OK Goの最新大ヒットMV『I Won’t Let You Down』の振付や、世界の広告賞を総ナメにしたユニクロのウェブCM「UNIQLOCK」の振付を担当するなど、今もっとも注目の振付ユニット・振付稼業air:manのロングインタビュー3本目! 振付業界に乗り込んだ彼らが、具体的にどんなことをして実績を上げていったのかに迫ります。
インタビュー1本目→ OK Goの最新MVを担当!教科書も出版!?今もっとも熱い振付ユニット、振付稼業air:manインタビュー(1)
インタビュー2本目→ 振付業界の曖昧さに挑戦し続けて10年!振付稼業air:manインタビュー(2)
Woman Insight編集部(以下、WI) 1年限定と決めて振付稼業air:manを立ち上げてみて、これは難しいかなと思ったことはありましたか?
振付稼業air:man・杉谷一隆さん(以下、杉谷) そうですね、いろんなメンバーが集まったときに「(自分が)踊りたいのか、踊らせたいのか」というのが必ず出てくるんですね。それが振付という職業をボヤッとしてしまう理由のひとつなんですけど、振付すなわち、踊らせる側に特化しようとすると「やっぱり、踊るほうに回るわ」という人が出てくる。自分が表現したい人っていうのは、振付稼業のシステムに合わない面もあるので、トータルで人はどんどん増えているものの、振付稼業air:man、と限定するのは難しいのかなと思ったことは何回もあります。
WI 振付もするけどダンサー集団でもある、みたいな形じゃないと難しいんじゃないかっていうことですね。
杉谷 そうです。あとは、複数名でひとつの仕事を手掛けるので、最初の段階で「値段は(既定のギャラ)×人数分ですか?」と聞かれることが本当に多かったです。そういう形でやっている人はほとんどいなかったので、この質問は、ここ最近……2009年くらいまでずっとされ続けていました。だからうんざりするほど、「いや、業界初のユニットのシステムでやらせていただいているので、ギャラは1人分です」「でも仕事の出来としては人数分あります、いや、乗数倍あります!」という説明をして、「動くものなんでも振り付けます」を合言葉に、ずっと自分たちのシステムを理解してもらうためのプレゼンをし続けていました。「複数名いるのは理由があって、こういった利点がありますよ」というのを現場でもプレゼンしながらやっていましたね。
WI どういった利点をプレゼンしたんですか?
杉谷 一般的な形だと、振付師とアシスタントがいて、振付師は動かずに指示だけすることが多く、でもアシスタントが細かなニュアンスを再現できないというコミュニケーション不足によって、現場でアタフタする場面が多々あります。それを「ほら、(やっぱり、自分じゃないと)できないよな!」って言って、振付師が入ってくるみたいな……。で、結局、アシスタントに聞いても進まないから先生に。みたいな、アシスタント軽視の図式になってしまったり。
そういうのってどこの業界でも一緒の部分があるとは思いますが、特に振付師は振付することを「個」のアーティストとして捉えられたりすると、そういうのが逆に美徳になったり、美学になったりする瞬間があったりして。実をいうと、そういうところが業界の一番嫌いなところです。時間も無駄ですし。
自分たちはそういうのがないように、監督の横にいる人が1人、タレントさんの横に1人、間を行き来する人が1人、と必ず3人で向かうようにしています。1人しかいないと、監督の意見を聞いて、それをタレントさんに伝えに行って、戻ってモニターをチェックして、また何かあったら伝えに行って……って、その時間がすごく無駄なんです。3人いれば、阿吽の呼吸でいけることもあるし、そうでなくても1人がいつでも行き来できるようにしておけば、トライアングルで動けてすごくスムーズに早く進行できるなと。
利点といっても、現場で「こういうやり方でやります!」ってわざわざ説明するわけではないですが、見ていて理解してくださる方が多いです。役割の明確さ、そして複数名の意見がブレていない。それは3人がきちんとコミュニケーションが取れている証拠で、「なんで若い子なのにこんなにちゃんと仕事できるの」と言っていただけたり「仕事の仕方が面白かったよ」とちょこちょこお仕事いただけるようになったりして、その積み重ねですね。
あとは細かいことなんですけど、監督さんがやってほしいことと、タレントさんがやりたくないことがバッティングするときがあります。例えば女性のタレントさんが「スカートが短いから足がパカッてなる動きはイヤ」となったときに、直接「やる」「やらない」とぶつかるんじゃなくて、タレントさんについている女性の菊口がこっち(監督側)に来て「こうした動きのほうが脚がきれいに見えますよね」ってプレゼンして着地することもあります。
WI 間に入ることで、誰も嫌な気持ちにならずに納得する形で着地しやすいんですね。
杉谷 そうです。「早い」というだけじゃなくて、「このパターンか、あるいは代案としてこのパターンとこのパターンもあります」っていうミニマムな用意じゃなくて、とにかく1つの振付に対して10個くらいのパターンを準備して、すべてビデオに撮って、すぐに切り替えられるようにしています。
監督が「ちょっと(動きが)慌ただしいかな」と言ったら、「じゃあ、情報量の少ないパターンでいこう」っていうのをすべて想定しておくようにしています。それは最初期からずっと同じようにやっていますね。でもオンエアで流れるのは1パターンだけなので、あとの9個はお蔵入りという……(笑)。そういう方法論には、複数名いることでより利点が出てきます。世代の異なる複数がいればいるほど、話し合うといろいろな価値観が生まれますよね。
例えば“かわいい”っていうキーワードだったら、「今回の先方が求める“かわいい”はきっと、10代のあなたが言う意見が近い気がするね」って幅のあるミーティングができるので、すごくうちら的には、ユニットというのは今も現在進行形で合理的というか、すごくわかりやすくて仕事が明確にできるシステムだなと思っています。特に日本の振付業界では必要な事だと思っています。
WI この振付のユニットという形は、複数名いること自体が重要というより、複数名いることによって、クライアントに幅広い選択肢を提示することができたり、現場での明確な役割分担ができるっていうことが、今までになかったことなんですね。
杉谷 そうですね。普通はどんな仕事でもそういった側面はあるかもしれないのですが、振付業界の曖昧さというか、クリエイティブよりもアーティスティックで逃げ切れるジャンルでもあるんですよね。だから言葉を変えると、「表現する」ではなく「表現させる」、「踊る」ではなく「踊らせる」、を価値観の主眼におくと、相手に「こういう踊りを踊らせたいです、なぜならば……」ってプレゼンせざるをえないわけです。自分達を追い込むというか、ちゃんと責任を待つための立ち位置をはっきりさせることに繋がります。
あと、「複数名のユニットです」というと「曲のこの部分は誰が振り付けたんですか?」っていうのもよく質問されます。これも「どの部分が誰の担当」っていうのではなくて、みんなで話し合いをしてふくらませて、複数パターンを用意しているので、「すべて全員で作った結果です」って答え続けました。「ギャラは1人分」と「全員でディスカッションで作ってます」を言い続けて、早10年です! やっと先が見えてきた感じです。
変えることが難しい業界慣習に真っ向から向き合い、長時間かけて仕事ぶりで説得してきた振付稼業air:man。単に自分たちの名を売るだけなら、もっと楽な方法もあったはず。でも振付という職業をシステムとして確立したいという想いで地道に実績を積み重ねてきたのがわかります。次回のインタビューでは、本を出版するにいたった経緯を聞いていきます!(安念美和子)
インタビュー1本目→ OK Goの最新MVを担当!教科書も出版!?今もっとも熱い振付ユニット、振付稼業air:manインタビュー(1)
インタビュー2本目→ 振付業界の曖昧さに挑戦し続けて10年!振付稼業air:manインタビュー(2)
『振付稼業air:manの踊る教科書』(¥2,160/東京書籍刊)
http://www.amazon.co.jp/dp/448780796
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