“春の木”と書く「椿」は、その名のごとく、年初から春先にかけて、紅や白の小ぶりな花をさかせます。
凛と咲き誇る姿だけでなく、凍るような土の上にたくさんの花を美しいまま落とす姿さえも、この上なく可憐な風情で、日本人の心、そして茶人たちの美意識を感じる花であります。
日本で野生している椿は、藪椿(やぶつばき)と雪椿(ゆきつばき)の、わずか2種類のみ。歴史は古く、『日本書紀』にも記録があるほど。欧米で“カメリア”と呼ばれているのも、この椿です。
これからますます朝晩の冷え込みがひときわ厳しくなる冬の京都には、椿の絶景と呼ばれる名所が数多くあります。『和樂』2016年1・2月号より、その一部をご紹介します。
●花尻の森
真っ赤な椿が地面に敷き詰められている様は、まさに美しい自然のじゅうたん。福井に向かう若狭街道の途中、八瀬と大原の境に花尻橋があり、このそばの森に茂っている藪椿(やぶつばき)は、春に強い風が吹くと、あたり一面に椿を散らしたような状態になるのだとか。この場所は、源頼朝が寂光院に隠棲した建礼門院を見張るように命じた、松田源太夫という御家人の屋敷跡との言い伝えが。
京都府京都市左京区大原戸寺町/075・744・2148(京都大原観光保勝会)/椿の見ごろ:3月下旬~4月上旬
(撮影/水野克比古)