突然告げられた理不尽な異動。33歳、何が正解?【貯金1500万の女】Vol.1

 

3年ぶりの彼氏


デスコールから1週間後。人事担当との面談に、マユはあえて無表情でのぞんだ。本音を言っても理解されるとは思えないし、建前で説得力のある熱弁ができる自信はない。だから、あえて無表情作戦だ。

「私、33歳ですよ。宣伝部でキャリア積んで、所属タレントの大きな記者会見を仕切って、若手俳優が連ドラに出たときは大々的に雑誌にも取り上げてもらえるよう走り回って。人脈も自分なりに築いてきて、プライド持って、頑張ってきたつもりです。それが今になって、なんでゼロからマネージャーをしなくちゃならないんでしょうか。会社は、キャリアアップをどう考えているんでしょうか。とうてい、異動は受け入れられません」

 

話しているうちに、意識していなかったはずの「キャリアアップの道が断たれた」と理由も、自分の中で大きな比重をしめていることに気づいた。そうなると、ますます腹が立ってくる。矛盾するようだけど、マユにはキャリアを積んで偉くなりたいという願望は、まったくない。ないけれど、やってきたことの評価はちゃんと欲しい。その上で、次の道を選ぶ権利くらい欲しい、という意味だ。

さらに腹立たしいのは、人事担当の次のセリフだった。

「異動は会社の決定だから。受け入れるか、退職願を書いてもらうか、どっちかだね」

この時点で、マユは退職願を書くしかないと思った。が、人事担当が10日後にまた話し合おうと言うので、仕方なく二度目の面談の予定を入れた。これ以上、なにも話すことはないというのに。

 

「いや、待てよ。退職願を書く前に、ユタカの気持ちを確認しておかなくちゃ。うまい具合にプロポーズしてくれたら、ことは丸くおさまる。結婚の内定をとっておけば、異動して忙しくなったとしても、婚活との両立を悩まないで済む。結婚準備で忙しくなったら、堂々と辞めるまでだし」

 

ユタカは、最初に就職した会社の同期で、2か月前に同期の集まりで再会した。かつては何も思っていなかったけれど、再会した彼は新人の時よりたくましくなっていて、転職先の商社では新しいプロジェクトも任されているらしく、自信がある男っていいな、と思わせた。その場で意気投合して、LINEのやり取りが始まり、インスタをフォローし合った。

最初のデートは銀座の和食屋からバーという王道を。振る舞いもスマートで、お酒が強くて、そして話すときに顔を近づける習性があった。あまりに近づけるから、キスされるのかと思ったが、違った。その寸止め作戦に、マユのハートはすぐに射抜かれて、早く付き合いたくてたまらなくなった。ちなみに、この恋愛が成就すれば、3年ぶりの彼氏誕生となる。

が、その後ユタカの出張やなんやらが続き予定が合わず、なかなか会えないまま今に至る。

 

さて、そろそろユタカの気持ちをしっかり確認しなくてならない。マユがそのタイミングを思案しているとき、小さな胸騒ぎがした。

「ユタカが私のインスタフォローを外したのです。あれ? どうしたんだろう? 指がスベったのかな。まあいいや、来週呼び出して、私の気持ちを伝えつつ、さりげなく聞いてみようっと」

Vol.2「男にも、会社にも、裏切られっぱなしです」に続く。

 

文/南ゆかり
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。

 

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