近年「推し活」をしている人が急増中。推しがいると人生楽しいし、友達も増えるしハッピー! …という側面はもちろんありますが、感情を大きく左右するとっても大切な存在であるだけに、「卒業・脱退・解散」などが起きると、大きく心にダメージを与えるもの。「その活動がもう見られなくなったら、私はなんのために生きてるの?」と、深刻に悩んでしまうケースもあります。
このお悩みを解決する方法について、「おおざっぱに笑って健康に生きる」をモットーに活躍する「ラフドクター」、精神科医・産業医の井上智介先生にうかがいました。
推しが卒業してから、何にも興味が持てません。
Q.人生を捧げてきた推しのアイドルがグループを卒業してしまい、しばらく芸能活動を休止するようです。いつ表に出てきてくれるのかわかりません。推しがいないと何も楽しみがないし、何かに興味も持てません。推しにこんなに執着・依存していたことに気づき、自分はなんて空っぽな人間なんだろうと日々落ち込んでいます。周囲にはちょっとバカにされた感じで軽く笑い飛ばされてしまう悩みですが、自分としては深刻です。どうしたらまた何かに興味を持てるのでしょうか?
A.「大好きなものがなくなる」ダメージは想像以上に大きいもの。無理に明るく過ごすことなく、日常をまっとうして、自然と悲しみが感謝に変わるタイミングを待ちましょう。
「バカにされるような悩み」なんて、そんなことはありません。
これは「大切な人が亡くなってしまった」から「ペットロス」、そして最近よく耳にする「大好きなドラマが終わってしまった」などと同じ、「◯◯ロス」の話です。「◯◯ロス」で精神科に来る方もかなりいらっしゃるほど、ダメージが強いものです。「推しの卒業」は、この方のようにこれから復帰する可能性があるケースでも、それでも「大好きなものがなくなる」ダメージは大きく、重い話です。
たとえ周囲に「そんなことで落ち込んでないで元気出そうよ!」と軽く受け止められて笑い飛ばされたとしても、自分が深刻に悲しんでいるなら、無理に明るく過ごそうとせずに、悲しみに浸かってください。何かを失ったときに、辛くて、何に対しても熱意も意欲もなくなって落ち込んでしまうのは、心の反応として、至極当然です。
「できるだけ早く、このつらさを乗り越えるためにできること」がお伝えできればいいのですが、残念ながら、そのような特効薬は存在しません。
ただ、特別なことはせずに、目の前にある日常をまっとうしてください。そうやって過ごしていると、ふと、悲しみが「充実した時間をありがとう」と、自然と「一緒に過ごせた感謝」に変わっていくときがやってきます。そう思うまでのタイミングは人それぞれ。何か月という目安もないし、いつまでにそうならなければいけないというルールもありません。
その気持ちに変わると、ある日、ふとした「偶然」で、心惹かれるものに出会うタイミングがやってきます。悲しみの最中に無理に探そうとしても「あの人に悪いな」という気持ちが先行してしまい、なかなか見つからないものです。けれど「あの人がいたから、楽しかったな、ありがたかったな」という感謝モードに変わると、次に愛せる何かを迎え入れることができます。
きっと、今喪失に悲しんでいる「推し」も、「偶然テレビや雑誌を見た」「偶然YouTubeやTikTokのおすすめで動画が流れてきた」「偶然友達がファンだった…」など、何かの「偶然」で出会ったはずです。その偶然がまたやってきて、また何かを愛して、生きていく。「こうしなきゃ」と思うことなく、自然のままに、心身を任せてみてください。
井上智介先生
精神科医&産業医
「おおざっぱに笑って健康に生きる」をモットーにした「ラフドクター」として活躍中。書籍多数。近著に『がんじがらめの心がラクになる「呪いの言葉」の処方箋』『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』など。