は価値観に基づいたことや思ったことしか行動しないから、職人としてどういう技術を持っているかよりも、「何を考えているか」「どんな姿勢で臨むか」が大事、という指導でしょうね。父はいわゆる丁稚奉公の最後の世代で、師匠と寝食をともにしていた。生活を一緒にして、師匠の細かい行動を見ることで何かを学んでいたんだな、と思います。本当に、見えない場所に性格が出るんですよね。だから「そこまでやらなくたっていいだろう」というところまで手を掛けるし、一見すると本当にやらなくてもわからないんだろうけれど、そういうところにこそ、何かがあるんです。

田山さん もし、細かいところにこだわらなかったものを世に出して、お客さん自身は機能として問題ないと思っていても、その姿勢が次のものづくりの姿勢として出るはずです。こだわるべきところにこだわって向き合う姿勢がないと、次のものがつくれない。今はなにごとも効率がよければいいとされる社会ですが、こういった伝統工芸は、それだけじゃないところに価値がある。「そんなのはどうでもいいよ」と思うのか、「そうなのか」と腹落ちできるのかで、きっと職人としての道は変わってくるでしょうね。

齋藤さん 性格がつくったものに出る、見えないところにもちゃんとしたほうがいい…って、ものづくりではないんですが、私の飲食店のアルバイトでも通じるところがあるな、と思いました。

芦埜さん 私もアルバイト先のスーパーの店長に「自分がしてもらって嬉しいことを、お客さんに対してちゃんとやるんだよ」と言われたことを、誰も見てないだろうな、と思ってもやってみたり、他のバイトさんはしてなくても自分はきちっと守っていたりしています。そういう行動が、何かを変えていくんですかね?

田山さん そう。きっとその姿勢ひとつで、何か変わってくることがあると思いますよ。

 

▼南部鉄器、そして東北の未来

齋藤さん これから、こんな仕事をしていきたい…と思っていることはありますか?

田山さん やっぱり最初の話に通じますが、簡単に言うと「南部鉄器を、もっと身近で、もっと生活の中にあるもの」にしていきたいです。もうひとつは、鉄瓶が教えてくれた「一見ネガティブに感じることまで認める世界にしたい」ということです。「あかいりんご」などは「kanakeno」というブランドで出しているんですが、この「かなけ」って、「金気」って書くんです。「塩気」の金属版みたいなイメージですね。鉄瓶は鉄でできているので、少なからず「サビ」がつきものですし、多少のサビくらいは問題なく使えます。でも、「サビがイヤだ」と、サビないように内側をステンレスにしてしまうと「鉄分が取れる」「鉄によってお湯がまろやかになる」といういいところまで同時に削ぎ落としてしまいます。人でもそれって一緒ですよね。誰にでも長所と短所があるけれど、短所をなくすと長所までなくなってしまうことがある。ネガティブなものをそぎ落として効率化してしまうのではなく、ネガティブなことも認めてあげるのって、大事だよね。と。

田山さん 2023年にまもなく新設する工房では、そんなkanakenoのコンセプトに合わせたものを集めて、雑貨店を始める予定です。南部鉄器以外にも、カトラリーや、同じく岩手の伝統工芸であるホームスパンの服、鉄瓶の隣に置きたくなる、作家さんの遊び心あるカップ。僕たちが美しいと思う「日本的な美しさ」って世界では独特なんですよね。…そんな美しさや哲学を広めていけたら…と思うんですが、結局僕のやりたいことは、一言にまとまるんです。

芦埜さん なんですか?

田山さん 「楽しいことがしたい!」に尽きるんですよ(笑)。僕は小さい頃からずっと「かっこよさ」を求めているんですが、「かっこいい」の基準って変わっていくじゃないですか。子どもの頃は「勉強ができる」「足が速い」だったけれど、今は「楽しんでいる人がかっこいい」。それで多少でも、自分にしかできない何かができたら、さらにかっこいい。

齋藤さん 素敵!

田山さん 東北の多様性を発信していく活動もしていけたらいいですね。今の若い人たちって、なかなか希望を持ちにくくて大変だろうな、と思って見ています。希望がある世界じゃないと、しんどいじゃないですか。そんな中で、東北地方って、実は850万人の人口がいるんです。東京に比べたらだいぶ少ないと思われるかもしれないけど、スウェーデンの人口はだいたい1000万人です。そんな国レベルの人口がいて、かつ多様性が駆逐されずに残っているのが東北地方です。最近話題の「SDGs」でも、「誰一人取り残さない」多様性という基本理念が価値のひとつとして掲げられています。そう思うと、東北の価値をちゃんと見つめて発信していくことって、もしかするとものすごく大事なのかもしれないな、と思います。おふたりとも山形県の出身ということで、いざ県外に出てみると、地元の良さって見えてくるじゃないですか?

齋藤さん・芦埜さん わかります!

田山さん 中にいると「イヤだなぁ」と思っていたことが、外から違った目線で見ると「いいな」と思えることがある。

齋藤さん そう、東北ってまだまだ知られてない魅力がたくさんありますよね。住みやすいし、私の出身の山形・尾花沢のスイカは本当に美味しい! 今大学3年生なのでそろそろ就活が始まるんですが、私は公務員を目指していて、市役所で働いて、その市の魅力を全国に発信できたらいいな、と思っています。

芦埜さん 私も父が地域の事業やイベントを立ち上げていた影響もあって、小学生の頃から地元や地域のことに興味があって。でも、同級生に「将来、地元に住みたいか、都会に住みたいか」と聞いたら、地元を出て仙台や東京に行きたい人が多かったのがショックで…。齋藤さんも言うように、地元に住んでいても魅力に気付けていない人が多くいるので、いろんな魅力があることをみんなに知ってもらえるようなことをしていきたいです。

田山さん いや、おふたりともすごいです。その年で「地元が大好き!」とはっきり言えてちゃんと話せる。僕の大学時代は、大人への反発の日記を書いているような学生でしたよ(笑)。

齋藤さん それでも今、勇気を持ってさまざまなことを行動に移しているのって、やっぱりかっこいいなと思います。

田山さん うちの会社の価値観として「強く、そして優しく」というものがあるんです。理想はマザー・テレサですね。自分自身のことができていないと、誰かに「施す」ってなかなかできないし、施せる人は強いな、と思っていて。僕たちが作っている南部鉄器もそう。自分たちがまず生み出すのも強さ。そうすると、誰かに何かができて感謝してもらえて。でも、本当に自分はまだまだで、「すごいな」という人がたくさんいます。そしてすごい人はだいたい、分け隔てなく優しくて、それは強さなんです。そういうかっこいい人を見ていれば自分も何かやらなきゃと思うし、そう思っていれば「すごい人」にいつか近づけるはずと思っています。…でもやっぱり、最後は単純なんですよ。「かっこいいことがしたい」「楽しいことがしたい」と、小学生くらい単純なこと。南部鉄器づくりだって、僕らは「精密な砂遊び」と呼んでいるくらいです(笑)。

 


たくさんのお話、ありがとうございました!

お部屋にひとつあるだけで、生活空間にすっと溶け込みながらグッと暮らしの質を上げてくれて「丁寧な生活をしよう、自分を大切にしよう」と思わせてくれるような南部鉄器の数々。南部鉄器に魅せられたメンバーたちが、日々丁寧に創造し、世界中に届けています。
気になる方はぜひ、オンラインストアなどをチェックしてみてくださいね。

 

kanakeno 公式サイト

What’s「ネクストとうほくアクション」?

花王が支援する取り組みで、東北の3つの新聞社である岩手日報、河北新報、福島民報が手を取り合って、東北の皆さんとともに未来を考え、未来につながる活動を推進していく取り組み。現地の高校生・大学生とともに行うプロジェクトや東北に花を咲かせるプロジェクトなど、さまざまな取り組みを行っています。
公式サイト https://smile-tohoku.jp/

協力/花王グループカスタマーマーケティング株式会社

撮影/安川結子 構成/後藤香織