「普通の人なんていない」『ダルちゃん』はるな檸檬さんと、『大家さんと僕』矢部太郎さんが教えてくれたこと

『ダルちゃん』はるな檸檬さん×『大家さんと僕』矢部太郎さん対談レポート


はるな檸檬×矢部太郎

 

資生堂のカルチャー・アート・音楽などの情報発信サイト「ウェブ花椿」に連載されたのち、CanCam.jpでも試し読みぺージが掲載中の『ダルちゃん』の作者・はるな檸檬さんと、住んでいたアパートの大家さんとの心温まる交流を描いた漫画『大家さんと僕』が大きな反響を呼んだお笑い芸人の矢部太郎さんが対談をおこないました!

はるなさんの既刊『れもん、よむもん!』『れもん、うむもん!』の担当編集者が矢部さんの担当でもあるという縁で実現したこの対談。お話は『ダルちゃん』で描かれる「擬態」や「普通」といったテーマについて深く掘り下げるものになりました。

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派遣社員もお笑い芸人も、みんな「擬態」している


はるな檸檬×矢部太郎

 

矢部 『大家さんと僕』を描くときに、勉強のために編集者さんから渡されて読んでいたのが『れもん、よむもん!』『れもん、うむもん!』なんです。読みながら、1行に何文字くらい書くといいのかとか、いろいろ参考にさせてもらいました。

はるな そんなそんな! お恥ずかしいです。

矢部 僕にとっては教科書なので、「はるなさんと対談してみませんか」と提案をいただいたときも、いえいえ、恐れ多いです! って感じだったんですけど。(笑)

はるな (笑)  私が矢部さんを知ったのは『電波少年』だったと思います。矢部さんの第一印象は「モテるだろうな」って感じだったんです。

 

 

矢部 モテ……僕がですか??

はるな 体育会系の男子にいかなさそうな、文系女子にモテそうだと思ったんですよ。文学青年っぽいというか。でも、テレビでいじられる姿を見ていくうちに、ああ、本当はこういう感じなのかって思うようにはなったんですけど。

矢部 (笑)

はるな でも一昨年この本を描かれて、ほらやっぱり! 文学青年じゃん!ってうれしくなったんですよ!

矢部 いえいえそんな。

はるな だから、私としてはなんでモテない感じというか、いじられキャラっぽくしているのか釈然としないところがあるんです。

矢部 モテないのは本当なんですが……、でも、もしかしたら『ダルちゃん』でいうところの「擬態」と似たことをしているのかもしれないですね。

はるな ああ、なるほど。

矢部 やっぱり僕も最初はダウンタウンさんみたいになりたいと思ってお笑いの門を叩いたんですけど、門の向こうにはものすごくいっぱい猛者たちがいて。で、やっぱりお笑いの場で何かするとなると、その場の空気を制圧できる人が一番強い。

はるな うんうん。

矢部 でも僕にそういうことはできない。それでもお笑いをやるってなったときに、「擬態」していて一番楽な形が、テレビで見ていただいているようないじられキャラっぽい姿なのかもしれません。

はるな 私としては、矢部さんのそういう姿を見ると、なんだか傷つくんです。私が感じたような、本来のすてきな部分を本で出せてよかったなと思いました。どうしても、テレビってマスに向けたものなので、人を記号的に見せるというか。

矢部 そうですね、見た目と中身が直結してないといけない。僕は見た目が弱々しいですから、それ相応の振る舞いというか。求められますね。

 

はるな檸檬×矢部太郎

 

はるな いじられキャラとか失敗して笑われるキャラとか、もちろん私も楽しんで観させていただいてますけど、それで消されていく部分もあるのかなと。それを思うと、なんだか傷ついてしまうんです。

矢部 楽だというのもあるんですよね。僕なんかは、番組の企画段階からかかわるタイプではないので、撮影当日に現場へ行って、企画を考えてくださった方の思い描いた役柄通りに一生懸命やる、というだけなので。つい……やってしまいます。(笑)

はるな ああ、確かに。私も派遣社員をやっていた頃は、役割を演じていると居場所ができるというのを本当に実感して。空き時間も多かったし、超楽! って思ってたんですけど、同時にとてもしんどい面もあって。

 

はるな檸檬×矢部太郎

 

矢部 どんなことがしんどかったんですか?

はるな 毎朝ちゃんと準備をして、同じ場所へ決まった時刻に行くことが。今は漫画家っていう、ダルダルのままいられる仕事を見つけたって感じです。