人気芸人「ぼる塾」のメンバー4人によるリレーエッセイ連載。
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今回は、あんりさんのターン!
大家族の実家を出た後もルームシェアなどをしていたため、実は最近やっとひとり暮らしを始めたというあんりさん!
大家族ならではの、「当たり前のこと」がなくなった今、ひとりの良さと寂しさを実感しているみたいです。
「私の部屋ってまだ未完成なの。サグラダファミリアって呼んで」by 田辺さん
CanCamをご覧の皆さま、おかえりなさい。
「おかえりなさい」って言葉が素敵だと気付いたのは大人になってから。
私は今までこの耳で何回おかえりなさいを聞いたのだろう。
毎日のように聞いたおかえりなさい。
私は大家族で育ったから、子供の頃は両親や兄弟、色んな人からのおかえりを浴びてこれたのだと大人になってから気付いた。
そして、お父さんが言ってくれる低い声のおかえりは、子供の頃に観た『ごくせん』というドラマで、主人公のヤンクミが実家に帰ったときにおじいちゃんの部下に言われるおかえりと、トーンが似ていることにはもっと前に気付いた。
ないものねだり、というのはよくできた言葉だと思う。
自分にあるものより自分にないものを求めてしまうのは私の悪い癖でもある。
子供の頃、私が憧れたのは鍵っ子。
両親や兄弟、祖父母など、誰かしら家にいる環境で育った私からしたら、鍵っ子が首にぶら下げていた家の鍵は金メダルのように輝いて見えた。
そして、家に自分だけしかいない日がもし来たら一体何をしよう、私以外の家族がみんな出かけたりしないかな、とワクワク夢を見たこともあった。
小学3年生か4年生のある日、その夢はついに実現した。
祖父母は法事で田舎に行き、両親は仕事、兄弟の中で私の学年だけ午前授業、つまりお昼から夕方の数時間、家には私だけということになる。
残念ながら、家の鍵は近所の人に預けて、よく鞄を丸ごと忘れてくることがある私には渡してもらえなかった。
午前中の授業が頭に入るわけはなく、とにかく家に帰ったら何をしようか、そればかり考えていた。
ようやく学校が終わり、子供の頃から走るのが嫌いだった私だが、この日だけは帰り道をとにかく全力で走った。
お昼ごはんはお母さんが作って置いといてくれたお弁当。
いつもおじいちゃんと観ている再放送のサスペンスをひとりで観ながら食べる。
ウィンナーや玉子焼き、唐揚げにマヨネーズを足して、大好きな梅干しは1日1個までと言われてるけど梅おにぎりの上にさらに梅干を足して、お弁当を食べ終わってすぐに、湖池屋のり塩ポテトチップスをマヨネーズに七味をかけた「七味マヨ」にディップして食べた(お父さんが晩酌でやっていた食べ方の真似)。
とにかく普段はできないことを好き勝手やった。
その味を堪能できるのは、あの瞬間だけ。
大人になって今同じことをしてもきっと味わえない。
子供の頃に隠れて食べたから味わえた、極上の背徳味だった。
その後はお兄ちゃんの部屋に忍び込んで、絶対にいじるなと言われてる『ワンピース』の漫画を読んで、絶対に触るなと言われてるEXILEのCDアルバムを聴こうと思ったけど、ウォークマンの操作がわからなかったから、ただただ触った。
そして、お母さんのヘアオイルを髪につけて、口紅を塗って、口を水で洗っても全然落ちなくて慌てて必死に擦った。
今となったら、あの落ちないリップのメーカーと品番をすごく知りたい。
とにかく子供の頃の私にとって、家にひとりというのは冒険のように楽しいものだった。
ひとり暮らしの妄想もよくしていた。
ポストに入っている新しく建ったマンションのチラシで間取りを見て、この部屋は寝室で、この部屋にはたくさん本を置いて…とかひとり暮らしに夢と希望しか持っていなかった。
これが子供の頃の私のないものねだり。
ここからは大人になった私のないものねだり。
そう、私は最近ようやくひとり暮らしを始めた。
実家を出てすぐは同期の芸人とルームシェアをして、その後は妹と弟と暮らしていた。
夢であったはずの、希望でいっぱいだったはずのひとり暮らし。
真っ暗な家に帰ることが、家から自分以外の声がしないことが、こんなに寂しいものだったとは。
冷蔵庫の音ってこんなにするんだ。
夏は涼しくなっている部屋、冬は温かくなっている部屋に当たり前に帰っていた。
家に自分だけしかいないということを実感する度に、狭くてうるさい実家が恋しくなった。
でも、ひとり暮らしになって良かった点もある。
私は人がいると甘えてしまう。
ゴミ出しも誰かが行ってくれるだろうとか、掃除も誰かに任せようとか、一緒に住んでいる誰かに押し付けることができなくなった今、汚すのも綺麗にするのも自分しかいない。
やるしかないのだ。
色んな家電についているフィルターと向き合うようになった。
家電は私が快適に生活できるように文句も言わずに頑張ってくれているのに、私が彼らにできるのはフィルターを掃除するくらいなのだから、それくらいやらなければ。
都合のいい関係からしっかり責任をとる関係へと変化した。
私は今ある家電と一生添い遂げる覚悟だ。
この継続に必要なのは、やった自分を褒めること、時々人にも褒めてもらうこと。
掃除をしたときはメンバーに報告をして、必ず褒めてもらう。
大きな掃除をしたときは田辺さん酒寄さんはるちゃん全員に報告。
小さな掃除は田辺さんだけに報告。
内容によってやり方も変えるのがポイントだ。
ひとり暮らしをしているすべての方々へ。
あなた達は偉いです。
さあ、次は皆さんが自分と私を褒める番です。(あんり)
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『猫塾』と『しんぼる』が合体したお笑いカルテット。現在、酒寄希望さん(写真左)が育休中のため、きりやはるかさん(中央左)、あんりさん(中央右)、田辺智加さん(右)のトリオで活動中。
©吉本興業/マガジンハウス
芸能界でも指折りのスイーツ通で知られる田辺さん初の書籍。『あんた、食べてみな! ぼる塾 田辺のスイーツ天国』(¥1,430/マガジンハウス)発売中。
『ぼる部屋』毎週木曜 24:15-24:25 KBC 九州朝日放送にて放送中。
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