【祝!直木賞】「普通でずるい人間だった」西加奈子が作家生活で得たもの、変わったこと

『サラバ!』で第152回直木賞を受賞した西加奈子さんへのインタビュー。第3回目は、10年間作家として活動されるなかでの葛藤や、ご自身の変化についてお聞きしました。特に後半のお話、必見です。

★1回目→ 【祝!直木賞】西加奈子に聞く、5%の喜びが支えた「サラバ!」誕生秘話

★2回目→ 【祝!直木賞】「作家になる気はなかった」西加奈子、ずっとなりたかった職業とは?

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Woman Insight編集部(以下、WI) 『サラバ!』を書いているときに9割5分苦しかったとおっしゃってましたが、小説を書くうえで「ノッているとき」と「そうでもないとき」というのが、あるものですか?

西加奈子さん(以下、西) そうですね、めちゃくちゃ書けるときもあるし、まったく書けない時期もあります。書けない1週間とか、2週間、1か月っていうのは、何回もありましたね。さすがにきついけど、10年という年月やってきて、それでもなんとか書けてきたっていうのがあるから。前より大丈夫というか、自分を信じて、(書けないときには)今は充電期間やなって思えるようになりました。

WI 10年間、そういう辛い時期もあって、「もう辞めよう」と思ったことはありますか?

西 ないです。陳腐な言い方ですけど、書くときってやっぱりすごく孤独で、プレッシャーもあるんですけど、そういうときは作家の友達に会います。別に仕事の話をしなくても、会わなくてメールだけでも、めっちゃ元気になれるんです。同時代、同世代の作家がいてよかったな、とほんとに思います。山崎ナオコーラさん、中村文則くん、村田さやかさん、朝井リョウさん、ちょっと上でいうと角田光代さんとか、ほんとみんな仲よくて、一緒に旅行に行ったりしてますね。

WI  そういった大切な方のほかに、10年間続けるために必要なものってなんでしょうか。

西 私の答えが「作家代表」みたいになっちゃうと怖いから、あんまり言えないですけど。ただ、作家でも、ライターでも、編集者も、プロレスラーも、どの仕事も一緒だと思うんですけど、とにかく仕事ひとつひとつ全力でやるということしかないと思いますね。つまらない答えだと思いますけど。たとえば作家同士で集まったときも、いろいろ考えるんです。どうやったら本ってもっと売れるかとか、ずっと続けるために何したらいいかとか話したりするんですけど、結局全力でやるしかないよね、いいもの書くしかないよね、というところに落ち着きますね。

WI 逆に、実際10年続けて来て、ご自身が変わってきたことはありますか?

西 私は、すごく普通……乱暴な言い方ですけど、まあ、すごく普通だったんです。たとえば中学校で、同じクラスにヤンキーというか、タバコを吸ったりするような、勉強が全然できない男の子がいて。その子に、「三角形の内角の度数を求めよ」っていう、数学を教えてたんです。

WI 「X=180°マイナス他のふたつの内角」っていう公式に当てはめると出る、あれですか?

西 そうです。でも「そうすればいいねん」って何度説明しても、彼は全然わからなくて。よくよく聞いてみたら、「なんで三角形の内角の和が180°なん?」って言うんです。私は先生が「三角形の内角の和は180°です」って言ったら、何も疑問に思わずそうなんや、と思ってたんですね。だから彼の言うことに「たしかに」と思いつつ、とはいえ「なんで180°なんだ?」って考え出したら面倒くさいじゃないですか。だから考えない。そういう人生でしたね。ニュースとかも、たとえば世界情勢とか、苦しいニュースとか、見られなかったんですね。見たらしんどくなるし、知らんほうが楽やし。そういう人生でしたね。でも作家になったからには、それは無視したらできないと思って、ちょっとでもひっかかったら調べるようになりましたね。自分のその苦しい感情に向き合うようになりました。それは作家になってからですね。うん。知らんぷりしてたのを、作家になってすごく突きつけられた感じですね。

WI その不良少年とのエピソードみたいな、ハッとするような感覚は、西さんの本を読んでいていつも感じるものです。

西 その友達とか、それこそ『サラバ!』に出てくる貴子ちゃん的な人に対して、私は異常に美しさを見てしまうタイプでしたね。大人になっても空気読めないというか、うまくやれない人いるじゃないですか。私は転校生やったし、兄がいて2番目やしで、誰とでもある程度しゃべれるし、うまくやれちゃうタイプなんですよね。もともとずるい性格なんです。だから余計、大人になってもそういうことができない人を、美しいと思ってしまっていた。それが、作家になって変わってきたんですが、「いや、私も美しい」って思えるようになりましたね。空気を読めないまっすぐな人も美しいけど、空気を読んでうまいことやっている私も美しいんだって思えるようになりましたね。それが一番大きい、嬉しい変化でしたね。

このインタビューの後半、西さんの語られることと『サラバ!』の主人公の気づきがリンクしてしまって、図らずもグッときてしまいました。いよいよ次回、最終回です。(五十嵐ミワ)

★1回目→ 【祝!直木賞】西加奈子に聞く、5%の喜びが支えた「サラバ!」誕生秘話

★2回目→ 【祝!直木賞】「作家になる気はなかった」西加奈子、ずっとなりたかった職業とは?

cover

『サラバ!』西 加奈子/著(小学館/1,600円+税)

http://www.shogakukan.co.jp/pr/saraba/

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