東京オリンピックが迫る2020年の夏。平凡な女子高生・森川ココネが、ある事件を解決するために東京まで旅をすることに。それは彼女にとって思いがけず、知らない“ワタシ”を見つける旅をすることにもつながっていた──。
『東のエデン』『精霊の守り人』『攻撃機動隊S.A.C.』の神山健治監督が贈る、オリジナルアニメーション『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』は、「夢」と「現実」を行き来するロードムービー。
ヒロイン・ココネの声を担当するのは、高畑充希さん。そのココネとともに旅をする2歳年上の幼なじみ・モリオには、満島真之介がキャスティング。
以前より「声」が持つチカラに魅力を感じ、「声に向き合える仕事のチャンスをもらえたのはとても幸せ」と語る満島さん。普段は見過ごしてしまいそうな物事も、満島さんのフィルターを通すととても“特別”なことのように思えてくるほど、その発言が独特。そんな彼に、モリオのこと、そして「夢」にまつわる不思議な体験を話してもらいました。
┃満島真之介、“理系オタク”の声を演じるも学生時代は「理系とはかけ離れた人間だった」
●声優として出演するにあたり、役作りで悩むことありませんでしたか?
満島真之介さん(以下、満島) 僕は基本的に、どの現場でも新しい仕事をする時、初めての人に会う時には、素直な状態でいること、素のままの状態で入ることを心がけています。だから今回の現場も特に難しく考えて悩んだりもしなかったですね。神山監督のオリジナルの脚本で、その中で、モリオという役が生きてる。そこに僕の感情は要らないと思ったし、逆に僕が生きてきた声をモリオにプレゼントというか“預ける”イメージ。モリオに「僕の宝物を渡すからそれを背負って生きてください! あとは頼みます!」という気持ちでした。
●あるインタビューで、モリオを演じるにあたり、「モリオがどういう生き方をしてきたかを考えることが楽しかった」とおっしゃっていましたが、最終的にどういうキャラクターだというふうに考えがまとまったのでしょうか。
満島 本作では、モリオの家族は描かれてないんです。親父のことは少し出てきますが、岡山の街でどう生まれ育って、いつ頃から電子機器が好きだということに気づいたんだろう、東京ではひとり暮らしなのか、サークルは何かやっているのか、とか。すべて僕の勝手な妄想ではあるけれど、そういうことを考えるのとないのではまるで違います。言い方を変えると、モリオのバックグラウンドが描かれていないからこそ自分のイメージが試される。一見、正義感がないように見えるモリオが、ココネの言葉で瞬間的に動けたのは、親父の影響なのか、それとも東京でひとり暮らしをするなかで「強くならなきゃいけない」と思ったからなのか……とか。でも正直に言うと、答えは出ていないんです。というか、ゴールはないという言い方のほうが正しいかな。
●たしかに、現実的には起こり得ないようなことが起こるのに、モリオはすぐに受け入れて、瞬発力もあるというシーンがありましたよね。ココネとの信頼関係が築けていることもあると思うのですが、ココネにとってモリオはどういう存在だったと思いますか?
満島 “空気”……かな。モリオは東京の大学に通うため地元を離れ、しばらくココネの近くにいなかったけれど、心や記憶の中には間違いなく存在しているはず。モリオの姿を確認した瞬間に、強い風がフワァーと吹いて、「あ、モリオの風だ」って感じるような。「モリオがこういう人だから、ココネと一緒にいる」と理屈で答えられるようなことじゃなく、風のような、空気のような……「当たり前」の存在。僕らの周りにも常に空気はあるのに、普段は気にもとめないですよね。でも空気がなくなったら生きていけない……それに近い存在かな。だから恋人でもないし、だからといって家族でもない。もっと深いところでお互いに理解し合ってるというか、当たり前に存在しているものとして受け入れてる存在だなって思いました。
●逆に、モリオにとってココネはどんな存在だと感じましたか?
満島 モリオにとってはどんな存在なんだろうな……。ココネと近い感覚でもあると思います。だけど……“女の子”だったココネが“女性”になりつつあるんです。きっとそこには男女差があって、男のほうがそれを意識するっていう部分はあるかも。「あ、ココネの風だ。だけどちょっとストロベリーの香りも感じる」みたいな(笑)。これって感覚的なことなんですけど、しばらく会わないうちにココネは大きくなっていて、女ぽくなってる!?って事実に、一瞬、身体が宙に浮くような……それまでと何か違うっていうのをモリオは瞬時に感じたと思います。だけど物語が進むにつれて、お互いに感じてる根本的な部分は変わらない。だから目の前で起こっていることをすぐに受け入れられたのかもしれません。地方から上京する人なら分かると思うのですが、人って背伸びをする時期はあるし、地元に帰省する時って「大人になってる自分を見せなくちゃ」って思う時期もあります。だけど、自分が生まれ育った場所って、意識はしてなくても心と身体に強くインプットされてるんです。離れていて瞬間的に戸惑いはあっても、同じ場所で生まれ育ってきた者同士の強い絆のようなものが、ココネとモリオには存在しているような気がします。
●ところで、モリオは“理系オタク”というキャラクターですが、満島さんは学生時代に得意だった科目はありましたか?
満島 基本的に数学だけはダメ(笑)。答えをひとつに導き出すものが苦手なんです。それは今もそうで、「物事に答えは五万とある!」というタイプなので、理系とはかけ離れた人間だったかな。でも、モリオとは真逆に生きてきたからこそ、この役を「面白い」と思ったんです。真逆で生きてきたモリオに僕の声を吹き込むとことで、モリオの世界が広がると思えました。神山監督もそれが分かっていたんじゃないかなって。僕自身が出してる“空気感”みたいなものを察知してくれた気がします。
┃満島真之介「人の空気感は『声』に宿る。喉は“第二の心臓”」
●満島さんの話をうかがっていると、「声」と「空気感」は密接な関係のように感じますね。
満島 人それぞれの「空気感」って、僕は「声」に宿る気がしています。声が大きい人もいれば、小さい人、細い人、トゲトゲしい人もいる。それって実は、“心”が声として吐き出されている気がするんです。体調が悪い時に喉から痛くなるのは、喉が“第二の心臓”だと僕は思っています。これは神山監督とも話したのですが、人って自分の声と向き合う機会が極端に少ない気がするんです。だから声って実はすごく隙もある。外見って、ある程度時間をかけないと外に出られないけど、声ってすぐに変えられる。だから本当のことも話すけど、嘘を言うこともできる。だからその人の声の状態で、いまどう思っているか本心も分かると思っています。
●こうやって取材などで話している時も、「この人いまこういう状態なんだな」と思いながら話しをしていたりしますか?
満島 僕はありますよ(笑)。人の話を目つぶって聞くこともあります。それで「本当のことを言ってるな」とか「これ、嘘かな」って感じてみる。目を見て分かる時もありますけど、声は人間のすべての動きに連動してる気がします。僕は「無口」と「人見知り」は世の中に存在しないと思ってるんです。しゃべったらいろんなことがバレるからしゃべらないって人のほうが多い気がする。だって人って、自分のことをしゃべりたくないから黙ることもあるけど、自分が好きなことは伝えたい生き物だから。そういう意味でも、声には、人のすべてが詰まってると思うんです。だから声優という、声に向き合える仕事のチャンスをもらえたのはとても幸せです。
●「声」についてここまで深く考えたことがなかったのですが、言われてみると、思い当たることはたしかに多いかもしれませんね。
満島 僕は、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、普段からいろんな人とおしゃべりしているので、人の声をたくさん聞いてるほうだと思います。それに今、声の面白さをすごく感じてる最中。正確には昔からそういうところはありましたけど、声優の仕事をして、あらためて感じています。神山監督は、僕がいろんなナレーションや芝居をしているときの声だけで選んでくれたみたいなんです。だからすごく嬉しかった! 僕の声を聞いて、「この人は真っ直ぐな人なんだな」と思ったらしくて、モリオのキャラクターにはその真っ直ぐさが必要だと思っていたみたいです。声って何気ないものだけど、言葉だけじゃなく、声だけで伝わるものはあるし、それを受け取る人間の耳ってすごい機能を持ってるなって思う今日この頃です(笑)。
●ところで、ココネが見る夢が物語のカギになってきますが、満島さん自身の「夢」で覚えている印象的なものはありませんか?
満島 実は、覚えている夢がひとつもないんです。ただ不思議なのが、僕は最近、他人の夢によく出ているみたいなんです。「おまえが夢に出てきた」って、すごく連絡がくるんですよ。このごろ特に。自分では夢を見ていない……いやもしかしたら見ていても覚えていないだけかもしれないけど、去年の後半ぐらいから今年にかけて、まったく会っていない人からも、「夢に出てきた」と言われるんです。実は今日の朝も連絡が来ました。それは僕の親友なんですけど、夫婦で僕の夢を見たらしくて。今日『ひるね姫』の完成披露試写会で一般の方に初めて作品を観てもらう日だから、知らない間に「夢」とつながってたのかなって思ってます。
●満島さんの“想い”が外に飛び出しちゃっているんですね、きっと。
満島 そうかも。だから、自分でもびっくりしてるんです。「何が起きてるんだろう?」って。もしかしたら、その人に逢わなくちゃいけないタイミングなのかな、とか。いずれにしても、夢が何かを知らせている気がします。数年前から会っていない人の夢にも、最近よく出てるみたいなんですよね。これって、新たに何かが始まる知らせかもしれないですよね。僕の知らないところで、僕の物語が生まれている感じ。
●満島さんが夢に出てきたという人たちと、お会いして話してみたほうがよさそうですね。
満島 そんな気がしてます。今までもたまにあったことなんですけど、最近すごく多い! 『ひるね姫』という作品の公開が近づいていることもあると思うし、自分の放つパワーが大きくなっている現れなのかもしれないし。これをきっかけに、いろんな輪がまたさらに広がっていくような気がしてます。僕にとって、『ひるね姫』が今年最初に公開される映画で、声優として出演した作品、しかも神山監督の新たな挑戦の作品で、僕は“宝物”をいただいたと思っています。
●これを機に、これからも声の仕事に積極的に挑戦していきたいと思っていますか?
満島 今回出演して、声を使う作品をもっとたくさんやりたいなと思いました。声優という特殊な仕事だけじゃなく、実生活でも、声の使い方って大事な気がします。たとえば、営業職の人が、小さな声で話すなんてことはしないですよね。声の大きさや話し方で、印象は大きく変えられる。相手にどういうふうに声が伝わっていくのか、言葉使いじゃなく、どう話せば、人の心や耳に入っていきやすいか、信じてもらえやすくなるのか。“声のチカラ”って大きい! 今回の役を通して、僕は今まで以上にそう感じました。
(c)2017 ひるね姫製作委員会
■取材・文:さとうのりこ
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