小さい頃、ノートの端に好きなマンガのキャラクターをまねて描いたり、どこに出すでもない自作のマンガを描いた経験、皆様にもあるのではないでしょうか。実はそれこそが、マンガが文化として大きく発展した理由だって、知っていましたか?
主役はこのおふたり、竹宮惠子さんと内田 樹さんです
マンガのすごさを思い知る入門書『竹と樹のマンガ文化論』。前回の記事では日本マンガ発展の舞台裏からマンガのすごさを紹介しましたが、今回はマンガ発展の要である「オープンソース」についてご紹介します。
★前回の記事はコチラ→ 竹宮惠子×内田樹が語る!マンガ発展の背景には戦争の○○があった!
最近、ビジネス用語としてもよく耳にするようになった「オープンソース」。この言葉、元々はコンピューター用語。「いろいろなレシピを無料で誰でも使えるように共有すること」を指します。たとえば、マンガを描くときに新しい表現を誰かが発明したら、その技術をみんなが真似をする、というのは、マンガ家の間では日常茶飯事。自分で試して、そこに自分なりの何かを付け加えて、バージョンアップしていく。そうすることによって、マンガの技術は発展してきたというわけです。
対談中も、とっても盛り上がられたそうです
内田 〜。創造的な文化活動って、ほとんどが共同作業を通して達成されるものなんです。天才的なひとりの人間が出現して牽引してゆくというものじゃない。もちろん天才は必要なんですよ。でも、その天才が出現して何かまったく新しいことを始めたときに、わあっと周りの人たちが寄ってたかって、その発明を好き勝手にいじくり回した時に、素晴らしい作品が次々と誕生する。天才が感染するんです。ひとりの天才が切り拓いた道をみんながどんどん後からついて歩くようになれば、そのジャンルは必ず豊かなものになる。
技術に限らず、世界規模でのネット上での翻訳や海賊版についても触れ、すべてにおいてオープンソースであることが、本質的にはマンガ文化を発展させる、とふたりは結論づけています。人って成功すると、「これはオレのもの!」みたいに権利を主張しがちですが、それでは文化は育たない、ということ。これについて、内田さんはまた、音楽と比較してわかりやすく説明しています。
本書でも登場する、ロシア語版の『地球(テラ)へ…』
内田 アメリカの五十年代のロックンロールもそうだったんですよ。コード進行も、歌詞も、歌唱法も、ファッションも、髪型も、ステージパフォーマンスも、みんな誰かが「カッコいい」ことをするとたちまち真似をした。そして、ほとんど同じ曲を「オレの曲だ」と言って平気でレコードにした。でも、そのせいでエルヴィス・プレスリーがデビューしてから入隊するまでのわずか二年でロックンロールという永遠の音楽ジャンルが完成しちゃったんですから。オープンソースがジャンルの成長にどれくらい資するものかはロックンロールと日本マンガを見ればわかります。
文化やあるジャンルの発展にとって、「オープンソース」であることは必要不可欠。これって文化規模だけの話じゃなくて、「私が苦労して作ったタスクリスト、ひとりで使うよりみんなと共有したほうが職場全体の効率が上がるよね」的な発想にも転換できますよね……って、あまりに浅い転換ですが、まあそのくらい、オープンソースな発想って、私たちの日常をちょっとずつ変えてくれるものかもしれません。
さあ、次回はちょっと趣向を変えて、竹宮惠子さんが『風と木の詩』を描いたマル秘エピソードについて迫ります!(五十嵐ミワ)
★前回の記事はコチラ→ 竹宮惠子×内田樹が語る!マンガ発展の背景には戦争の○○があった!
『竹と樹のマンガ文化論』
竹宮惠子・内田 樹/著(小学館/740円+税)
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