OK Goの最新大ヒットMV『I Won’t Let You Down』の振付や、世界の広告賞を総ナメにしたユニクロのウェブCM「UNIQLOCK」の振付を担当するなど、今もっとも注目の振付ユニット・振付稼業air:manのロングインタビュー5本目! 先日出版した、中学校のダンス必修化に向けたテキスト『振付稼業air:manの踊る教科書』では、いったい何を伝えようとしているのか……?
振付稼業air:man・杉谷一隆さん(以下、杉谷) 例えばダンスの授業で“創作ダンス”か“民謡・フォークダンス”か“現代的なリズムのダンス”……といえばヒップホップかな、この3つから選べということになったときに、「ほかのふたつはできないけど、創作ダンスなら子供に表現させればいいからなんとかなるかな」って考える先生が圧倒的に多いように思います。
でも違う方法もあるよって。ヒップホップなら、子供たちととにかくリズムを共有するっていう時間としてストレッチみたいなのを作ってしまえばいいし、民謡・フォークダンスなら、地域の先陣のところに出向いて、盆踊りひとつにしても踊りに意味があるっていうのを教えてもらって、子供に知識としてのダンスを教えるっていうやり方もある。それでそれら全部を持ち帰って、ごちゃまぜにして新たな創作ダンスを作ってみる、ということにしちゃえばいいじゃん、しかも曲は校歌で。っていう流れを1年のカリキュラムでやるっていう方法ですね。
ほかにもいろいろ方法はあると思いますが、「振付稼業air:manとしては今回こういう方法を提示したよ」っていうことです。教科書なのでステップを解説している箇所はあるんですけど、ハウツーというよりは、こういうふうに考えたほうが少し楽にならない?っていう気持ちの流れを解説している本ですね。
Woman Insight編集部(以下、WI) 今回の本を見せていたただくと、中のつくりもちょっとポップなテイストの、本当の参考書みたいになっているんですね。説明があって、図があって、面白いなと思いました。
<『振付稼業air:manの踊る教科書』より>
杉谷 そうですね。これが文部科学省の認定テキストとなると、本物の教科書になってしまって販売物にならないので、東京書籍には「学校の先生の机にもあるし、ヴィレッジヴァンガードにもある、両方に置ける状態にしてくれ」っていう言い方でお願いをしたんです。そしたら「文科省の要綱にのっとって限りなく教科書に近い形にして、なおかつair:manが何をしたいのかをごちゃまぜにした本にしましょう」と言われたんです。つまり、きちんと教材として成り立つ本にしましょうという話をしてくださって。今、限りなく教材に近いダンスの本になっていると思います。これが改訂されていくっていうのが可能性としてあるならば、うちらがこの本をもとにワークショップとして出かけていって、実地研修していくっていうのが今いちばん大切だと思いますね。
WI 今、CMのお仕事を中心にやりながら、新しくやっていきたいのはワークショップをもっと積極的にということですか?
杉谷 教育もそうなんですけど、ワークショップに限らず人と人が接する空間に入っていくことは、もっとやりたいと思っています。教えに行くというより「ああ、こんな感じなんだね」というのをお互い認識しあうような感じですね。先生と生徒が対峙する存在の間に、もうひとつ別の角度から見られる人間がいて、そこでひとつワークショップをやるっていうのは、5年後にちゃんとダンスの授業が定番であり続けられるような構成をみんなで作っていくのに必要なことだと思っています。間違ったダンスとの関わりだと5年後には、ダンスが嫌いな人間があふれている可能性がありますからね。
WI そうですよね。思春期には照れとか斜に構えたりとか、多感な年ごろですもんね。先生が言っても聞かなくても、同じことを第三者が言うことでスッと入ってくることもありますよね。
杉谷 そうなんですよね。その役割をうちらがするというより、その学校の地域のおじいちゃん、おばあちゃんとか、地域のダンスサークルとか地域のダンススタジオとか、そういうところと学校が提携してできる小さなつながりがあちこちでたくさんできて、それがいつの間にか莫大になっていく……っていうのができていく過程に立会いたいです、最終的には。
踊りっていっても、未だにみんな盆踊りはやるじゃないですか。おじいちゃん、おばあちゃんから子供までみんながやるのも、やっぱり「盆踊り」っていう異空間というか、そのときだけのものだからっていうのがあると思うんです。踊りって、そういう特別なことじゃなくて、もっと普通に人が触れ合うっていうことだと思うんですよね。授業になったからとかじゃなくて、音楽聞いて普通にみんながが踊ってるっていう形になれれば、理想論だけど面白いだろうなと思います。
先日、アフリカに行ってきたんです。NHKのドキュメンタリーで、アフリカのセネガルにには、なんかヒップホップの源流があるらしいっていうことで、「“人はなぜ踊るのか”というのをドキュメンタリーにしたい」と言われたんです。で、向こうに行ってアフリカの長老に開口一番「なぜ踊るんですか」って聞いたら、「なんで踊らないの」って返す刀で言われて、2秒で答えがでちゃったんです。で、「これじゃドキュメンタリーにならないな」って言ってたんです(笑)。
それくらい、向こうでは生活に普通に踊りが溶け込んでいる。昔からある踊りだからといって、堅苦しくもないんです。「伝統はその時代ごとのものだから、それを若いやつらが時代に合わせて自由に解釈してゴチャゴチャにしても、それが良ければ10年後20年後にはそれが伝統になっているだろうし、私から若いやつらにアレコレ言う必要はない」って長老が言ってるんです。「私達の世代が教えられることは全部教えたし、後は彼らがそれをどうしようが、構わない。ただ“ダンス”というコミュニケーションはなくなりはしない」って。それだけのすごくシンプルな考え方なんです。
でも日本人はどうしても踊りに意味をつけたがるところがあるので、「悲しいから踊る」とか「雨が降ったから踊る」とかになるんですよね。長老は「なんで踊るか」の問いに「楽しいからだよ」と答えたので、「悲しいときに踊ったりしないの? 日本ではそういう文化もあるんだけど」って聞いたんです。そしたら「ないよ。何言ってんの。悲しいときは泣くだけじゃん」って言う(笑)。すんごく、シンプル。そこはもう根が違うんだけど、きっとそういうふうに普通に踊りが生活の楽しみとして寄り添っているから、きっと彼らは学校でダンスの授業なんてないだろうし、システムに組み込まれることもないだろうなと思うんですよね。
WI すべてを無理やりダンスにつなげようともしていないですもんね。
杉谷 そう、そうなんですよ。すごくスマートだなあって。そういうふうになれれば、見事なコミュニケーションツールになるのになって。必要なときに必要に応じて、周りにいる人だったりをちゃんと楽しませたり、悲しませたり、危険を察知させたりするために、普通に踊りが存在しているので、すごいなって思うんですよね。そういうのって、大事だなって思うし、それがダンスの可能性かなと。
WI 本当にコミュニケーションツールですよね。
杉谷 ダンスを好きでいるからこそ、できる空間を作らないといけないなと思うし、そのために必要なダンスのアウトプットも作らないといけないなと思うんです。教科書……この本の理想は、この本を読んだ人がダンスを好きになって、振付師っていう職業があるんだ、っ思ってくれて、air:manっていうユニットがあるんだって知ってくれて、あわよくばair:manに入ってくれたら、一番モトが取れるというか(笑)。そんなふうになれればいいなと思いますね。振付師になりたいなって思う人が増えたら嬉しいです。
ダンスに触れる機会が増えるからこそ、これからの中学生にはダンスを好きになって欲しいし、現状のダンスに携わる職業が限られた状態を打破しないと、ダンス好きが増えてもそれを仕事にすることができない。自らが踊るだけではなく、他人を躍らせるプロフェッショナル・振付師という職業をもっと確立したい……。そんな願いと使命感を持って出版した『振付稼業air:manの踊る教科書』。air:manのメンバーも3年かけて現状を学びながら作ったという渾身のテキストになっています! 次回は振付師という職業について、深く聞いていきます!(安念美和子)
【air:manインタビュー】
★1本目→ OK Goの最新MVを担当!教科書も出版!?今もっとも熱い振付ユニット、振付稼業air:manインタビュー(1)
★2本目→ 振付業界の曖昧さに挑戦し続けて10年!振付稼業air:manインタビュー(2)
★3本目→ 「ギャラは1人分、仕事の出来は人数の乗数倍」で作り上げた実績~振付稼業air:manインタビュー(3)
★4本目→ 中学のダンス必修化を良い方向へ導きたい!振付稼業air:manインタビュー(4)
『振付稼業air:manの踊る教科書』(¥2,160/東京書籍刊)
http://www.amazon.co.jp/dp/448780796
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