寒い夜に非常に恋しくなるこんにゃく、卵、牛スジに大根……。ハフハフしながらほうばりたい冬の風物詩おでん。これだけ親しまれた料理ながらいまだにその歴史に謎をもつ冬の庶民料理の王様の歴史を、『和樂』3月号に教わりながら紐解いていきましょう。
■おでんのルーツはどこにあるのか?
文献を調べると、江戸時代後期の風俗や事柄を解説した「守貞謾稿」(もりさだまんこう)に、熱燗とおでんを出す記述があります。ここでいう“おでん”とは、竹串に刺して焼いた豆腐に味噌をつけて食べる田楽(でんがく)のこと。
豆腐以外にもナスやこんにゃく、里芋などがあり、庶民が気軽に食べられるファストフードでした。宮中の女官がこの田楽のことを「おでん」(おでんがくの略)と呼び、それが町娘へと広まったようです。
なかでも人気だったのが、こんにゃく。庶民の間で長寿や健康への関心が高まったこの時代、体によい食材の代表格としてこんにゃくも全国へ普及。江戸ではこんにゃくを焼かずにしょうゆで煮込むようになり、具材も増えて今のようなおでんへと変化します。
その発祥や過程には諸説ありますが、江戸後期のしょうゆ煮込みが明治期に汁気の多いものに変わり大正時代に関西へ。すでに広まっていた田楽と区別するために関西ではこれを“関東煮”(かんとだき)と呼びましたが、味付けは関西好みに仕立て替えられました。
この時点では、関東のおでんはかつおだしに濃い口しょうゆと砂糖の甘い味、関西の関東煮は昆布だしで薄口しょうゆやみりんのあっさり味と、同じ料理ですが東西で呼び名も味付けも違っていました。
ところが関東大震災後、関西の料理店や料理人が関東へ進出し“関西味の関東煮”(ややこしい!)も上京。関東に甘辛味とあっさり味のおでんが存在するのは、こういうわけなんです。
その後、かつおだしと昆布だしを合わせて甘辛く味付けしたおでんは全国へ普及。その発展系として、味噌煮込みになったり、たれが付いたり、土地の食材がおでんの種になったり……と各地に“ご当地おでん”が誕生します。静岡の“黒いおでん”も近年有名になっていますね。
おでんという料理は、土地の味と季節の味を大切にする日本の文化や、日本人の豊かな感性を知ることができますね。
なんて長い歴史に思いを馳せつつ、いつものコンビニおでんもいいけれど、たまには老舗のおでん屋さんへ足を運ん風情を楽しんでみるのもいいかもしれません。(坂田みやび)
(『和楽』2014年3月号)
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