【祝!直木賞】西加奈子に聞く、5%の喜びが支えた「サラバ!」誕生秘話

先日の第152回直木賞を『サラバ!』で受賞された、作家の西加奈子さん。西さんといえば、これまでにも、恋で疲れたら『きいろいゾウ』に、人間関係に悩んだら『漁港の肉子ちゃん』に救われろ、といわれる(かなり個人的統計です)、現代人の心のよりどころ的な作品を数多く出されてきました。

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そんな彼女が作家10年目にして手がけた長編『サラバ!』は、今自分の生き方に悩んでいたり、ちょっと行き詰まってるな、疲れたな、と思っている方にぜひ読んでいただきたい名作です。

この素晴らしさをお伝えすべく、直木賞受賞直後で取材が殺到している西加奈子さんに、ウーマンインサイトでもインタビューを敢行しました!

Woman Insight編集部(以下、WI) このたびは、直木賞受賞おめでとうございます。『サラバ!』は、西さんが作家になられて10年という節目に生まれたそうですが、この壮大なストーリーは、最初から「こうしよう」と思ってらしたんですか?

西 加奈子さん(以下、西) 全然決めていなかったです。とにかく、10年目に長いものを書きたかったんです。あとは、ハッピーエンドにしたい、男の子を主人公にしたい、それから言葉を違えた男の子同士の友情を書きたい、それだけで、それ以外は決めずにいて。最初に「僕はこの世界に、左足から登場した。」という文章が、ぱって浮かんで、一人称にすることもそこで決まりました。あとはもう、書きながら「あ、これはアイデンティティだな」「今度は信仰の話になったな」「最後は物語への感謝になったな」という感じで、後から後から出てきました。本当に、こんなにうまくいった小説はないですね。こんな長さで、設計図を描かずに書いて、こんなにうまくいくことはない。最終的なゲラチェックでも、直しはあるものの、そこまで矛盾があるものではなかったんです。だから逆に、(原稿の)手離れが悪かったですね。あの長い時間がこれで終わるんやと思うと、「これでいいんかな」って、ずっと見ていました。

WI 書いていて、書けた! というような、歓喜の瞬間はありましたか?

西 ありました、ありました! 『サラバ!』は本当に多かったです。貴子ちゃんという、主人公のお姉さんを傷つけた幼少時代のあだ名が、最後は本当に素晴らしい結末につながったり、鴻上さんという、大学時代に出会った女の子が、後々すごく大切な人になったり……。矢田のおばちゃんにしてもそうだし。神がかっているというか、登場人物が勝手に動き出すっていうとあれなんですが、自分で書きながら、登場人物に引っ張られるところがあって、めちゃくちゃ幸せになる瞬間がありました『サラバ!』は長かったので、9割5分苦しかったですけど、その5分のめちゃくちゃうれしい数秒があるから書けたという感じがします

ちなみに今回の小説の主人公・圷歩(あくつあゆむ)は男の子。「男の子が主人公であることがジョン・アーヴィングやスティーブン・ミルハウザー、J・D・サリンジャーなど、男の子の一人称ものが好きなことにも関係あるかもしれません。いい距離感ができて、書きやすいので」。ご自身にもお兄さんがおひとりいらっしゃり、『キン肉マン』や『北斗の拳』、プロレスなど、いわゆる男の子のものがすごく好きだったそうです。

そんな西さんが、作家を志すようになったきっかけは? 次回に続きます!(五十嵐ミワ)

★2回目はコチラ→ 【祝!直木賞】「作家になる気はなかった」西加奈子、ずっとなりたかった職業とは?

cover『サラバ!』西 加奈子/著(小学館/1,600円+税)

http://www.shogakukan.co.jp/pr/saraba/

撮影/荻原大志

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