「出会えなかったら0点」を変える。「本と人」と出会えるアプリ「Chapters」代表、森本萌乃さんの想い

「出会いが欲しいけど、周囲ではなかなか見つからない」
「でも、マッチングアプリはちょっと疲れる…」
「なんとなくヒマだなぁ、なんか面白いことないかなぁ」

…という「あるある」なお悩みをお持ちの方。
本屋さんでもあり、出会いのマッチングサービスでもある「Chapters(チャプターズ)」を知っていますか?

チャプターズとは、本との出会い、人との出会いの両方を叶えられるオンライン書店。映画のような「本棚で、手と手が重なるような偶然の出会い」を創出するコンセプトのサービスで、毎月、選書担当が選び抜いた4冊の本の中から、それぞれのユーザーが1冊をフィーリングで選び、届いた本の読書を楽しむのはもちろん、さらに「同じ本を読んだ人と、オンライン上でおしゃべりし、気が合えば連絡先交換」という「アペロ」と呼ばれるサービスがついている、不思議な本屋さんなのです。

そんな一見不思議なサービスはいったいどんな経緯で生まれたのか、チャプターズを運営する株式会社MISSION ROMANTICの代表、森本萌乃さんにお話をうかがいました。

◆「耳をすませば」からひらめいて生まれた「Chapters(チャプターズ)」

―本日はよろしくお願いします。改めて、チャプターズを立ち上げたきっかけを教えてください。

森本さん 大変個人的な話になってしまうのですが、20代後半の頃めちゃくちゃ恋愛がしたかったんです。そこで、マッチングアプリを頑張ってみるものの、「なんでちょっとかわいい写真で、見えもしない相手に媚を売らなければいけないんだ」と思ってしまい、プロフィールを全部英語にしているような天邪鬼なタイプでした(笑)。もちろん、そこで写真やプロフィールを頑張れる人の努力は尊いもの。でも私にはどうしてもそういう演出することができずしんどくなってしまって。じゃあ何が理想なのか、どうだったらいいのかと自分の気持ちを考えると「日常の延長線上に出会いが欲しい」でした。そのときちょうどハマったのが、ジブリ映画の『耳をすませば』「本をきっかけにこういうふうに出会えたらいいな…そうだ、出会える本屋さんを作ろう」と思い立って、チャプターズをスタートしました。

 

―『耳をすませば』といえば、主人公の雫と天沢聖司が図書館の本越しに相手が気になっていく…という話ですよね。確かに、あの出会い、人生で一回やってみたいです。

森本さん チャプターズの「本棚で手と手が重なる出会い」のコンセプトは、そのまま『耳をすませば』から来ています。1995年に公開された映画が、約30年経った今なお多くの人に愛されているという事実に、「物語の力」の強さを感じています。基本的にチャプターズが毎月選ぶ4冊も、実用書ではなく、小説やエッセイなど、なんらかの物語が主流です。

 

―この「毎月の4冊」は、どうやって選んでいるのでしょうか?

森本さん 何より大事にしているのは「1冊ずつが、しっかり面白いこと」。毎月4冊選書をしますが、ユーザーの方には4冊とも届くわけではなく、基本的には1冊ずつしか手元に届きません。だから、大事なのは「4冊全体のバランス」よりも「1冊それぞれの面白さ」。強いてルールがあるとすれば、忙しい方でもサッと少しだけ読んでサッとアペロに参加できるように、短編集を入れていることくらいでしょうか。
あとは、「私が好きな本を届けるサービス」ではないので、毎月現役の書店員さんや出版社など、本に詳しい方を選書パートナーにお迎えするようにしています。たとえば、今年5月にお願いしたのは小学館文庫さん。「ダウト」のテーマで、面白いミステリー小説を4つ揃えました。

 

ーチャプターズでは毎月「ありがとう」「大人が読みたい青春小説」など、毎月テーマが設定されていますが、「ダウト」になった理由は何かあるのでしょうか?

森本さん それこそ小学館といえば、CanCamを愛読していたので「ファッションやコスメ、おしゃれ」の文脈や、「日本おいしい小説大賞」という小説賞を行っているので「グルメ関連小説」を当初は想定していたんですが、実際選書を始めてみるとなかなかぴったり4冊が揃わなくて。そんな中、面白いと感じる作品が多かったのが意外にもミステリーの分野だったんです。私の持つ小学館のイメージからは、思いもしないところに辿り着きましたね。
ライトに始まるのにすごく怖かったり、逆に「この表紙は怖くて手に取らないかも…」という第一印象だった本が、今の社会問題に直結していたり…。チャプターズのスタッフが毎月30冊以上読んだ中から厳選した作品であり、また、本のプロをも唸らせる作品だけがチャプターズには毎月並ぶので、どれも本当に面白いですよ!

◆「出会えなかったら0点」のマッチングアプリの世界を変えたい

―チャプターズを運営するにあたり、心がけていることはありますか?

森本さん とても大事にしているのは「本屋さん」であること。ですから、本との出会いにはとびきりこだわっています。もうひとつは、「本をお勉強で片付けないこと」にも気を配っています。本は読むと教養が身につくとか、寿命が伸びるとか、世の中には諸説ありますが、あくまでも楽しいから読みたいと思える読書体験をお届けしたい。「ネットフリックスもいいけど、本も読みたい!」が私の中では正解なんです。そのためには、「読書なんて全然しなくてもいい。でも面白いからしちゃう」に持っていかないと。だからこそ、選書には手が抜けないんです。

 

―確かに、あらゆる娯楽の中で本は「教養」の意味合いが強いところがありますが、そこは手放したいのが面白いですね。チャプターズのもうひとつの要素「マッチングアプリ」部分ではいかがでしょうか?

森本さん いわゆるマッチングアプリって、どうしても「出会えたら100点、出会えなかったら0点」になりがちです。でも、私自身がマッチングアプリであまり楽しくはない思いをしてきたこともあり、その「出会えなかったら0点」の世界を変えたかったんです。

 

―「出会えなかったら0点」! 確かに、アプリの出会いでうまくいかないと、虚しさのようなものがありますよね…。

森本さん そうなんですよ。でも、チャプターズでは「人との出会い」のほかに「本との出会い」が確かにある。「未知の本と出会えたら50点。本が面白かったらプラス10点、いい人との出会いがあったらまたプラス何点…」と、「0点」になることがありません。

以前、ユーザーの方から「自己肯定感を下げずに使えるサービス」とおっしゃっていただいたときは、まさにそれがやりたかったと、うれしくて号泣しました。「モテない」と悩んでしまう女の子はいるけれど、「モテるか、モテないか」ってほんとはまったく重要じゃないんです。自分が素敵だと思うひとりに出会えればいい。賢い子は、同じように賢い人と話が合えばいいし、食べるのが好きな子は一緒にごはんを食べて美味しいと思える人と会えればいい。そんな風に、自己肯定感を下げずに出会うきっかけを作れたら…と思います。

 

―実際のユーザーの方は、どんな方が多いのでしょうか?

森本さん 今、使ってくだっているお客さんの平均年齢は31歳。だいたい6〜7割の方が25〜34歳の間におさまっていて、女性が6割。独身率は96%。首都圏にお住まいの方が多いです。そして本と人とに出会えるサービスだから「読書家の方が多そうで、普段あまり本を読まない自分にはハードルが高そう…」と思われることもありますが、実は「普段、読書をするのは月に1冊以下」という方が7割です。

 

―意外です! 私自身も先日「アペロ」に参加したとき、自分より100倍くらい本に詳しい人が出てきて「何も知らないんだね(笑)」となったらどうしよう…とちょっと怯えていましたが、不安に思うことないんですね。

森本さん まさに「本の感想を語り合う会」となると、「あの作家のこれまでの作品を踏まえるとこうで」など、ともすれば知識のお披露目会になってしまいがちです。でも、チャプターズがやりたいのはそういうことではなく、本はあくまで出会いの補助輪。「なんか面白かった」くらいの感想でいい。チャプターズは「本をイメージしてこちらで作ったクリエーティブと、推薦文」のみの情報で、4冊の中から1冊の本を選んでもらいますが、実はタイトルを隠しているのは、この「知識マウント防止」の意味合いもあります。きっとタイトルを出したほうがお客さんにとっても買いやすいし、私たちにとっても売上は上がるんでしょうけど、「本棚で、手と手が重なるような出会いを作りたい」という私の信念からは少し離れてしまう。その思いあってか、人間関係のトラブルは、少なくとも私が観測している範囲ではありません。

 

―やっぱりそこの信念が重要になってくるんですね。

森本さん 何より心がけているのは「みんなを、映画のラブコメの冒頭まで持っていきたい」ということです。生きているだけで頑張っていて、仕事も忙しいし、どんどん責任も増えていく。そういうときに、恋愛に残っているパワーってそう多くない人が多いんです。でも、そんなときに「とりあえずチャプターズはゆるっと続けておくか」くらいの気軽な気持ちで始めてほしいんです。
本との出会いがあって、なんとなく同じ本を読んだ人と話す機会があって。マッチングアプリの性質は持っているけれど、あくまで本との出会いがメイン。人との出会いは本を読んだおまけだから、正直そこまで出会いそのものには期待しすぎていない…というのも、お互いいい感じにハードルが下がっていて、気軽です。ちなみに、実際にユーザーの半数は「アペロ」を使用せず、シンプルに選書サービスとして使ってくれています。

 

―ところで、森本さん自身は、やはり子どもの頃からずっと本が好きだったのでしょうか?

森本さん いえ、子どもの頃から読書家だったわけではなく、「読書が楽しい!」と思うようになった原体験は、実は高校時代です。

 

―高校時代に何があったのでしょうか?

森本さん 通っていた学校のカリキュラムに「3年間で、100冊本を読もう」というものがありました。先生たちが選んでくれる本を読むものだったんですが、片道1時間半の通学時間でコツコツ読んでいると、その本もなかなか大人っぽくて「大人扱いされてる」ということも楽しかったし、本を通して誰かと盛り上がれたのがよかったんです。派手めなクラスメイトと「あの本よかったよね」と話したり、「お父さんと話したくない!」という思春期だったのに、なぜか村上春樹の話では父親と盛り上がれたり…。その「同じ本を読んだ人と話せるって、めっちゃ嬉しい」という原体験が、チャプターズにそのままつながっています。本って「ひとりで始めて、ひとりで終わる」性質を持っているからこそ、共有できるとうれしいんです。

◆「失敗しないことが失敗」。サービスを成長させ続ける人の仕事論

―ここからは少し、森本さんの話を聞かせてください。そもそも「起業しよう」という道を選んだ理由はなんだったのでしょうか?

森本さん 30代になる少し手前に「大きいチャレンジをしたい」という気持ちが湧き出てきました。選択肢は色々思いついた中で、そのときに私が思ったのは「いちばん難しそうな、起業にチャレンジしてみたい」ということ。でも、皆さんが思うほど大それたものじゃありません。それこそ「何かバッグが欲しいな、プラダにする? セリーヌにする? バレンシアガにする?」くらいのテンションで起業することを選び、「MISSION ROMANTIC」という会社を創業しました。当時はほとんど思い出づくりの感覚でしたね、書類を出すために行った税務署や法務局で、係の人にお願いして記念写真を撮るくらいでしたから(笑)。

―一発目からチャプターズのサービスを始めたんでしょうか?

森本さん 「本」ということは共通していますが、最初の最初は今のような形ではなく、もっと副業的な感じで、手さぐりでアナログなサービスでした。本を私の自宅から届けて、同じ本を読んだ人を恵比寿や六本木などのお店で対面でつなぐという、「合コン代理店」のような形です(笑)。でも、これじゃ事業は大きくなっていかない。そう思っていた2020年5月、コロナ禍で勤めていた会社をクビになって、「私はこれで食べていきたい、一度の人生を賭けるなら、これしかない」と、転職活動を諦めて。そこからMISSION ROMANTIC1本でやっています。でも、最初から順風満帆だったわけではなく、夢とお金の戦いでした(笑)。クビになったばかりの頃は、会社員という安定した収入もなくなり、貯金は200万円くらいなので「1年でどうにかするしかない」という状況。途中で資金調達や借金もして、本当に毎日ギリギリで生きてきました。もうすぐチャプターズを始めて丸2年が経つのですが、口コミやメディア出演をきっかけに少しずつユーザーの方も増えてきて、最近ようやく人並みの生活が送れるようになったところです。

 

―会社員時代と起業した今、「働くこと」に対して、こう変わったという点はありますか?

森本さん 会社員時代は「どうしてこんなに頑張っているのに、評価されないんだ」と、自己評価と他者の評価のギャップに悩んでいたけれど、今は「このサービスで絶対に誰かを幸せにして、お金を稼ごう」と思えるのが何よりの違いです。うまくいかなければ自分のせいだし、「やる」と決めたから、やれることは全部やりたい。人生の決断は勢いで決めたけど、決めたからには踏ん張らないと。あとは、サービスが失敗することより、信念が曲がることのほうが怖いんです。サービスを始めて最初の半年くらいは、なかなかうまくいかなくて「もっとマッチングアプリに振ったほうがいいんじゃないか」「もっとデジタル化して人の手を離した方がいいんじゃないか」と悩んだ時期もありました。でも、会社のメンバーが「なんのために起業したの?」とそのたびに励ましてくれて、今に至っています。

 

―仕事をする上で「心がけていること」はありますか?

森本さん できるだけ「早めに失敗する」ことを大切にしています。もっと言うと、失敗してもいいくらいやりたいと思えるか。

そうやって行動していると、案外、失敗ってしないんです。むしろ「失敗したくない」と怖がって、目に見える範囲のことしか選ばなくなると、そちらの方が長い目で見ると「失敗」かなって。恋愛だって「振られたら怖い」と告白しないまま、言えなかったことをずっと後悔するよりも、振られてもいいから告白したほうが話が進むじゃないですか。小さく始めて早く失敗したほうが「失敗しない」んです。

 

―逆に「やらないようにしていること」はありますか?

森本さん ひとつひとつ、心を宿す分量は違えど、「心を込めない仕事」はやらないようにしています。
お客さまにポジティブに返らないものは、絶対やらない。私自身がこうしてメディアに出ることも当初は悩みがありましたが「マッチングアプリに疲れていた頃、森本さんのインタビューを見てチャプターズを始めました」という声を聞いて、私と同じような境遇の人たちに知ってもらえて、誰かの助けになれて、誰かにポジティブな気持ちになってもらえるなら…と。私にとって、チャプターズというサービス、そしてチャプターズで出会うお客様一人一人がとにかく大切なんです、全ての意思決定はそこに帰結しますね。

 

―キャリアに悩む20代の読者に向けて、何かアドバイスはありますか?

森本さん 20代はキャリアに悩む時期だと思いますが、起業を選んだ私が思うのは「20代で大きな挑戦をしないと、どんどん挑戦しにくくなっていく」ということ。20代なんて、多少失敗してもまったく問題ないし、少し年収が下がることを気にするなら、後で取り返す方法はいくらでもある。「挑戦したいけど、でも…」と悩む理由が「お金」「ポジション」「安定」など、人から与えられたものだとしたら、本当はあんまり大切じゃないかもしれません。
私も会社員時代はバンバンお金を使っていましたが、今はまったく変わりました。スタバに行く量が減ったり、スーパー行っていちごが食べたくても「高っ」と思ってミニトマトにしたり(笑)。残高がなくて友達と遊べなかったことも、呼ばれた結婚式に出席するのに親からご祝儀を借りたこともありました。恥ずかしい思いをしたり、手放したものもたくさんあるけれど、そうやって選んだ「今の自分」は、結構お気に入りの自分なんです。

 

―今後の展望を教えてください。

森本さん 「リアルイベント」を定期的に開催していきたいです。デジタルで始まったチャプターズは、リアルもあって、どんなサービスをやっているかと聞かれたら「本屋さん」と答えるけれど、同時に「マッチングサービス」でもある。そんないろいろな分野の間をいく新しいサービスであり続けたいです。

会社名のMISSION ROMANTICは、「ちょっといいよね、なんか楽しいよね」と、気持ちがいいことをやっていくために付けました。。ロマンチックって、ちょっと笑っちゃうじゃないですか、その感覚が大切。私たち会社のメンバーも、お客様も、みんながこの会社のおかげで今より少しだけ楽しかったりドキドキしたりできる、そんな会社でいられたら本望です。

 

◆最後に。毎月数十冊の本を読む、森本萌乃さんが選ぶ「MY BEST BOOK」

ちなみに…チャプターズに登録すると、「マイページ」に「MY BEST BOOK」を3冊登録する欄があります。それにちなんで、森本萌乃さんに「MY BEST BOOK」を挙げていただきました。

1.『アルケミスト 夢を旅した少年』(パウロ・コエーリョ 著)

「オバマ元大統領も愛読する、世界中で読まれているベストセラーです。
 大雑把にあらすじを言うと、羊飼いの少年サンチャゴがピラミッドを目指す物語なのですが、旅の途中で何度も訪れる選択のタイミングに彼が下す意思決定に、私自身影響を受け、私の人生を変えてくれた一冊と言っても過言ではありません。ちょうど起業する直前に読んだので、タイミング的にもぴったりで忘れられない本です。」


2.『その手をにぎりたい』(柚木麻子 著)

「お仕事小説、グルメ小説、どちらの側面からも極上で大好きな小説です。
 普通の25歳のOLが、実家に帰ろう…という日に、送別会で銀座の高級鮨屋に連れて行かれるところから物語は始まります。『お寿司をもっと食べたいから働こう!』と決めて東京に残るのですが、この主人公のターニングポイントが寿司っていうのが面白い。そんな、いい意味でギャルマインドがすごくいいんです。」

3.『シネマ・コミック 耳をすませば』

「やっぱり、起業のきっかけになった『耳をすませば』は欠かせない存在です。
 今、会社の取締役に出会った日にもこの本を渡して、『これを読んで面白いと思ったら、一緒にやりましょう』と言ったくらい。お互いに依存せず、駆け引きもせず、ただ自分の夢に一生懸命な聖司くんと雫ちゃんを見ているだけで、こちらも前向きになれるんです。」

 

ゴールデンウィークに、けだるい五月病のおともに。ふと始めて、ふと手元にやってきた一冊が、あなたの運命を変えるきっかけになるかもしれません。
そんな「本棚で、手と手が重なるような偶然の出会い」。あなたもチャプターズで経験してみませんか?

Chapers bookstore公式サイト https://chapters.jp/

公式Twitter https://twitter.com/MissionRomantic

 

構成/後藤香織