怒りは抑えなくていい。怒りを上手にコントロールする「アンガーマネジメント」6つのコツ

「どうして分かってくれないの?」とか、「私ばっかり我慢してる」とか…怒りがこみ上げる瞬間は、誰にだってあるものです。

(c)Shutterstock.com

でもカッとなってばかりでは人間関係が壊れてしまうし、かと言って溜め込みすぎれば、自分が苦しくなってしまいます。自分も他人も傷つけず穏やかに過ごすためには、怒りの感情をどうコントロールすれば良いのでしょうか?

今回は、怒りの表出をコントロールする「アンガーマネジメント」のやり方について、基本の考え方や実践するコツを産業保健師の劉 詩卉(りゅう しひ)先生に伺いました。

●今回教えてくれるのは……
劉 詩卉(りゅう しひ)先生
産業保健師。看護師として国立国際医療研究センター病院で勤務したのち、治療用アプリ開発ベンチャーを経て産業保健サービスを提供するエムステージに入社。企業における従業員の健康管理、予防医療に携わっている。産業保健や一次予防の重要性について、メディアを通じた啓蒙活動も行う。

◆「アンガーマネジメント」とは?

「アンガーマネジメント」は、怒りの表出をコントロールするための手法です。1970年代にアメリカで生まれ、医師や看護師など感情のコントロールが必要な仕事に活用されているほか、犯罪者の更生プログラムにも取り入れられています。

アンガーマネジメントを身につけると、怒りの感じ方が変わって気持ちが楽になったり、相手により良い形で要望を伝えられるようになったりします。

マネジメントと言うと難しそうに感じるかもしれませんが、この手法はトレーニング次第で誰にでも身につけられるものです。

とくに、

・怒りを表に出せず、ストレスを溜めてしまいがちな人
・些細なことで反射的にカッとなってしまう人
・つい八つ当たりをしてしまい、後で落ち込むことが多い人

など、怒りに関するさまざまな悩みを抱えた人に役立ちます。

◆まず押さえておきたいポイントは?

アンガーマネジメントを身につける際、最初に意識したいのは、怒りの感情を「なくそう」とか「抑え込もう」とするのをやめることです。

誤解されやすいのですが、アンガーマネジメントは「怒りの感情そのもの」を消す方法ではありません。感情を否定するのではなく、ありのまま受け止めた上で「表出の仕方」をコントロールすること。これがアンガーマネジメントの目指すところです。

怒りは身を守るための本能ですし、自然な感情のひとつです。それを否定して抑え込んでしまうと、体調不良や抑うつ状態にも繋がります。自分の心身を守りつつ良好な人間関係をキープするためには、怒りを否定するのではなく「表出の仕方」をコントロールするのが効果的です。

ここからは、そのコントロール術を身につけるために実践したい6つの方法をご紹介していきましょう!

◆誰にでもできる「アンガーマネジメントの実践方法」6つ

(c)Shutterstock.com

方法1.怒りを否定するのをやめる

まずは、怒りの感情を否定するクセを手放していきましょう。

何かカチンと来ることがあったとき、人はつい「怒ってはいけない」と感情を抑え込むことがあります。人間関係を維持するためには、感情をぶつける前にいったんストップをかけるのは決して悪いことではないでしょう。でもそればかり続けていると、自分が壊れてしまいます。

ですので、「怒ってはいけない」と考えるのではなく、「怒ってもいい。怒りは誰にでもある当たり前の感情だ」というふうに、イメージを上書きする作業をしてみてください。それがアンガーマネジメントの第一歩です。

 

方法2.怒りを言語化する

怒りの感情を認めてあげることができたら、次は「自分の怒りを理解する」段階に進みます。と言っても、心の中で考えているだけでは余計モヤモヤが募ってしまうかもしれません。

そこでオススメなのが、怒りを文章に書き起こすこと。できるだけたくさんのボキャブラリーを使って言語化することで、自分の怒りを客観的に見つめやすくなります。

▼「怒りを言語化する」具体的な方法は?

怒りを感じたらすぐにメモを取りましょう。スマホのアプリに打ち込んでも、手帳に手書きしてもOK。怒りを感じた「状況」「原因」「どんなふうに感じているか」など、思いつくことをその場で書き留めてみてください。

対面ではなくLINEやメールにムカッと来たら、相手に送るつもりで怒りを解説してみるのもオススメです。「私はこう感じた」「もっとこうして欲しい」といった気持ちを言葉に変換してみましょう。書いた文章は実際に送らなくてもOKです。書き終えたときには不思議と怒りが消えていることも多いでしょう。

方法3.怒りに点数をつける

「今回の怒りは10点中●点」など、怒りの程度に点数をつけてみましょう。点数として記録しておけば、自分がどんな物事にどの程度の怒りを感じるのかを客観的に把握できます。

怒りを感じそうな場面を事前に察知できるので、対処もしやすくなるでしょう。「怒りが8点を超えたときは、相手に改善をお願いする」といったマイルールを作っておくのも良いですね。

方法4.怒りの「6秒ルール」を意識する

怒りの源となるアドレナリンは、分泌開始から6秒間がピークと言われています。つまり、怒りがワッとこみ上げたときも「最初の6秒間」さえやり過ごせば、あとはスーッと冷静な気持ちが戻ってくるのです。

6秒ルールは、身体の動きを加えるとさらに効果的であると言われています。たとえば、手のひらに指で「1、2、3……」と数字を書きながら6秒カウントすると、怒りがより収まりやすくなります。

方法5.「べき思考」を手放す

こうするべき、こう在るべき、というルールやマナーを守らない人には、怒りを感じやすいもの。ですが、自分の中にある“べき”と、他人が持っている“べき”は、まず一致しないのが普通です。

「べき思考」は、怒りの感情に直結しています。あなたはあなた、人は人。感覚が違うのは当たり前なのです。こうするべきなのに……という怒りが生じたときは、「でもこれは私の中の“べき”であって、相手は違ってても仕方ないんだよね」と考えてみましょう。

方法6.マインドフルネス(瞑想法)を活用する

マインドフルネスとは、意識を「今ここ」に集中させるための瞑想法です。この手法は自分の感情を客観的に捉えるトレーニングにもなるため、怒りをコントロールするのにも役立ちます。

「自分の感情を客観的に捉える」というのは、自分の胸から「怒り」という感情の塊を取り出して、外側からしげしげと眺めるようなイメージです。感情を客観的に見ることができれば、カッとなって人を攻撃したり、過去の怒りを抱え続けてモヤモヤしたり……といった状況も改善されていくでしょう。

マインドフルネスのやり方は、とても簡単です。

▼マインドフルネスの手順

(1)床でも椅子でも、リラックスできる場所に座る。
(2)目を閉じて(または半目で)、ゆっくりと深く呼吸を繰り返す。
(3)呼吸だけに意識を向ける。他のことに気がそれたら、また呼吸に意識を向け直す。

以上のことを1日5分、できれば毎日続けると効果的です。

(c)Shutterstock.com

◆こんなときどうする?お悩み別・アンガーマネジメントQ&A

アンガーマネジメントの考え方や実践方法について、なんとなく分かってきましたか? ここからはさらに具体的に、お悩み別の対処法を聞いてみましょう。

Q.怒りを我慢して、ストレスを溜めてしまいがちです。上手に発散するコツはありますか?

怒りを溜め込みやすい人は、感情を抑え込むのではなく「言語化して表に出す」練習を意識して行いましょう。

まずは自分の中で、怒りの形を客観視する必要があります。そのために効果的なのは、やはり言語化です。上述の「方法2.怒りを言語化する」を参考に、自分の怒りを言語化する習慣をつけてみてください。

Q.怒りをコントロールしたくて頑張っていますが、なかなか上手くいきません。

怒りのコントロール法を身につけるには、少し時間がかかります。

「怒りを否定するのをやめる」「“べき思考”を手放す」といったアンガーマネジメントの手法は、物事に対する認識そのものを変える方法であり、「再評価法」とも呼ばれています。長年の考え方を変えたり、再評価したりするのですから、一朝一夕で上達するのは難しいのです。

でも、トレーニングを積み重ねているうちに少しずつ変化が現れてきます。焦らず気長に、一歩ずつ進んでいきましょう。

Q.イライラして人に八つ当たりしそうになったとき、思いとどまるコツはありますか?

人をむやみに攻撃してしまいそうなときは、物理的にその場を離れるのが一番です。「怒りの6秒ルール」でご紹介したとおり、怒りの源であるアドレナリンは分泌を開始してから6秒間がピークで、その後はスーッと落ち着いていきます。

対面の会話であれば「ちょっとトイレに行ってきます」と言って立ち去る。LINEや電話であれば、一度やりとりをストップしてスマホから離れるなど、物理的に距離を置いてアドレナリンが落ち着くのを待ちましょう。

Q.職場で同じミスを繰り返す人に、ついカッとなって怒鳴ってしまいます。いつも「言い過ぎた」と後悔して落ち込むのですが、どうしても抑えられません。

怒りを感じているときは、誰でも視野が狭くなっているものです。職場のように第三者が同席している場所なら、信頼できる人にあらかじめ事情を説明しておいてストップをかけてもらうのもオススメです。

第三者に「私がカッとなったら止めてね」とお願いしておけば、制止された時点で一度落ち着くことができます。少なくとも、「私は今怒っている、声を荒らげている」という事実にハッと気づくことができるでしょう。

怒りに気がついた時点で、今までより一歩前進です。「6秒ルール」や「その場を離れる」といった方法も合わせて、状況を変えていきましょう。

劉先生いわく、

「私もどちらかというと怒りをコントロールできず溜め込むタイプです。でもマインドフルネスや怒りの言語化を実践してみて、怒りを客観視する、コントロールする、という感覚を少しずつ掴めるようになりました。

自分が何に怒りを感じているのか、相手にどうしてもらえたらその感情がなくなるのか。それを把握することで、人間関係をより良くしていくこともできます。改善点を冷静に伝えられれば、怒る機会そのものが減っていきますよ」

とのこと。自分を楽にしてくれる「アンガーマネジメント」の手法、できることから実践していきたいですね。

文・構成 豊島オリカ
取材協力 株式会社エムステージ