トラウデン直美と考える、引退競走馬の未来。「さよなら」の先にある、命のバトン|SDGs連載

【最終回】トラちゃんと考える「SDGs」RETURNS!

『SDGs』をテーマに、モデル・トラウデン直美が様々な現場を訪ねてきたこの連載。今号で、一旦ラストとなります! 最終回は、引退競走馬の福祉がテーマ。馬と向き合う中で見えてきた、リアルと希望を探ります。

環境省サステナビリティ広報大使・トラウデン直美/高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。SDGs関連の発信に力を入れ、『news23』(TBS系)、『NIKKEI NEWS NEXT』(BSテレ東)など報道番組にレギュラー出演、現場取材も務める。2024年4月にCanCam専属モデルを卒業後は、ドラマ、ラジオ他幅広い分野に活躍を広げている。

引退競走馬のゴールの先に、命をつなぐ社会へ

◼︎引退した競走馬は、どこへ? ゴールのその先にある現実

子供の頃のポニーキャンプがきっかけで、私は馬と関わるようになりました。馬は、人の気持ちを映す鏡のような存在。もっと理解したくて、本格的に馬術競技に取り組み、「初級馬術指導者」の資格も取得しました。春になると、馬の世界はクラシックシーズン。若い馬たちの挑戦が始まります。彼らが華々しい夢を追う、その時間の先を、私たちはどこまで想像できているのだろう。連載の最終回は、命のバトンをつなぐ未来について、考えてみたいと思います。

◼︎今回訪れたのは…馬の健康と幸せを第一に人と共に生きる環境をつくる『乗馬倶楽部イグレット』

「幸せな人間が幸せな馬を作る」を理念に掲げ、馬の気持ちや個性を理解することを大切にレッスンを行う。引退した競走馬の受け入れにも長年取り組み、里親制度「フォスターペアレント」を通じて馬たちの余生を支えてきた。今春には、人と馬が共に生きる関係を身近に感じられるカフェを新設。オープン日など、詳細はHPで確認を!

ADD:千葉県香取市本矢作225−1
URL:https://egret.co.jp/

◼︎馬と関われる〝はじめの一歩〟ふれあいと学びが広がる場所

乗馬倶楽部イグレットでは、予約制の体験乗馬のほか、会員制の少人数レッスンを提供。開放感のある馬場や円形厩舎、断熱リフォームなど、馬の健康を守りながら、人と心地よく関われる環境を整えている。預託訓練を通して引退競走馬の個性に合わせたセカンドキャリアを支え、さらに馬糞を堆肥化し、近隣農地の再生や牧草づくりに活用する循環型の取り組みも。学校教育や企業研修の場としても親しまれている。

\風と光を取り込みながら一年中、心地よく過ごせる厩舎/

\敷地内には、保護猫や保護犬の仲間も♪/

1|日頃から馬術に携わるトラちゃん。初対面の馬とはまずグルーミングでご挨拶。表情を見ながらゆっくり距離を縮めていく。

2|リトレーニングを経て乗馬などで活躍するサラブレッドは、人にもなれていて穏やか。

3|広い空の下で体験乗馬。呼吸を合わせ、手綱と体の重心でそっと合図を送る。初心者でもインストラクターと共に、安心して馬との時間を楽しめる。

\今回の相棒は、14歳の元競走馬・ウインスプラッシュ号/

〝つくる責任〟は人にある。守る一歩は、馬に会いに行くことから

\興味を持つ人が増えれば、馬たちが最後まで生きていける/

/人との関わり方も、馬から教えてもらっています\
 
お話をうかがったのは…引退馬たちの里親制度も創設乗馬倶楽部イグレット 代表・沼田恭子さん
 
認定NPO法人引退馬協会代表理事。乗馬倶楽部運営の傍ら、1998年から引退競走馬の支援活動に取り組み、少額から複数人で一頭を支える里親制度『フォスターペアレント』を創設。教育活動にも力を注ぎ、馬と人の新しい関係づくりを広げている。
 
トラ:人と共に仕事をしている馬たちがたくさんいる中で、私も馬術に携わるひとりとして、どうしたらみんなが健康に長生きできるのかを考えずにはいられません。中でも、引退した競走馬たちの環境について、今日はぜひ学びたいと思っています。

沼田:実は「引退馬」の問題は、SDGsとも深く結びついています。2022年の国会では競馬法の附帯決議に、引退馬のセカンドキャリア支援を推進することが初めて明記されました。まさにSDGsの目標12番目、「つくる責任 つかう責任」ですね。競馬という産業の中で生まれた命に、最後まで責任を持つ。その方向が共有されたのは、とても大きな一歩でした。

トラ:本来は一頭一頭の余生を追いかけられる体制が理想ですが、まだ難しいのでしょうか。

沼田:そうですね。これは日本に限らず、欧米の競馬先進国でも課題になっています。国内では毎年約8000頭のサラブレッドが生まれますが、中には2歳でデビューして、3歳という若さで引退する子も。近年は、JRA(日本中央競馬会)さんが支援を強化されていますが、全頭把握は厳しい状況です。

トラ:健康なら30年近く生きる馬にとっては、引退後のほうが圧倒的に長い。それだけの数を受け入れる場所を確保するのは、たしかにハードルが高そうです。

沼田:1995年に私が乗馬クラブを引き継いだ当時は、馬が何歳まで生きるかも未知で、寿命を全うするまで生かしてもらえない時代でした。現役を退いた馬の多くは「使えない馬」として外に出され、その先で肥育・食肉処理場へ送られていたんです。私はどうしてもそれが耐えられなくて。「最後まで生きられる場所を作りたい」という一心で、まずは任意団体を立ち上げました。

トラ:そこから、多くの人で分担して一頭を最後まで見守る「フォスターペアレント(里親)制度」をつくられたんですね。

沼田:はい。最初は一頭を養うのがやっとでしたが、大きな転機は2011年の東日本大震災でした。被災した福島の馬たちのレスキューに走り回る中で、インターネットを通じて想像を超えて多くの支援と寄付が集まったんです。「こんなにも馬を想う人がいるんだ」と、私自身の大きな原動力になりましたし、終生飼育だけでなく、馬の再就職を支援するリトレーニングも始めることができました。

トラ:まっすぐ最速で走るために訓練されてきた競走馬は、敏感で繊細ですし、前へ行く気持ちも強い。人に合わせて動いたり止まったりする乗用馬やセラピー馬への再調教は、簡単ではないですよね。

沼田:まさに、覚えたことを時間をかけて少しずつほぐし、新しい居場所を見つけています。ただ、その環境を支える人の存在も欠かせません。生き物相手なので拘束時間が長くなりがちで、人手不足は業界全体の課題でもあります。

トラ:だからこそ、私は馬の健康管理のDXで、現場の負担を減らせたらと勉強中でして。馬だけでなく、それを支える人の働き方が改善されれば、関わる人も増えていく気がしています。

沼田:それは本当に心強いですね。

トラ:私自身、馬と向き合うようになってから、人間関係まで変わりました。以前は頼まれたら無理してでも引き受けなきゃと思っていたんです。でも馬と接していると、踏み込みすぎてもいけないし、曖昧な態度も危ない。自然と「ここまでならできます」「これ以上は難しい」と伝えられるようになりました。相手を尊重しながら境界をつくる大切さを、馬から教えてもらったと思っています。

沼田:馬は共感性が高くて、「ミラー効果」とも言われます。人の緊張や迷い、リラックスしている状態まで、そのまま映すんですよね。

トラ:子供たちにも、こういう経験があったらいいなと思うんです。馬のお世話をしていると、排泄物の変化から体調を想像したり、言葉の通じない大きな相手とどう関係を築くかを考えたりする。思いどおりにならないときにどう共存するか、そんな感覚も育つ気がします。実際、世界では企業のリーダー教育に取り入れている例も増えているとか。

沼田:私も小学校の総合学習で馬の授業をしていますが、馬と触れ合うと子供たちは見違えるほど命について考え、たくましくなっていきます。イギリスで上流階級ほど馬術を学ぶと言われるのも、馬から学ぶ〝人間学〟のようなものがあるからかもしれません。そんな接点を増やしたくて、近々「馬の見えるカフェ」やワーケーションプログラムも始める予定です。馬が身近な存在になったらうれしいですね。

トラ:ぜひ遊びに行きたいです! 今日の撮影で一緒だったスプちゃん(ウインスプラッシュ号)のように、おっとりした子もいれば、じっと立っているのが苦手な子もいる。一頭一頭の個性を知るだけでも、ぐっと親近感が湧きますよね。

沼田:そうなんです。乗らなくても、触らなくても、近くにいるだけでエネルギーをもらえる。それが馬の魅力だと思います。そしてもうひとつ、亡くなった馬の魂が生まれた場所に帰れるようにと、今秋、北海道の浦河町にモニュメントを建てるプロジェクトも進めています。今は火葬もほとんどできず、産業廃棄物として扱われてしまう現状もある。せめて一頭一頭の生きた証を残したい。最近は『ウマ娘』をきっかけに馬に興味を持つ若い方も多く、人が訪れて思い出し、語り継ぐ場所があれば、支援の気持ちも続いていくと思うんです。クラウドファンディングなどを通じて、様々な方が協力してくださっています。

トラ:興味を持って知ること、会いに行くこと。その小さな一歩が、引退馬の未来を広げていくんですね。私も馬たちの幸せのために、自分にできることを増やしてこれからも発信を続けていきます。

Dear:CanCam読者のみなさんへ

約5年、長い間この連載を愛してくださり、本当にありがとうございました!! CanCam卒業後も続けさせていただき、毎回楽しく取材に向かえたのは、一緒に学んでくれる読者の皆さんがいたからこそ。「いつも読んでいます」「この連載で初めて知ることがありました」――街やSNSでいただいた言葉の数々も励みでした。私にとってこの連載は、変化していく社会とのつながりであり、その中で自分はどう感じ、どう生きていきたいのかを考える指針のような存在。ここで得た経験と人々との出会いを大切に、これからも愛をもって皆さんと共に、明るい未来を目指して歩んでいけたら幸せです♡ またどこかで、お会いできますように!

取材をして…今月のトラの気づき

SNSの時代にこそ馬から学びたい! 調和とコミュニケーション

「SNSで文字が飛び交う今、馬と向き合うと非言語のコミュニケーションの大切さを実感します。自分の内面的な弱さを知って、どうやって言葉の通じない相手と信頼関係を築くかを学べる。人生の師匠でもある馬たちの幸せにもっと貢献できるよう、日々の仕事や発信に責任を持っていきたいです!」

■今回のSDGsブランド…NICENICE MOMENT

創業70年以上のインナーメーカーが2021年に設立。締め付けの少ないカップ付きニットやインナーを中心に展開し、「自然体の自分でいられること」を軸にしている。サステナブルな素材で、下着の制約から女性を解放する新しいファッションを提案。エアリーな着心地と、そのまま外出できる高いデザイン性を両立し、日常に心地よさと前向きな時間を贈る。

インナー付きニット¥35,200(NICENICE MOMENT)、ジャケット¥63,800(エンメ<オペラスポーツ>)、ピアス¥126,500(KAJA BIJOUX)、パンツ・靴/本人私物

目指せSDGs!トラの一歩

\言葉がなくても心が通うひとときに!/

「友人が行っているホースセラピー体験のお手伝いに行きました! 人と関わるのが少し苦手なお子さんたちが、馬と触れ合いながら体を動かしたり、距離感をはかったりするうちに、少しお兄さんお姉さんの表情になって帰っていく姿に心を動かされました。子供たちの笑顔に、私も元気をもらった一日。いつかホースセラピーのお仕事にも関われたらと思っています」

CanCam5月号「トラちゃんと考える 私たちと『SDGs』RETURNS!」より 撮影/須藤敬一 スタイリスト/町野泉美 ヘア&メイク/神谷真帆 撮影協力/柴崎芙優 モデル/トラウデン直美 構成/佐藤久美子 web構成/近藤舞弥 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。