女33歳。いちばん恐いのは、やりたいことがわからないこと【貯金1500万の女】Vol.3

突然告げられた理不尽な異動。おとなしく従うべき? 拒否して会社を辞めるべき?

私が異動したくないのには、出世ややりがいより大切な理由があって……。

「ゆとり以上バリキャリ未満のリアル」を生きる33歳のOL、マユに訪れた突然の転機。今どきの「女の幸せ」ってなんだろう? 世代を超えて共感必至の、女の人生ルポルタージュ、第3回。

★Vol.1はこちら→ 突然告げられた理不尽な「異動」。33歳、何が正解?

★Vol.2はこちら→ 男にも、会社にも、裏切られっぱなしです

Vol.3  いちばん恐いのは、やりたいことがわからないこと

重い女なのはわかってます


宣伝部からタレントマネージャーに異動を告げられてから2か月の間に、マユは4回人事担当者との面談を重ねた。異動先の仕事も決まっていないし、そもそも異動を承諾していないが、宣伝部の仕事の引き継ぎは淡々と進んでいる。

「キャリアアップの希望がもてない」というマユの訴えに対し、人事担当は「とりあえずやってみて」「現状は改善する」「働き方改革だから」と主張するばかり。そんなことより結婚したいのだ、という本心を話せるわけもなく、人事が解決策を提示できるわけもなく、平行線は続いている。

「『働き方改革』ってうるさく言うけれど、働く人のことも考えず、具体的な先行きも見えないんじゃ、いったいなんのための改革だって話ですよ。そもそも私の残業時間ってどう考えても増えますよね? 今までやってきたことがゼロになっちゃっても、改革だからしょうがないんですか? そのせいで結婚できなかったら、どうしてくれるんですか?」

 

言いたいことはいっぱいある。これまでは、ひとりで抱えて悶々としていたけど、今はうなずきながら聞いてくれる人がいる。1か月前に渋谷でナンパされてデートをするようになった、育三郎だ。

まだどちらから告白もしていないし、手もつないでいない。でも、育三郎の将来をまっすぐ見据えているピュアな瞳に、マユはぞっこんだ。8歳も年下だけど、とっても尊敬できる。そして勝手ながら、ふたりの将来のシナリオもできている。

 

「彼は今年いっぱいで、きっと会社を辞めることでしょう。そして、2年後からの海外留学に向けての準備を始める。勤務期間から考えて、それほど貯金があるとは思えないから、留学準備中の生活費くらいは、私が面倒みてあげてもいいなって思ってます。私には、自宅通勤の強みで平均以上に貯金だけはあるから。それまでは、今の仕事も仕方ないけど、続けてもいいかなって。私がヒマしてたら、彼の勉強のジャマになりかねないし、もっとお金も貯めたいし。

2年経ったら会社を辞めて、育三郎の海外留学について行くつもりです。そうなるとしたら、それまでに私も英語の勉強しなくちゃですよね。

……なんて、彼に言ったら、重い女だと思われますよね。それはさすがにわかってますけど」

 

 

やりたいことがわからない


5月30日。マユはマネージャーとして正式に異動となった。

さんざん人事担当と話をしてきたものの、正式な発表はさらりとメールで送られてくるのみ。添付されていた新任表には、自分の他に10人以上の名前があって、長時間勤務になりがちなマネージャー職の「働き方」を「改革」しようとしているのは、よくわかる。以前の担当表と比べても、確かに社員ひとりあたりの負担は減っているように見える。

マユの担当は、中堅タレントのHがメインで、サブ業務として文化人Yのサポート。発表メールがきた次の日には、前任者の引き継ぎもそこそこに、Hのテレビ収録現場への送り迎えをし、打ち合わせに同席し、翌日の業務連絡をして、それから、Yの飛行機チケットを手配して…。約10時間みっちり働いた。

「これでも、増員されたぶんだけ、楽になってると思います。でも、やっぱり疲れたー!

で、ひと息ついたところで、気づいたんです。私の前任者は21歳の若い男子だったってことに。もちろん、わかってはいましたよ。でもやってみれば、なるほど、これは21歳の男子がやることだなって。33歳の私がやることじゃない。

なんで私が、って、ずっと思っていたことは、これでした。33歳なりにひと工夫加えて、担当のHさんやYさんが働きやすいようにサポートしてあげることは、できるでしょう。でも、それをやったところで…? 自分にとっての仕事の喜びとかその後のキャリアがまったく見えない。結婚できる保証もない。

でも。もし、育三郎とのことがシナリオ通りにいくんだったら、ガマンして働きます。一緒に海外に行くまでのつなぎとして。でも、そうじゃないんだったら…。どうしたらいいんでしょう」

 

本当は育三郎に、彼の海外行きのことや将来のプランについて、もっと突っ込んで聞きたい気持ちでいっぱいだ。だって、自分の将来にも関わるかもしれないんのだから(あくまでもシナリオ上は)。でも、あまり質問攻めにして、“グイグイいく感”は出したくない。8歳年上の女としての焦りを見せたら、その時点で嫌われてしまいそうだから。またもや、マイナス思考のスパイラルだ。

 

転職先を紹介してくれるという知人もいるのだが、どうも気が乗らない。転職エージェンシーに登録するのも面倒。まったく納得はできないけれど、今は配属されたばかりのマネージャーの仕事を粛々とこなしている。

そうしながらもときどき、見て見ぬふりをしている、いちばんの恐怖が襲ってくることがある。

「やりたいことがわからない」という恐怖だ。

 

Vol.4 貯金1,500万円の意味 に続く。

 

文/南 ゆかり
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。

 

【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】連載一覧

 

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