仕事も人間関係もうまくいく!「ほめ上手」になって人生変えるコツ

新しい出会いが増える春。「職場に苦手な人ができた」「人のミスについイラッとしてしまう」など、人間関係の悩みも生まれやすいのではないでしょうか。

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そこで今回は、コミュニケーションを円滑にする「ほめる技術」についてご紹介。ほめ上手になるコツや今日から使えるほめテクニックを、「ほめちぎる教習所」として有名な三重県南部自動車学校で教員を務める明比佳香さん、八田宜彦さんの2名に教えていただきました。

●三重県南部自動車学校とは…
生徒を徹底してほめる方針を導入し、「ほめちぎる教習所」として一躍有名になった自動車学校。従業員全員が毎日「相手をほめる」練習を重ねて教習に取り入れた結果、生徒数の増加や卒業生の事故率低下などの実績を評価され話題に。2021年に発表されたリクナビNEXT主催・第7回GOOD ACTIONアワードでは「ワークスタイルイノベーション賞」を受賞しました。

■ほめ上手はメリットたくさん!

あなたは、話題の自動車学校「ほめちぎる教習所」を知っていますか?

「ほめちぎる教習所」こと三重県南部自動車学校は、とにかく生徒をほめることで数々の実績をあげ話題になっている自動車学校です。

ほめることが人間関係の潤滑油になるという話はよく聞きますが、それを経験したことのある人は意外と少ないかもしれません。でもこの教習所では、職員全員が「ほめる技術」を身につけることで、実際にいろいろな変化が起きたと言います。

職場全体が本気で「ほめる」を極めたら、いったいどんな変化が起きるのでしょうか? 教員として働くお二人に具体的な変化を聞いてみました。

◆変化1:職場の人間関係が良くなった

お二人によれば、以前は職場全体にギスギスした雰囲気があり、先輩が後輩を叱責するのも日常茶飯事だったとのこと。先輩に叱られて怖くなり、萎縮してしまうことも多かったと言います。でも「ほめる文化」が根付いてからは人間関係がぐっと良くなり、「先輩に質問しやすい」「後輩に教えやすい」など、仕事も進めやすい環境に変わりました。

◆変化2:生徒さんの反応が変わった

自動車学校にも卒業式があります。一般的にはあまり記憶に残らない「教習所の卒業式」ですが、「ほめる」ことで教員が生徒と信頼関係を築いている同校では、なんと卒業式で感極まって号泣してしまう生徒さんがいるのだとか。教える側が「ほめる技術」を磨くことで、教わる側との関係性はここまで変わるようです。

◆変化3:自分自身が楽になった

八田さんいわく、「ほめることを意識するようになってから、叱る言葉よりほめ言葉のほうが相手にスッと入っていくと気付きました。言いたいことがちゃんと伝わるので肩の力が抜けますし、生徒さんだけじゃなく職場の同僚や上司とも人間関係が良くなった結果、自分自身も楽な気持ちで働けるようになりました」とのこと。

人間関係、仕事、自分自身の気持ち。ほめ上手になるとたくさんのメリットが得られるのですね。

さて、ここからはいよいよ具体的な「ほめテク」について聞いていきましょう!

■ほめ上手に必要な「観察力」意識すべき3つのポイント

人をほめるためには、相手を観察してほめるポイントを見つける必要があります。
「観察力はとっても大切」と口をそろえる明比さん、八田さんは、とくに次のようなことに注目して相手を観察しています。

(1)成長と苦手分野に注目する

今までできなかったことができたとき、それを誰かにほめてもらえたら嬉しいですよね。教習所の教員という立場もあり、お二人は常に生徒の成長に注目しています。

八田さん「成長とは、できなかったことができるようになること。それを見つけてほめることを意識しています。ブレーキの踏み方ひとつをとっても、前回まではカクッと止まっていたのに、今日はふわーっと柔らかく踏めるようになったね、とか。小さなことも見逃さないよう意識しながら過去と今とを比較すると、ほめるポイントは必ず見つかります

また、相手の苦手分野に注目するのもほめ上手になるコツとのこと。

明比さん「たとえば、坂道発進が苦手でいつも失敗していた生徒さんが5回中1回だけ成功したら、その1回を思いきりほめます。誰でも苦手なことをほめられると嬉しいですよね。そのとき、どこがどう良かったのかを具体的に伝えてあげると、本人に自信がつきます。苦手意識がなくなると、そこから一気に上達していく生徒さんも多いんです」

他の仕事に置き換えると、「後輩がなかなか仕事を覚えてくれない」というとき、先輩としてはついミスを責めるだけになってしまったり、冷たい態度をとってしまったりしがちです。

でも細かく観察してみると、できない中でも「ここはできている」とか「以前に比べるとできるようになっている」という部分が見えてくるかもしれません。そこに注目して具体的に伝えるのが、ほめてやる気を引き出すコツです。

(2)受け入れやすいタイミングを見極める

どんなに嬉しいほめ言葉でも、忙しくていっぱいいっぱいになっているときは耳に入ってこないもの。ほめ上手にはタイミングも重要です。

八田さん「教習中、運転に集中しているときにほめてもなかなか伝わりません。ほめ言葉は、運転中でも表情を見て心にゆとりがありそうなときや、教習が終わったあとの講評で伝えるようにしています」

明比さん「表情を見ることは大事な観察力の一つです。相手が硬い表情をしているときは、ほめ言葉よりも“何かあった?”とか“大丈夫?”といった、“いつもと違うから心配だよ”という気持ちを素直に伝えたほうが有益だと思います。常にほめる行為を優先するのではなくて、その人にとっていいタイミングで欲しい言葉を具体的に伝えることが大事です」

(3)相手が使わない言葉は避ける

さらにほめ上手になるためには、相手が使わない言葉にも注目してみましょう。

明比さん「とくに家族の話題などプライベートなことについては、慎重に耳を傾けます。何か特定のキーワードを避けているのであれば、それは相手にとって触れられたくない話題かも……。こちらがほめているつもりでも、相手にとって避けたい話題では逆効果だし、不快な思いをさせてしまいます」

成長や苦手分野に注目し、受け入れやすいタイミングを見極め、相手が使わない言葉を避ける。これらを実現するために必要なのが観察力です。

相手に興味を持ってよく観察することが、ほめ上手への第一歩と言えそうですね。

■誰でもほめ上手になれる!チャレンジしたい練習法とは?

「ほめちぎる教習所」では、スタッフ全員がほめる技術を身につけるための練習「ほめロープレ」を実践しているとのこと。そこで、私たちにもチャレンジできそうな練習方法を3つ教えていただきました。

◆ほめロープレ・その1「自分をほめる」

まずは自分自身をほめる練習から始めましょう。
明比さんいわく、「自分をほめられるようになると、他の人のいいところにも自然と目が向くようになります」とのこと。

やり方は簡単です。

・今日も一日健康でいられた
・朝ちゃんと起きられた
・字がきれいに書けた

など、どんな些細なことでもいいので、ノートに書き出してみましょう。慣れないうちは意外と難しく感じるかもしれませんが、繰り返すことでだんだんスムーズにできるようになります。1日の終わりに自分をほめるだけの日記をつけてみましょう!

◆ほめロープレ・その2「ボキャブラリーを増やす」

自分が知っているほめ言葉を、すべて書き出してみてください。あなたの中にはどれくらいのほめ言葉がありますか? もしかしたら「思ったより少ないな」とびっくりするかもしれません。

そこで実践したいのが、身近な人やモノをほめる練習。「ほめちぎる教習所」では、10人以上が輪になって、身近なペンやティッシュケースを順番にほめていくチャレンジを行っています。

「ほめ言葉がかぶってはいけないルールなので、最後の方の人は大変です。見た目や使い心地はもちろん、他の人が注目しないところに注目する練習にもなります」と、八田さん。

「1日1個(または1人)お題を決めていいところを10〜20個考えていく」という方法がオススメです。

◆ほめロープレ・その3「逆から見てみる」

どんなにマイナスに思えることでも、見方を変えればプラスになります。

たとえば「仕事が遅い人」も、見方を変えれば「慎重派」と言い換えられます。仕事でミスをしても「今気づいて良かった」と思えばプラスになるし、外出の予定が雨で中止になっても「家でゆっくりする時間ができた」と思えばプラスになります。

「マイナスの出来事に遭遇したときは、ほめボキャブラリーを増やすチャンス。それをポジティブな言葉に変換できれば、どんな相手も無限にほめられるようになります」と、八田さん。

苦手な人や物事を克服したいときは、あえてそれをプレゼンするつもりで相手のいいところを書き出してみましょう。

■今日から使える!究極の「ほめテク」3選

ほめ上手になるためには、上記でご紹介したような考え方やボキャブラリーに関する練習が必要です。
ただし、他にも「すぐ使えるテクニック」があるとのこと。ちょっとした工夫でほめ上手に近づけるテクニック、さっそく教えていただきましょう!

◆テクニック1:お世辞に聞こえない「第三者ほめ」

第三者を通した伝達方式のほめ言葉は、お世辞ではなく本心として受け入れられやすいと言われています。たとえばAさんをほめるとき、「Bさんがあなたのことをほめていたよ」と伝えると、直接ほめるよりも本心として伝わりやすいのです。

八田さん「誰かが別の人をほめていたら、そのことを覚えておいて、後で本人に伝えます。たとえば相手が生徒さんなら、“前の時間の先生がすごくほめてたよ”と言うと、照れながらも喜んでくれることが多いです」

明比さん「第三者ほめは本当にすごく喜んでもらえるので、あえて他の先生に“あの生徒さん、どうだった?”と質問することもあります。こうした質問は、隠れたほめ言葉、ほめエピソードを引き出せるのでオススメです」

第三者ほめは人から人へ伝染していきやすいのも嬉しい特徴です。職場に「ほめムード」を広めたいときは、このテクニックを試してみてください。

◆テクニック2:本人を取り巻く物事をほめる

スマホケースや文房具など、ちょっとした持ち物にこそ、こだわりを持って選んでしまう……なんて経験、ありませんか? 自分が素敵だと思って選んだものを「素敵だね」とほめられれば嬉しいですよね。その人自身のことだけでなく、持ち物に良い印象を抱いたときは、ぜひ素直にほめていきましょう。

同じように、相手の出身校、出身地、職場などについても、自分が「いいな」と感じている部分があれば伝えていきましょう。初対面でも「その学校、野球が強くてすごいですよね」「○○県ってアレが美味しいんですよね」など、ほめる要素はたくさんあります。

ビジネスシーンでは、たとえば名刺を見て「名前の漢字が綺麗だな」と思ったら、その気持ちを素直に伝えてみるのも一手です。

■テクニック3:ほめ言葉+要望をセットで伝える

人と仕事をしていると、「もっとこうしてほしいのに」と、もどかしく感じることもありますよね。とくに慣れない相手や苦手な相手に対しては、そうした不満を感じやすいものです。そんなときは、ほめ言葉と要望をセットで伝えるのがオススメとのこと。

明比さん「誰にでも苦手分野はありますし、失敗するのは嫌なもの。でも、失敗してハラハラしているときに“ここはよくできてるね”と一部でもほめてもらえたら、すごく安心できますよね。この安心感は、人の言葉を受け止めるためにとても大事な要素です。

最初に“できていること”をほめると、相手の心のハードルが下がります。そのタイミングで“ここを変えるともっと良くなるよ”と、提案する形で要望を伝えてみてください」

大事なのは、不満や注意を伝えることより、実際に行動を改善してもらうこと。相手にスッと受け入れてもらうためには、ほめ言葉+要望をセットで伝えるのがポイントです。できていないことを指摘するのではなく、「全体的にはできているけれど、ここを変えると更に良くなる」という形で提案してみましょう。

■要注意!「嘘を言わない」が、ほめ上手の鉄則

「基本的に、ほめ方にNGはない」と語る明比さんですが、一つだけ絶対に守ると決めているルールがあります。それは「嘘は言わない」ということ。

明比さん「たとえお世辞っぽく聞こえたとしても、本当に感じたことならどんどん伝えて大丈夫。それが本心なら、繰り返すうちに相手にも伝わります。
ただし、思ってもいないほめ言葉を言ったり、その人の話が出てもいないのに“ほめられていたよ”と嘘をつくのは、絶対にやめたほうがいいと思います。なぜなら、嘘は信頼関係を壊してしまうからです。一度自分に嘘をついた人に対しては、その後どんなほめ言葉を言われても素直に受け取れないでしょう。本心まで嘘に聞こえてしまっては本末転倒です」

嘘で失った信頼を取り戻すのは、容易ではありません。口先だけでほめようと無理をするのではなく、小さなことでも本当に「いい」と思うところを見つけるスキルを磨いていきましょう。

■達人から見た「本当のほめ上手」とはどんな人?

最後に、お二人から見た「ほめ上手な人」の特徴を聞いてみました。

八田さん「僕は、ほめ上手とは“よく観察する人”だと思います。相手をしっかり見てちょっとした変化を見つけることができる人は、ほめるのが上手です。観察せずにほめようとすると上辺だけになってしまいがち。やっぱり観察力はとても大事です」

明比さん「私は、“笑顔の多い人”もほめ上手の特徴だと思います。同じほめ言葉でも、無表情で言われるより明るい笑顔で言われたほうが、より嬉しいですよね。ほめ上手になりたいなら、まずは笑顔で挨拶+ちょっとした一言を心がけるのが良いかもしれません」

小さな工夫と練習の積み重ねが、ほめ上手への第一歩。まずは身近なできることからでOK! あなたも今日から「ほめ上手」へのチャレンジ、始めてみませんか?

文・構成 豊島オリカ
取材協力 GOOD ACTION(リクナビNEXT)